第86話 大胆な私?
夕飯はお父さんも交え、楽しく過ぎた。司君は、いつもよりも言葉数が多く、ペンションでのことや、スキーのことを話していた。
「いいな、スキーしてみたい」
守君がボソッとそう言った。
「今度行けるよ。きっと、守が行ったら、穂乃香のご両親喜ぶよ」
司君は笑顔でそう守君に言った。
「電話、いつしたらいいかしら。いつが一番忙しくない?」
お母さんがそう聞いてきたので、
「夜だったら10時過ぎ、午前中なら11時ころかな」
と私が答えた。
「じゃ、10時になったら電話してお礼をしておくわね、司」
「うん。頼むよ」
司君はそうお母さんに言った。
「穂乃香、夕飯すんだらゲームしようぜ」
守君はウキウキしながら言ってきた。
「守、穂乃香は疲れてるんだ。ゲームなら明日な」
私が何も言う前に、司君がそう答えた。
「兄ちゃんに聞いてないよ」
「ごめんね。守君。明日ね」
私は守君に思わず、そう言ってしまった。
「ちぇ~~~。ずっと、穂乃香が帰ってくるのを待っていたのにさ!」
守君はすねてしまった。
「お前には彼女いるだろ?名前はなんていうんだ?」
「…教えない」
守君はふくれっつらのまま、そう答えた。
「いいんだぞ?のろけまくっても」
司君が面白がってそう言っている。
「の、のろけるもなにも!そんなのろけるようなこと、なんにもないからっ!」
守君はそう言うと、席を立ってリビングに行った。
「本当に何もないみたいよ?」
お母さんが小声でそう言ってきた。
「え?」
「デートもしていないみたいだし。守、付き合うっていってもどうしていいかわからないみたい。今度相談に乗ってあげてよ、司」
「俺が?無理だよ。俺だってわかんないよ」
「え~~~、あんたは穂乃香ちゃんと付き合ってるじゃない」
眉をしかめた司君に、お母さんがそう言うと、
「…それは、その…。穂乃香が寛大だから付き合っていけるんであって、他の子とだったらきっと、もっと前に愛想つかされてたと思うよ?」
と、司君はポーカーフェイスのまま答えた。
「なるほど」
お母さんは、変に納得している。
「わ、私が寛大?」
その言葉に私はびっくりしてしまった。
「うん」
司君はうなづいた。でも、私はその横で首を振った。
「寛大なのは司君で、私はただ、司君が大好きってだけで」
そう口から出てから、しまったと思い黙り込んだ。なんか、すんごいことをご両親のいる前で言ってしまったよね。
「…」
司君は耳を赤くしてうつむいた。あ、ポーカーフェイスが思い切りくずれたらしい。そして、
「穂乃香ちゃんは、本当に司が好きなんだなあ」
と言って、お父さんがわっはっはと笑った。お母さんもふふふと笑い、
「よかったわねえ、司」
と司君の背中をたたいていた。
「う…」
司君は、何かを言い返そうとしたけど、言葉が出てこなかったらしく、
「ごちそうさま」
と言って、さっさとダイニングから廊下に抜けて行ってしまった。
あ、また取り残された。私は慌てて、残っていたお味噌汁をすすってから、
「ごちそうさまでした」
と、食器を片づけにキッチンに行った。
「穂乃香ちゃん、後片付けはいいわよ。疲れたでしょう?もう司の部屋で休んで」
「はい」
私はそう答え、2階に上がりながら、今お母さんが言ったことを思い返して真っ赤になった。
お、お母さん。司の部屋で休んでって言ってなかった?!
2階に上がり、私は躊躇した。司君の部屋、本当に直行してもいいのかな。司君、どう思うかな。でも、司君に今すぐにでも抱きつきたいような気もする。そう思い、そのまま私は司君の部屋に直行した。
トントン。
「司君」
「穂乃香?どうぞ」
司君が部屋の中からそう答えたので、部屋を開けると、なぜか、司君の部屋のベッドに私のパジャマや枕が置いてあった。
「あれ?これ、司君持ってきたの?」
い、いつの間に?
「いや。部屋に入った時から、ここにあるから、母さんじゃない?」
どへ~~~~!!それで、司の部屋で休んでって言ってたの?
「俺のベッドじゃ狭いから、穂乃香の部屋に布団敷いたほうがよくない?穂乃香」
へ?つ、司君、お母さんがこんなお茶目なことをしても、なんとも思わないの?恥ずかしかったり、照れくさかったりしないの?
「あ。うん。えっと」
困っていると、司君がいきなり抱きしめてきた。
「え?」
「今日は、思い切り、抱くからね?」
どひゃ!
ずっと長野で、司君と別々の部屋で寝ていた。時々キスしたり、抱きしめられたけど、でも、2人で抱き合ったままっていうこともなく、父の目もあって、司君も私に急接近するときが少なかったし。
だから、こんな状況、久しぶりだからかすんごく戸惑う。胸が最高潮になるくらい、ドキドキしている。
「つ、司君」
「ん?」
「えっと」
「ん?」
司君はすでに私をベッドに押し倒していた。そして、耳や首筋にキスをして、私の服を脱がしだしている。
「あ、あの」
「何?穂乃香。あ…、まさか、今日駄目とか?」
「………」
司君が熱い視線で私を見ている。
「つ、司君、今、ドキドキしてる?」
「え?ううん。なんで?」
え?!なんで?なんでって聞くの?司君は私みたいに、ドキドキしないの?こっちがなんでって聞きたい。
「ド、ドキドキしないの?」
「穂乃香、してるの?」
「うん」
「…どうして?」
「ど、どうしてって。だって、こういうのもなんだか、久しぶりで」
「うん」
「だ、だから、なんだか…」
「……くす」
あ、笑われた。
「可愛い」
司君はそう言って、私にキスをしてきた。それも、どんどん熱いキスに変わっていった。
あ、あれ?
ドキドキドキ。っていうのが、なんだかなくなってきたよ?
っていうか、なんで私、司君のこと思い切り抱き寄せちゃったかな。それも、ぎゅうって。
「穂乃香?」
「つ、司君」
「うん」
「ギュウって、思い切り抱きしめてもらってもいい?」
「うん」
司君もギュウって抱きしめてきた。うわ。うわあ。嬉しい。
ギュウ。私も司君を抱きしめた。
「待って、穂乃香」
「え?」
「俺も服脱ぐから」
ドキン。
司君はまだ、Tシャツとスエットを着ていた。それらを脱ぐと、私の下着も脱がしてまた抱きしめてきた。
「穂乃香の肌、直に感じたかったんだ」
うわわ!それ、私も…。
司君の胸にこうやって抱きしめられるだけで、すんごく幸せ。
そして…。
司君のぬくもりを直に感じ、司君にいっぱいキスをしてもらって、私はずうっとうっとりしていた。
幸せだ。胸がどんどん満たされている。ドキドキって高鳴っていたのに、今はそんなときめきよりも、満足感のほうがある。
それに、私、自分でも感じている。前とは違う。違っている。どこがって…。
それは…。
「司君」
「ん?」
「好き」
「うん」
「大好き」
「うん」
そう言って私はさっきから、司君を抱きしめたり、司君の髪を撫でたり、自分から司君にキスしちゃったりしているんだ。
どうしちゃったんだ。自分でもびっくりだ。司君の頬にも、おでこにも、髪にも、耳にもキスしている。
「穂乃香…くすぐったい」
司君が首筋にキスをしたら、そう言った。
うわわ。私、司君の首筋にキスしてたんだ。きゃ~~~。
なんで、私、こんなに大胆になってるの?!
「穂乃香…。今日、どうしたの?」
司君も、そう聞いてきた。ああ、司君も感じていたんだ。私が違っていることを。
「わ、わかんない。自分でも」
そう言って私は、司君の背中に回していた腕をそっとほどいた。
そして、自分の体の横に腕を伸ばした。まっすぐに伸ばし、目を閉じた。まな板の鯉状態のように。これがいつもの私だ。
ううん。前だったら、恥ずかしくなると、体をねじったり、胸を手で隠したりしてた。
司君が私の胸元にキスをしてきた。キュキュン!キュキュキュキュ~~~~ン!!!
あ、あれ?なんでまた、私、司君の髪、撫でちゃってるのかな。でも、愛しくって。
「つ、司君」
「ん?」
司君が顔をあげて私を見た。
ああ、司君の目、優しい。
あ、あれれ?私、なんで司君の両頬を持って、私の顔に近づけているのかな。でも、止まんない。
そして、私からキスをしていた。
やばい~~~~~~~~~。
司君がめちゃくちゃ、愛しい~~~~~~~~。
愛しくって、愛しくって、胸から熱い想いが溢れちゃって、溢れちゃって、止まんないよ~~~~~~。
「穂乃香?」
唇を離すと、司君がまた、聞いてきた。
「やっぱり、今日の穂乃香、なんだか大胆…」
う…。そうは言われても。
「い、嫌?」
「嫌じゃない。ただ、ちょっとびっくりしてる」
「だ、ダメ?」
「駄目じゃないよ?う…、嬉しいよ?」
司君が顔を赤くしてそう言った。
ほんと?本当に?こんな私に呆れたりしない?ドン引きしていない?ほんと?じゃ、じゃあ、もっと大胆になっても大丈夫?なんて聞けない。でも。
でも、でも、でも、でも!
ギュ!私はまた、司君の首筋に両腕を回した。そして司君の顔を私に近づかせ、キスをしていた。
私だって、自分が変だってわかってる。うん、わかっているけど…。だけど…。
司君が愛しすぎちゃうよ~~~~~~~~~!!!!
何回も私からキスをした。私から司君を抱きしめた。何回も、好きって言ったような気がする。
司君の髪を撫でた。司君の目を熱い目で見ちゃった。司君の指に自分から指を絡めた。
こんな自分に、びっくりだ。
司君は、私の枕をどかして、私に腕枕をしてくれた。そして私が司君の胸に顔をうずめると、
「穂乃香、どうしちゃったの?」
と聞いてきた。
う…。どうしちゃったのって聞かれても。
「わかんないよ」
私はそう言った後、なんだか恥ずかしくなって、もっと顔を司君の胸にくっつけた。
「くすぐったいよ、穂乃香。まさか、俺の胸にキスしてるの?」
「違うよ!」
そんなことしてないよ~~~~。
「なんだか、今頃になって恥ずかしくなってきただけだもん」
「え?」
「……」
黙っていると、司君は私の髪を撫でた。
「俺、ちょっとびっくりしたけど、でも…」
「うん」
「………嬉しかったよ?」
「ほんと?」
「うん」
「本当に?でも、変だって思ったよね?今日の私」
「いつもと違うなって思ったけど、変だなんて思ってないよ?」
「…」
私は黙って、まだ司君の胸に顔をうずめたままでいた。
「穂乃香」
「うん」
「本当に変だなんて思っていないから、いいよ」
「え?」
「もっと大胆になっても全然大丈夫」
「え?!」
何言ってるの?司君。
「だ、大胆になんてならないよ」
「なってたよ?」
「こ、これ以上はならないから」
「本当に?」
「ほんと!」
「あはは。残念だな」
もう~~。また、からかったんだ。
「あれかな。もしかすると、何日も俺に抱かれていなかったから、禁断症状出たのかな。あ…」
「な、なに?」
「欲求不満だったとか?」
「ち、違うよ~~~~!!」
う。違うとは言えないかも。もしかすると、もしかしてそうかも。でも、そんなこと言えないし。司君はくすくす笑っているし。
「俺は欲求不満になってたよ?ずっと我慢していたんだから」
「え?」
「穂乃香を押し倒したくって、何回もうずうずした」
ええ?いつ?
「だから…」
司君はそう言うと、また私の上に覆いかぶさってきた。
「司君?」
「もう一回…ね?」
「……」
私がまだ、何も答えていないうちから、司君は熱いキスをしてきた。
うわわわ。やばいっ!!
嬉しがっている自分に、自分でびっくりしているよ~~~。
やっぱり、私、欲求不満だったのかな…。
そして、司君のぬくもりに包まれ、その日は裸のまま抱き合って寝てしまった。




