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第55話 司君のギャップ

 翌朝、目が覚めると、目の前に司君の顔。スウスウってまだ可愛い寝顔で寝ていた。

 司君は起きている時よりも、寝顔のほうが可愛いし幼くなる。無防備な寝顔は、思わずキスをしたくなるくらい可愛い。

 チュ。おでこにそっとキスをした。司君は、起きなかった。


 あ、昨日あのまま寝てしまったから、電気もつけっぱなしだ。私はベッドからそっと抜け出し、電気を消しに行った。電気を消しても、外の明るい光がカーテンを閉めていても、部屋の中に入っていた。


「穂乃香?もう起きるの?」

 え?

「うわ。司君、起きてたの?」

「穂乃香のキスで起こされた。おでこにキスしたよね?」

 

 きゃわ~~!私、今、素っ裸!

 慌てて、またベッドに潜り込んだ。

「どうしたの?」

「え?」


「なんで慌てて入ってきたの?」

 司君は寝ぼけ眼でそう聞いた。

「だって、私今、素っ裸だったんだもん」

「うん。…だから?」


「恥ずかしいもの」

「え?そうなの?」

 え?そうなの?って何で、聞いてくるの?

「もう、恥ずかしくなくなったかと思った」


「なんで?恥ずかしいよ。まだ」

「そうなんだ…」

 司君~~!そんなに簡単に、恥ずかしい想いは消えたりしないんだからね。

「じゃ、一緒にお風呂とか」

「無理!」


「………そうなんだ」

 司君がやけにがっかりしているのがわかった。

 司君は、クールな印象だし、真面目そうだから一見、そう見えないけど、けっこうエッチかもしれない。と思って、思い切ってそう言ってみた。


「うん。俺だって、普通に高校生の男子だし」

「………」

 そうだよね。そりゃそうだよね。でも、そんな話を男子としていたり、エッチな本を読んだりしているイメージはまったくないんだけど。


「弓道部の連中としてるけど?あいつらだって、普通に男子だし」

「わ、私とのこと、まさか、話していたり…」

「しないよ。安心して。そんなこと話して、もし先生にばれたらやばいじゃん」

 ほ…。良かった。


「穂乃香」

 あ、あれ?司君が抱きしめてきた。そして髪にキスをしたり、おでこにキスをしてきた。

「穂乃香のキスで起こされるって、いいね…」

 …。違うの。起こしたかったわけじゃなくて、可愛かったからキスしただけなの。でも、言えないよね。そんなこと恥ずかしくて。


「学校行かないで1日こうやっていたい」

「私も。でも、行かなくっちゃ」

「…穂乃香とずっと抱き合っていたい」

「うん。でも…行かないと」


「穂乃香をもっと感じていたい」

「で、でも、起きないと」

「穂乃香は?俺からそんなに早く、離れたいの?」

「ま、まさか~~~」

 こうやってギュッて抱きしめてもらっているのが、すごく幸せなのに。


「じゃ、今日、さぼる?」

「だ、ダメ。だいいち、お母さんが起こしに来るよ。さぼるなんて言ったら、絶対に怒る」

「母さんが?うちの母さんが?」

「…もしかして、怒らない?」

「多分、怒らないで、ほっとくと思う」


「………でも、ダメ。やっぱり、行かなくっちゃ。2人で休んだりしたら、なんて言われるか」

「誰に?」

「クラスのみんなに」

「言われる?もう、俺らのことなんて興味ないよ、あいつら」

「そんなことないよ。まだまだ、司君はモテモテなんだから」


「………はあ」

 司君、なんでため息?

「穂乃香を抱きしめていたいのにな」

「……」

 なんだか、だんだん、聞いてて恥ずかしくなってきた。司君って、私の中のイメージだと、こんなことを言うキャラじゃないって思ってたのにな。

 でも、嬉しいけど、こんなことを言う司君も可愛いけど。


 7時を過ぎ、私は抱きしめている司君の腕から抜けた。そして、ベッドの下に転がっている下着を拾い、布団の中でもそもそとつけた。

「起きるの?」

 司君が聞いてきた。


「だってもう7時」

「…もうちょっと」

 司君はまた、私を後ろから抱きしめてきた。う…。今、ブラジャーをつけようとしたところだったのに。

「司君ももうそろそろ起きないと」


「…もうちょっと」

 司君ってば。なんだか、今日は甘えん坊になっている気がする。

 っていうか!なんでつけようとしていたブラを外そうとしているの?

「司君、ダメ」

「……もう、服着ちゃうの?」


「着るよ~~。制服着ないと…」

「もうちょっと、裸でいない?」

「駄目。もう下に行くから」

「わかった。俺も起きるよ」

 司君はそうは言ったものの、なかなか布団から出ない。あ、もしかして素っ裸だから?そんなことないよね。今までだって平気で布団から出て、服を着ていたし。


「穂乃香、着替えないの?」

「着替えるよ。だから、後ろ向いててね」

「え?!なんで?」

「恥ずかしいから」

「……まだ、恥ずかしいの?」


「恥ずかしいのっ!」

 そう言うと、司君はようやく布団から這い出て、自分の服を着だした。私はその隙に、パジャマの上を羽織り、パジャマのズボンも一気に履くと、さっさと自分の部屋に戻った。


 司君、私が着替えるところを見るために、ベッドからなかなか出なかったんだな。

 ああ、もう。司君がどんどんスケベになっていっている気がする。

 それとも、男の人ってみんなこうなのかな。


 まさか、麻衣や美枝ぽんに聞けるわけもないし。あ、もうちょっとしたら、麻衣も彼氏とラブラブになって、いろいろと聞けるようになるかしら。


 それにしても…。

 一階の洗面所に下りて、先にもう顔を洗っている司君を見た。なんだか制服のYシャツの司君の後姿にも、キュンってしてしまう。

 

 朝ごはんは、今日は和食。隣りでお味噌汁をすすっている司君の横顔にまでキュンってしてしまい、お箸がしばらく止まってしまった。

「どうしたの?穂乃香ちゃん。ぼ~~っとして。もしかして、熱?」

 お母さんが、湯呑み茶碗をテーブルに置きながら聞いてきた。


「え?い、いいえ」

 司君に見惚れていただけです。なんて言えない。

 司君は、ちらりと私を見た。でも、すぐに視線をまた前に向けた。 

 司君の表情は、ポーカーフェイス。


 司君は食べ終わると、いつものごとくメープルと遊びだした。

「昨日は遅くまで勉強してたの?司。お父さんが帰ってきたのが、12時を過ぎていたんだけど、司の部屋、電気がついていたって言ってたわよ」

 ギク。


 お母さんは、リビングでメープルとじゃれている司君に聞いた。

「それで今日は、朝起きてくるのが遅かったの?守が2人とも寝坊かよって、ちょっとがっかりしながら出て行ったわよ」

「がっかり?」

「穂乃香ちゃんに、朝、見送ってほしいのよ。ギリギリの時間までいたわよ」


 そうだったんだ。2階で司君が私をなかなか離してくれない間、一階では守君が私を待っててくれてたんだ。

「ふうん」

 司君はまた、表情が消えた。でも、メープルが司君の背中に飛びつくと、

「重い。メープル」

と言って、爽やかに笑った。


 お母さんに見送られ、家を2人で出た。外でも司君の顔は、ポーカーフェイス。

「……」

 私は何かを話しかけようとした。でも、なんだか言葉が出てこない。司君もただ黙って、歩いている。


「司君」

「ん?」

「なんでもない」

「………。何?」

「なんでもないの」


 司君はいきなり私の顔に顔を近づけ、私の顔を覗きこんだ。

「なに?」

「穂乃香が、今朝はちょっと変」

「え?」

 何が?どう変?


「熱出ちゃった?」

「ううん。大丈夫。ただ…」

「うん」

 司君がちょっと心配そうに私を見ている。


「司君にドキドキしているだけだから」

「………は?」

「い、今も。なんか話したいんだけど、話す言葉が出てこないの。ドキドキしてて」

「……なんでドキドキ?」


「わかんない」

「ふ…。面白いね、穂乃香は」

 司君はドキドキしないの?もう…。なんて思っていると、司君は私と手を繋いできた。

「ちょっとだけ、手、繋いであるこ…」

「うん」


 ああ。手を繋いでくれたのにもドキドキしてるよ。私って、重症?今さらって思ってるよね?司君。

 でも、司君って、なんだかまた男らしくなった気がするの。私の気のせいかもしれないけど。


 小道を抜け、人通りのある通りに出ると、司君は手を離した。そこには、時々同じ高校の生徒もいたりする。

 私が知っている人はいないけど、司君は多分中学の後輩だろう。向こうは、司君を怖がっているのか、声をかけてこないけど、ちらちらとよくこっちを見ている時がある。


 私と司君は、ちょっとだけ距離を開け駅まで歩き、電車に乗った。電車にも同じ高校の生徒はいる。だいたいが男子だ。

 女子はと言うと、もう1本くらい遅い電車に乗る。理由は、聖先輩がその電車だからだ。


 司君人気もすごいけど、やはり片瀬江ノ島では聖先輩にはかなわないようで、聖先輩とたま~~に同じ電車に乗り合わせると、女子がやたらと多く、それもみんなが浮き足立っているのがわかった。

 私も去年だったら、聖先輩を見かけるだけで、きゃ~きゃ~言っていたかもしれない。だけど、今は隣の司君に、なんだかときめいてしまっている。


 付き合って、数か月。それでもまだ、ときめいているのって、変かな。

 昼休み、私は小声で麻衣にそんなことを聞いてみた。美枝ぽんは購買部にパンを買いに行っていていなかった。

「いいんじゃない?それ最高だよ。理想だと思うよ」

「理想?」

「付き合ってもときめいてるなんてさ。あ、でも、なんだかときめいちゃうようなことを、司っち、してきたんじゃないの?」

 どひゃ。


 いけない。昨日の夜のことを一気に思い出した。私、真っ赤かも。

「真っ赤だよ。穂乃香。何かあったな~~」

「な、な、何もない」

 いや、あった。でも食堂で話すような内容じゃないよ。今日は外、かなり冷え込んでいたから、食堂に来ちゃったけど。


「司っちって、涼しい顔してるけど、どうなの?」

「え?」

 どうって?


「穂乃香といると、甘えて来たり、べたべたしてきたりするの?」

「甘えるなんてことはしないけど」

 いや、待てよ。今朝のあれは、甘えているって言ってもいいのかな。

「ふうん」

「なんで?麻衣の彼氏は?」


「甘えないよ。でも、時々可愛いことを言うの」

「どんな?」

「麻衣といると、癒されるなあ…とか」

「…他には?」

「今日は、ずっと一緒に居たいなあ…とか」


「そういうこと言われたら、麻衣、どうするの?」

「…なんにも答えない」

「え?なんで?」

「嬉しいから、黙ってにやけてる」

「ふ、ふうん」

 そうなんだ。やっぱり、そういうこと言われたら嬉しいよね。


「男の人も甘えん坊なのかな」

 私がそう言うと、麻衣は、

「うん。男の人のほうが甘えん坊になって行くと思うよ」

と答えた。


「どんどん?」

「多分ね?」

「…と、藤堂君もかな?ちょっと想像つかない」

「え~~~。いまだに、甘えてこないの?本当は2人っきりでいたら、甘えてるんじゃないの?穂乃香にごろにゃんって」

「まさか」

 私は首を横に振った。司君が、ごろにゃんだなんて。そりゃ、抱きしめて来て、可愛いことは言って来るけど。

 でも…。


「甘えてきたらどうするの?司っちってそんなイメージ全くないし、穂乃香、幻滅する?」

「……しないと思うけど」

「けど?」

「甘えてくるかな。そんなに…」

「わかんないよ~~~~~~」

 麻衣はそう言うと、私の腕を突っついた。


「は~~。混んでたよ。あんまりいいパンも残ってなかった」

 疲れた顔で美枝ぽんが席に来た。

「じゃ、美枝ぽんもきたし、お昼食べようか」

「あ、待っててくれたの?ごめんね~」


 私たち3人はお昼を食べだした。

 食堂の窓際では、いつものごとく弓道部のみんながいた。あの部は、本当にみんな仲がいい。クラスの子たちより、ああやって部で集まってお昼を食べてしまうくらい仲がいい。


 その中に司君もいる。司君は、部のみんなといると、けっこう大笑いをしてみたり、ふざけていることすらある。

 そういえば、エッチな話も部の仲間とならするって言ってたけど、それも全く想像つかないんだよね。

 いつも涼しげな顔をしているからかな。


「穂乃ぴょん」

「ん?」

 美枝ぽんが声を潜めて、私の腕を突っついた。

「あの、弓道部のすぐ横にいる3年生の女子いるでしょ。あれ、みんな藤堂君狙いだよ」

「え?」


「卒業までに仲良くなろうという魂胆みたい」

「なんでそんなこと知ってるの?美枝ぽん」

「この前、廊下でそんな話をしているのを、偶然にも聞いてしまったのよ」

「へえ。でも仲良くったって、穂乃香がいるんだし、無理じゃないの?」


「ああ、麻衣、わかってない。穂乃ぴょんと藤堂君は、別れる寸前なんじゃないかとか、あんまり仲良くないんじゃないかとか、そんな噂もあるんだよ」

「まだ、そんなこと言ってる人がいるの?」

「ほら、瀬川さんが流していた噂。あれも、実は本当なんじゃないかって、あの4人もこそこそと言ってた」

「4人?」


 私が聞くと、美枝ぽんは、今度は私たちのテーブルからさほど離れていないテーブルを指差した。そこには、2年の女子が座っていた。

「隣のクラスの子たちだよね」


「あの辺も、藤堂君狙いなの。前は聖先輩にひっついてたけど」

「ああ、覚えてるよ。ね?穂乃香。あの4人も去年の文化祭で、先輩にタオルやポカリを渡そうと、頑張ってたよね。でも、聖先輩に冷たくあしらわれてたけど」


「穂乃ぴょん。しっかりと藤堂君をつかまえてないと知らないよ。狙ってる子はたくさんいるんだから」

「狙ってるって、どう狙うの?」

 私が聞くと、麻衣と美枝ぽんは顔を近づけ。

「クリスマスあたりに、プレゼントを渡すとかしてくるのかな」

「一人でいるところを狙って、話しかけてくるとか」

と小声で言った。


「やっぱり、穂乃ぴょん、そろそろ覚悟が必要」

 美枝ぽんはそう言うと、私の腕をまた突っついて、

「クリスマスに、あげちゃいな」

とウインクしながらそう言った。

 あげるもなにも、もうすでに…。でも、私は何も美枝ぽんには答えず、黙々と昼ご飯を食べた。


 放課後、部活が終わり、美術室で待っていた。

 今日まで部活があるが、明日からテスト前で、部活動は休みになる。


 美枝ぽんと麻衣が、また司君に数学を見てもらいたいと言っていたけど、私としたら、早くに家に帰って、2人っきりで勉強を見てもらいたいってのが本音だ。

 だけど、2人にはそんなことを言えず、「藤堂君に聞いてみるね」なんて、笑顔で言ってしまった。


 どうするかなあ。司君のことだから、いいよって言うだろうな。

 と思いつつ、司君が美術室に迎えに来てすぐに、そのことを聞いてみた。

「いいよ」

 やっぱり、あっさりと答えてくれた、司君ってば。


「じゃあ、そう麻衣たちに言っておくね」

「だけど、1日だけだよ?」

「うん」

「他の日は、穂乃香と勉強するから。2人きりで」

「うん」


 司君、美術室に誰もいないからって安心して、私のことを呼び捨てにしてるな。

「それから…」

 司君は後ろを振り返ると、ドアが閉まっているのを確認して、また私のほうを向き、ぐいっと私を抱き寄せた。

 ドアは司君が閉めた。自分で閉めておいて、また確認するなんて…。


「みんなの勉強見ている間は、穂乃香と2人きりになれないんだ。だから…」

 だから?

「二人きりでいる時には、覚悟しておいて」

 覚悟?え?なんの?!


「俺、べったりくっつくからね」

 え~~~~!!!!

 司君はそう言うと、キスをしてきた。

 わあ。だから、学校でそういうあっついキスは……。


 今日、1日、教室にはいった時から、私には声もかけず、ポーカーフェイスだった司君。部活に行く間も、ちょっと距離を開け、涼しい顔をしていた司君。でも、2人きりになると、こんなになっちゃうなんて。


 そのギャップに私は、いまだについていっていない。

 



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