第4話 見つかった!
雑誌を見た後に、クローゼットの引き出しを開けた。今持ってる下着って、どうなのかな。真っ白のを司君は好みそうだって麻衣と美枝ぽんが言ってたけど、あるものはある。だけど、こんなの、どうなのかな。
っていうか、真っ暗にしているなら、下着も見えてないよね。
う…。でも、真っ暗と言っても、外の街燈の明かりで、ちょっとは見える。特に暗闇に目が慣れてくると、だんだんと見えて来たりするものだ。
あれ?でも、色まではわかんないんじゃないの?白でもピンクでも。
ま、待てよ。そういえば、下着を私のだけ別に干すのをやめて、庭にみんなのと一緒に干してあるから、司君だって見ようと思えば、いつでも見れちゃうわけか。
じゃあ、つねにつけてる下着は、気を付けていないとならないってこと?
う~~~~~~~~~ん。
それに、それに、ずうっと気になっていることがある。
「まな板の鯉」…。これって、どうなのよ。
どうなのよ。どうなのよ~~~!
わかんないよ。だって、いったい女の人からどうしたらいいかなんて、そんなのそうそう誰も教えてくれないし。少女漫画にだって、そうそう描いてないよ?
この雑誌にも、そこまでは書いていなかった。それもそうか。だいたい、「初めての日、特集」だもんね。何回かしたらこうしようなんて、載っているわけがないんだった。
いや。教えてもらったところで、何もできないかも。いまだにただただ、ドキドキしまくってるだけだもんなあ。
結局、振り出しに戻る。
司君は最近、どうしてキスもしてくれなくなったんだろう。
なんでかな。
喧嘩をしたわけでもないし、私が嫌がったり拒んだりしたわけでもない。と思う。でも、知らぬ間に傷つけたりしたのかなあ。
あ~~~!わかんないよ~~~~。
「穂乃香」
ビク~~!
「え?!」
「夕飯だよ?さっきから、呼んでるのに…」
「ごめん!今行く」
私は、雑誌を鞄の中に慌てて隠して、ドアを開けた。すると司君はドアの前で待っていてくれた。
「どうかした?具合悪いとか?」
司君は階段を下りながら、心配そうに聞いてきた。
「ううん。ちょっと本読んでて夢中になっちゃって」
「そんなに面白い本だったの?」
「うん」
あ、顔引きつったかも。
「へえ。どんな本?」
どひゃ。どんなって!
「えっと。えっとね、雑誌なんだけど」
「うん」
確かさっきの本に、いろいろと他の特集もあったはず。あ!思い出した。
「これで便秘が治る…って特集」
で~~~っ!!!何を言ってるんだ、私は。それだって十分恥ずかしい内容じゃないか~~!
「穂乃香、便秘なの?」
司君、真顔で聞いてくるし…。ああ、顔から火、出る~~~。
「ちょ、ちょっとだけ」
「そっか。そりゃ、夢中になって読んじゃうかもなあ」
あ~~~~。穴があったら入りたい。下りてる階段を永遠に下り続けたい心境だ。そんな特集読んでないってば。でも、今読んでいた内容のほうが、司君びっくりするよね。そっちのほうがどん引きするよね?
「母さんに言うといいよ。いろいろと食事気を付けてくれると思う。あの人に言ったら絶対に張り切って、いろいろと作ってくれそうだよ」
「う、うん。頼んでみようかな…」
ああ、司君、真面目に答えてくれてる。やっぱり、優しい。でも、特に便秘ってわけじゃないから、私。
夕飯を食べ終わり、司君のお母さんと一緒にお皿を洗い出した。するとそこに司君がやってきて、私に何気に目で合図を送っている。あ、まさか、便秘のこと?あ~~、違うんだけどなあ。
どうしようかなあ。
「ねえ、穂乃香ちゃん」
「はい?」
「今月って…」
「…はい」
「もしかして、まだ?」
「…あ」
やばい。今、後ろに司君いるんですけど。ちら。司君がまだいるか、横目で確認すると、司君は黙って、その場に突っ立ったままだった。
「まだですけど。でも、今日…か明日あたりかな?ちょっとお腹痛いし」
なるべく小声でそう言うと、司君のお母さんは、
「そう」
と安心したように答えた。
「ごめんね、なんだかいちいちチェックしてるみたいで。でも、やっぱりこればっかりは、気になっちゃって」
「…」
う。なんとも答えられない。だいいち、こんな会話を彼氏のお母さんとしていること自体、かなり変な話だよねえ。
洗い物を終え2階に上がると、部屋の前で司君が待っていた。
「…あ」
「明日の予習でもしない?」
「うん」
わあい。司君と一緒にいられる。
「なんの教科にしようか」
「英語。あ、数学もあったよね。それから…」
「わかった。カバンごと持っておいでね」
「うん」
私は嬉しくて、学生かばんごと持って司君の部屋に入った。そして、床に置いてあるクッションに座り、横にカバンを置いて、筆箱やノートを取り出した。
「まず、英語かな」
司君がそう言うので、英語の教科書も出した。
「…あのさ。もしかして母さん、毎月聞いてるの?」
「え?」
ドキ~~~!やっぱり、さっきの会話聞かれてたか。
「う、うん」
「そっか。そうだったんだ」
「…」
なんだか、司君の顔、見れなくなったかも。
「聞かれるの嫌だったら、嫌だって言ったほうが」
「うん。でも、心配してくれてるんだよね」
「まあ、そうだけどさ」
司君はそう言うと、ふうってため息をついた。
あれ?なんだか暗いため息?
「俺さ」
「え?」
司君の声が暗くって、思わず顔を見た。すると、表情までが暗かった。な、なんでかな。
「…穂乃香に辛い思いとか、させてない?」
え?なな、なんで?
「俺の欲求だけで、穂乃香を抱いちゃっているのかなって、それでいいんだろうかって思ったりもするんだ」
「…」
まさか、それでキスもしてくれなかった?
「穂乃香、本当は無理してないかなあって」
司君。私のことを思って?それで?
「わ、私は…」
司君のほうにしっかりと体を向き直した。それから、何を言おうかと考えて黙り込んでいたら、座り直した拍子にどうやら、鞄がずれたようで、鞄の中からあの雑誌が飛び出ていることに気が付いた。
う。うわ~~~~!
それも、思い切り、「初めての日特集」の文字が、鞄からにょっきりと現れてしまってる!
やばい。そうだ。さっき慌ててカバンの中に突っ込んだんだった。袋もにいれずに。
やばい!見つかる前に隠さないと…。
と、雑誌を鞄の中に入れようとしたときには、もう遅かった。
「……なんで、初めての日?」
司君は目ざとくそれを見つけ、私に聞いてきた。
う~~~~わ~~~~~。ばれた~~~~!!!!!
「違うの。これは麻衣が…」
「中西さん?」
「か、彼氏とクリスマスがホテルに予約して、泊りに行くらしくて、それで、いろいろと悩んだらしくって、この雑誌を買ったらしくって」
すんごい早口になった。あれ?なんだか、途中変なこと言ったかな。司君がちょっと笑ってるけど?
「彼氏とクリスマスが?クス。彼氏とクリスマスにってことかな?」
「あ、あれ?私、そう言わなかった?」
「まあ、いいや。で、それを貸してくれたの?もしかして、参考にしたら?とか言われた?」
「なな、なんでわかったの?」
「やっぱり?そんなことだろうと思った」
うそ。うそです。私から貸してって言ったんです~~~。
「ちょっと見てもいい?女性雑誌でこんなの特集したりするんだね」
司君は私がまだ、いいって言っていないのに、勝手に雑誌を鞄から引っこ抜き、中をぺらぺらと読みだした。
「ああ、便秘の特集。載ってるね」
そう言うと、そのページをさらっと飛ばして、初めての日の特集のページを探し当て、黙って読みだしてしまった。
ギクギクギク。実は便秘じゃなくって、そこを読んでいたってばれた?
ば、ばれた?
あ~~~~。神様。心臓に悪いです。司君、どう思ってる?っていうか、さっき、なんだか、すごく大事な話をしていた最中だった気がするんだけど。
なんだっけ?
「へえ」
ドキン。何?何が「へえ」なの?
「な、なあに?」
気になる!
「ああ。女の子っていろんなこと考えてるんだなって思ってさ。それに、男性諸君に聞いたってあるけど、こんなの一部の男性に聞いただけじゃないの?参考にならないと思うよ?俺は」
「え?そうなの?」
「そうじゃない?この逆のパターンがあって、女性諸君に聞いたって、いろんなことが載ってたとしても、私は違うって思ったりしない?」
「あ、うん。そうかも」
「でしょ?」
じゃあ、じゃあ、どこがどう違うの?ドキン。気になる!こうなったら、聞いちゃう?
勇気を持って!
「どの辺が、違うの?」
「え?」
「つ、司君と、どの辺が違ってるの?」
「ああ、そうだな。たとえば」
「うん」
ゴクリ。う。生唾飲み込む音、響いたかも。
「…………」
あれ?司君黙っちゃった。
「穂乃香、興味津々?」
ドッキ~~~!!!!!!
「い、い、い、いいえ。そんなことはけして!」
「あははは」
あれ?笑ってるし。
「今日の穂乃香、なんだか、おかしい」
「え?そ、そう?」
「さっきも、この特集を見てたのか」
ひょえ~~~!ばれた!
「そっか。ごめん。じゃ、便秘のことは母さんに言わないでよかったんだね」
「う、うん」
か~~~。ああ。顏からまた火出たかも。
「そっか。でもこれ、初めての日でしょ?穂乃香、違うじゃん」
う~~~。そうなんですけど。
「…で、でも」
「なに?何かもしかして、悩みでもある?」
「…悩みって言うか。き、聞きたいことが」
「俺に?」
「うん」
「…なあに?そうだね。こんな雑誌を読むより、俺に聞いたほうが早いかもね」
「……」
ほんと?聞いて呆れない?
「じゃ、じゃあね。あの…。この辺のことはどうかなあ」
私は男性諸君に聞いた「下着」のページを開いて司君に聞いた。
「…あ。え~~~と。俺、こういうの疎いから全然。どんなのでも…」
そう言ってから、司君は真っ赤になった。
「っていうか、見てないし。っていうか、見えてないし」
やっぱり?
「それって、真っ暗だから?」
「うん」
やっぱり?
「そ、それって、その」
「ん?」
司君はまだ、顔を真っ赤にさせている。
「真っ暗は、お、男の人って嫌なのかな」
「え?」
「あ、あの…」
うわ。さすがに変なこと聞いたかな。
「…いや。えっと…。それは」
司君は口ごもった。それから、ちょっとだけため息をついてから、
「穂乃香が明るいと嫌でしょ?俺、穂乃香が嫌がることはしないから」
と優しい目をしてそう言った。
「……」
か~~~。そ、そっか。うん。そうだよね。司君だったらそう言うと思ってた。
あれ?そう言うと思ってた癖に、私は悩んでいたの?
「じゃ、じゃあ」
「ん?」
「こ。このへんは」
まな板に鯉の文を指差してみた。
「……」
司君はその文章を読み、今度は眉をひそめた。
ドキドキ。
「…こういうの、気にしてた?」
ドキ~~~~!
「ううん。でも、そんなことが書いてあったから、ど、どうなのかなって思って」
「俺も気にしてるって思ってた?」
「ううん。そんなことは」
ないとは言えない。
「……」
司君はしばらく黙り込んでしまった。あ、あれ?悩ませた?それとも、答えにくい。呆れた?引いた?
「あのさ。さっき、俺、穂乃香に無理をさせてるんじゃないかって、そう思ってるって言ったよね?」
ああ!そうだった。それだよ。大事な話。
「こんなこと考えなくてもいいよ?本当に無理させたくないんだ」
う…。
司君は優しい。優しすぎるくらい優しい。
「ありがとう」
「…」
私がそう言うと司君は、黙って優しく私を見た。そして、しばらく黙って見つめ合ってしまった。
この雰囲気は、キス?
「じゃあ、英語から始める?」
え~~~!!!!
ガックリ。
無理はしていない。全然していない。むしろ、キスもしてくれなくなって寂しいくらいだ。
っていうのも言っちゃってもいいの?
結局また、振り出しに戻るのである。
大事にしてくれてるのも、司君が優しいのもわかったけど、だからって、キスもないのは悲しすぎるよ。