第32話 でしゃばり
キャロルさんは、不機嫌なままさっさとお昼ご飯を食べ、司君にも話しかけず、リビングに行くと一人でテレビを観だした。キャロルさんが苦手なメープルは、リビングから出てきて、私の足元に寝転がった。
私と司君は、しばらくダイニングにいた。お母さんがお茶を3人分持って来て、ダイニングの椅子に腰かけ、
「はあ」
とため息をもらし、お茶をすすった。
「キャロルのホームステイ先のおうちって、どんなところなのかしらね」
「母さんも知らないの?」
「知らないわよ。あんまり酷いところだったら、かえてもらったほうがいいわよね」
「…うちに来たいって、キャロル、言い張るんじゃないの?」
「…そうねえ。でも、穂乃香ちゃんいるし、それに、守が思い切り嫌がりそうよね」
「ああ、確かに」
「メープルも苦手みたいだし…」
お母さんはそう言うと、私の足元で寝転がっているメープルを見た。
「メープル、穂乃香ちゃんには、最初からなついているのよねえ。守もだけど、穂乃香ちゃんって、そういう雰囲気があるのかしらね」
「雰囲気?」
「なんか、こう…。癒される…みたいな」
「そ、そうですか?」
「穂乃香ちゃんの周りだけ、空気違ってるものねえ」
それって、いい意味でとらえていいんだろうか。
「穏やかだよね。一緒にいて、ほっとする」
司君はそう言うと、お茶をずずずっとすすった。
「そうそう。司といると、長年寄り添った夫婦みたいな、そんな空気感かもしだしているし。ほら、今もお茶を飲んでる姿が、とっても似合ってるわ」
「…」
それも、いい意味でとらえていいんでしょうか、お母さん。
「は~~~。キャロルももうちょっと、大人になってくれたらねえ」
そう小声でお母さんは言うと、またお茶をすすった。
3人でダイニングでくつろいでいると、お父さんが帰ってきた。そして、キャロルはすぐにお父さんの車に乗って、ホームステイ先の家に帰って行った。
「こんなじゃ、うちで暮らしても、キャロルにとってもうちの家族にとっても、いい影響は出ないだろうな」
司君は、キャロルが帰って行ってから、お母さんにそう言った。
「そうねえ。でも、心配なのよねえ。あんなに泣いたキャロルは初めて見たし」
「そうだな…」
司君もどこかを見つめながら、そうつぶやいた。
2階に行き、また司君が私を自分の部屋に呼んだ。
「穂乃香は、嫌だよね?キャロルがうちに来るのは」
「う、うん」
私は正直にうなづいた。
「守も猛反対するだろうな」
「司君は?」
肝心の司君はどうなの?
「俺は…」
もしかして、キャロルさんのことがお母さんみたいに心配?
「俺は…、キャロルはあんまりうちに甘えないほうがいいと思ってる」
「え?」
「アメリカでも何かあれば、うちに来てた。よりどころがあるのって、ある意味いいのかもしれないけど、でも、もうそろそろ、自分で周りの人とちゃんとコミュニケーション取っていったり、心開いたりしないといけないんじゃないかって思うし」
そんな真面目に考えてたんだ。司君。
「って、人のことは言えないけどさ。俺も、人と関わるの、苦手だし。コミュニケーションうまく取れないしね」
「そんなことないよ。司君はちゃんと…」
私が言いかけると、司君はいきなり私にキスをしてきた。
…え?
「俺は、穂乃香がいるからさ」
「?」
私?
「学校で、周りのみんなが俺に対する認識がガラリと変わった。でも、それって穂乃香のおかげなんだよね」
「私の?」
「うん。俺、自分ではあんまり変わった気、しないんだけど。でも、やっぱり変わったんだろうな…。穂乃香といてさ」
「…」
「穂乃香といると、ポーカーフェイスが崩れる。でも、それって、気を許してるってことだと思う」
「…気を?」
「うん。素直に俺の内側が出せるっていうのかな。穂乃香といると、素の俺でいられるから、それを周りの人が見て、俺に対する認識が変わったんだと思うよ」
「…そうなのかな」
「うん。だからさ、キャロルも…。心開ける相手ができたら、もっと変わるんじゃないかな」
「このおうちでは、心開いてないの?キャロルさん」
「うち?う~~ん。甘えてるとは思うけど、あんなふうに自分の弱さは見せたことないよ。っていうかさ、誰に対しても見せたことないんじゃないの?自分の親にでさえ」
「…」
「あ、俺もそうだったか。…俺とキャロルは、そういう点で似てるんだ、きっと」
「似てる?」
どこが?!
「人に弱さを見せられない…。強がってばっかりいる」
「…それで、キャロルさんは乱暴したりするの?」
「かもね…」
司君は表情を隠し、見せないようにした。キャロルさんは、わざと乱暴したり、男みたいにふるまったりした。でも、2人とも共通しているのは、弱さを見せられないということなのかな。
「本当は、好きな子の前ではかっこつけて、弱いところ見せないようにするんだろうね?」
「え?」
突然何を言いだしてるの?司君。
「俺も、穂乃香に嫌われたくないし、かっこつけていようと思ったんだけど、どうも、ダメなところばっかり見せてる気がする」
「…そんなことないよ。いろんな司君が見れて、私はすごく嬉しいけど」
「くす」
?なんで笑ったの?あ、それに顔赤いよ?司君。
「穂乃香って、そう言ってくれるから、俺、嬉しいよ」
「え?」
「普通はさ、ダメなところが見えたら、嫌になったりしない?こんな人だと思わなかったって」
「…私って、普通じゃないの?」
「…かもね」
え?そ、そうなの?
「俺が情けない奴だって思わない?今日も穂乃香が家を出て行って、半べそかいてたよ?穂乃香を探しながら」
キュキュン!そうなの?なんだか、可愛い、司君。
ハッ!これか、こういうところが、普通じゃないのか。
「今、引いた?」
「ううん。胸キュンしてた」
「え?」
司君が目を丸くした。
「こういうところが、変なのかな。司君、可愛いって思ったりして、ますます愛しくなるの。やっぱり、変?」
「……」
あ、司君の顔、まっかっか…。
「う…。変かどうかわかんないけど、嬉しいよ…」
司君は真っ赤になったまま、そう言った。
そんな顔も可愛い。キュン!
って、やっぱり、私は変なんだな。きっと。でも、可愛いものは可愛い!!!!
ベッドに座って、私たちは話をしていた。司君は私の手を握っていた。その手が一気に熱くなった。私はキュキュンってしてしまい、司君がもっと愛しくなり、抱きついてしまった。
あ、大胆なことしちゃったかな。でも、抱きしめたくなっちゃったんだもん。
「…昼間から、駄目だよね…」
司君は私を抱きしめてそう言った。
「え?」
「…母さん、2階に上がってこないよな…」
ドキン。え?それって?え?
え~~~~?
ベッドにいきなり押し倒された。
ま、待って。部屋、電気つけていなくたって、思い切り明るいし。
「だ、ダメ」
「…」
司君はそう言ってもまだ、私の首筋にキスをしている。
「駄目。部屋明るいし…」
「…駄目?」
「うん。駄目!」
「…じゃあ、もう少し、こうしていてもいい?」
「…うん」
司君はキスをやめて、ただ私を抱きしめていた。
ドキドキドキ。それだけでも、心臓が高鳴っちゃうよ。
いったい、いつになったら、こういうのも大丈夫になるんだろうか、私…。
夕方、メープルの散歩に2人で行った。浜辺に行くとメープルは嬉しそうに走り回っていた。
司君は、今日はメープルを追いかけることもなく、私と一緒に石段に座り、ずっと私の手を握りしめていた。
海を眺め、メープルを眺め、そしてふっと私に司君は視線を向ける。それから、嬉しそうに微笑む。
そんな顔も可愛くって、私はまたキュンってしてしまう。
こんな平和な日が続いてほしい。だから、お願い。キャロルさんは、来ないでくれ~~~!
家に帰ると、もうお父さんが帰って来ていた。そしてダイニングで真面目な顔をして、お母さんと話をしていた。あ、もしかして、キャロルさんのことかな。
「あ、司、穂乃香ちゃん、2人にも話しておきたいから、ここに座って聞いてくれ」
お父さんにそう言われ、ダイニングの席に2人で座った。
ドキドキ。お父さん、真面目な顔だ。それに私たちにも話しておきたいって、まさか、キャロルがうちに来るっていう話じゃないよね?
「今日、送っていく車の中で、キャロルから聞いたんだ。今のホームステイ先の家は、いたくないって」
「…」
司君は無言でお父さんを見ていた。私はその先を聞くのに抵抗があり、顔を伏せた。
「それで、今日、向こうの家の人と、話をしてきたんだよ」
え?ドキ~~。まさか、うちでキャロルは引き取りますとか、言ってきたわけじゃないよね?!
「そうしたら、キャロルのことを別に、避けてたとか、邪魔にしてたとか、そんなんじゃくって、奥さんのほうのお母さんが、今、肺炎で入院してて、いろいろと大変だったらしいんだ」
え?入院?
「家の人が、やたらとどこかに行っちゃったり、休みの日にもどこにも連れていってくれなくなったって、キャロルはそう言ってたけど、病院にお見舞いに行ったりしてただけなんだよ。キャロルにもそれは伝えたらしいんだけど、キャロルとうまく、コミュニケーションがとれなかったんだろうなあ」
「…」
「来週には、退院できるらしい。退院したら、妹さん夫婦が静岡に住んでいて、あったかいところだから、そっちに行くらしいんだけど、それまではまだ、病院に毎日行くことになるって言ってたよ。だから、キャロルには寂しい思いをさせちゃうかもしれないって」
「そうなんだ、でも、よかったね。キャロルのことは、ちゃんと大事に思ってくれてたんでしょ?」
司君がそう言うと、お父さんは「うん」とうなづき、
「ただ、あと1週間は、キャロルがあの家で一人になっちゃうことも多くなるだろうから、うちから学校に通わせようと思うんだけど、それはかまわないよな?司も、穂乃香ちゃんも」
と話を続けた。
「え?!」
私は思わず、思い切り大きな声を出してしまった。
「やっぱり、穂乃香ちゃんは嫌よね?」
お母さんが私にそう言った。お父さんは、しばらく黙っていたけど、
「1週間だけなんだ。駄目かな?穂乃香ちゃん」
と、私を説得するように、低い声で言ってきた。
1週間でも嫌です。1日でも嫌です。
心の中で言ってみた。
「守もめちゃくちゃ、嫌がるよ」
司君がそう言うと、
「そうよね~~」
と、お母さんは腕を組んで、考え込んでしまった。
「守には、ちゃんと話すさ。あいつは、キャロルにいじめられてばかりいたから嫌なんだろう?でも、もう中学生なんだから、もっと強くなってもらわないと困るしな」
お父さんはそう言った。
「…トラウマになってると思うよ。怪我もさせられてたしさ」
司君は守君の肩を持った。
「司もそうだったろ?でも、お前は大丈夫なんだろ?」
「年齢が違う。あいつはまだ、本当に小さかったんだから」
「でも、今は中学生だろ?」
「年を重ねたって、あいつの中にはずっとキャロルの嫌な思い出が残ってて、それが消化されてないんだ。多分、相当キャロルのことで心が傷ついてたと思う。だから、俺は反対だな。守、部屋に引きこもるかもよ?」
「……」
お父さんは眉間にしわを寄せ、しばらく黙り込んだ。
「そんなに守は弱虫なのか」
え?
「女の子にいじめられたくらいで、部屋に閉じこもるなんて情けない」
「父さん。小さい頃に受けた傷って、けっこう深いんだよ?そういうのをわかってやるのが親なんじゃないの?」
「お前まで、親に口ごたえをするのか」
「……」
司君は、めずらしくお父さんを睨んだ。
「ちょ、ちょっとやめてよ。ほら、穂乃香ちゃんも、怖がってるじゃない」
お母さんがそう言って2人を止めた。
「とにかく、キャロルが日本にいる間、よろしく頼みますとキャロルのご両親にも頼まれているんだ。守が反対しようが、キャロルは家に呼ぶ」
お父さんは、結局子供の意見なんて、無視する気なんだな。
なんか、ちょっと、それって…どうなのかな。
「じゃ、自分の子供のことは、どうでもいいのか?」
ギョ!司君?まだ、お父さんに抵抗するの?
あ、もしかして、自分のことじゃなくって、守君のことだから、ちゃんとお父さんにぶつかっていってるのかな。
「司。あなたもいい加減にして…」
「なんで?母さんは平気なわけ?守のこと心配じゃないのかよ」
「…そ、そりゃ、心配だけど。でも、キャロルのことも心配でしょ?」
「だから、自分の子のことはなんで、そうやってほっておくんだよ?」
司君、ちょっと切れてるかも…。
「司!いい加減にしろ!親にまだ、はむかう気か!!!」
「はむかってるんじゃない。思ったことを言ってるだけだ。それがなんで悪いんだ!」
「司!」
わ~~~。お父さん、司君をぶったたきそうな勢いだ~~!
「私も、嫌です!!!!!」
私は、お父さんの手が、司君の顔をひっぱたく前に、お父さんの真ん前に立ち、そう大声で叫んだ。
「キャロルさんがうちに来るの、嫌です!!!」
「穂、穂乃香ちゃん?」
「それに、守君のことも心配です!」
「……」
さすがに司君のお父さんは、私には怒れないようだ。黙り込んで、あげかけた腕もおろした。そしてしばらくみんなが、黙り込んでしまった。
「…キャロルさ、ホームステイ先の家の人が今、大変だったら、何か家の手伝いをするとか、一緒にお見舞いに行くとか、そういうことをしたらどうかな」
しばらく黙っていたからか、司君はすっかり冷静になり、そう静かに提案をした。
「……」
お父さんが司君を黙って見た。お母さんは、心配そうに司君とお父さんを交互に見ている。
「自分が相手にしてもらえなくて寂しいからって、うちに来るっていうのもさ、どうかと思うよ。ずっとお世話になった家なんだから、キャロルのほうが今度はいろいろと、返す時なんじゃないの?」
「つ、司。あんた、いいこと言うわね」
お母さんが、その場を和らげようとしたのか、にこりと微笑んでそう言った。
「……キャロルに何かできるのか?アメリカだったらいいけど、ここは日本だ。キャロルが手伝おうとしても、いったい、何ができるっていうんだ?」
「父さん、それ、返ってキャロルに悪いよ。なんにもキャロルはできないって言ってるわけだろ?キャロルに何ができるかなんて、誰にもわかんないよ。それはキャロルが考えて、やっていくことだ。でもさ、そういう経験もキャロルにはすごくいい経験になるんじゃないの?」
「いい経験?」
「キャロルは今まで、人に何かをしてもらうことしかしてこなかった。特に、キャロルの家、異常なほど甘やかしてたし。俺、夏にペンションでバイトした時思ったんだ。誰かの役に立ったり、感謝してもらうのって、すごく嬉しいって。そういうのって、今まであんまり経験したことなかったから、貴重だったんだ」
「そう言ってたな。お前…」
「うん。だから、キャロルも、そういう経験したら、変わるんじゃないの?いい機会だと思うけど」
「…」
お父さんは黙って、司君を見た。お母さんはまた、2人の顔を交互に見ていた。
「ふ…。そうだな」
お父さんは、口元を緩め、うなづいた。
お母さんはそれを聞き、安心したように息を漏らしていた。
「穂乃香ちゃん、悪かったね。怖がらせて…」
お父さんが私に、少し気まずそうな顔をして謝ってきた。
「………いいえ。すみません。私、勝手にでしゃばって」
「いや、いいんだよ。穂乃香ちゃんも、キャロルは苦手なんだっけ?」
「はい。でも…」
私は実は、ずっと心の奥がもやもやしていた。
「あ、あの、出過ぎたことだとは思うんですけど」
「なんだい?」
お父さんは優しく私に聞いてきた。だからつい、私の口からとんでもない言葉が出てしまった。
「お、おじさんはもっと、司君や守君の気持ちを、聞いたほうがいいと思います」
どひゃ。なんでこういうことを、私って言っちゃうんだろうか。
「…え?」
私がそう言うと、司君もお母さんも、そしてお父さんも、ものすごく驚いてしまった。ほら。みんな、びっくりしているじゃない。
「わ、私だって、お父さんにあんまり、自分の思っていることを言えません。でも、本当は言いたいし、聞いてほしいし、理解してほしいです」
ああ、どんどん口から出ちゃうよ。止まらなくなってるかも…。
「……」
お父さんは黙っている。司君もお母さんも、黙って私の話を聞いている。
「私、小さい頃、兄が体弱くって、両親が兄といつも一緒にいて、一人でいることも多くって、寂しかったんです。でも、我慢しないとって思って、ずっと誰の前でも泣かなかったし、弱音も吐かなかったんです。それがすっごく辛くって」
「…」
「そういうのって、ずうっと心の中にしこりみたいに残るんです。でも、兄が元気になってから、父も母も、それまでほっておいてごめんって言って、私に今度はべったりになって。ちょっとうんざりするくらいに。父は仕事が忙しいから、いっつも一緒ってわけじゃなかったですけど、でも、私が寂しがっていたのをわかってくれてたんだって、嬉しかったです」
「…そうなの。真佐江ちゃんと、旦那さん、ちゃんと穂乃香ちゃんの気持ちわかってたのね」
お母さんは優しい声でそう言った。
「…すみません。でしゃばって。でも…、守君、優しくていい子です。人の心の痛みとか、わかってあげられるいい子です。あ、司君も、すっごくあったかくって、優しいです。その辺、もっともっと認めてあげて、自慢してもいいくらいだと思います」
って、あれ?なんだか、話がそれたかな。でも、勝手にそんなことを私はべらべらと話してしまった。
「すみません。なんだか、言いたいこともわけわかんなくなって」
「…いいよ。穂乃香ちゃん。息子二人のことを、褒めてくれて、嬉しかったよ」
お父さん…。顏、すごく優しい表情だ。良かった。怒ってないんだよね?
「…つい、かっとなってしまったな。司、悪かったな」
お父さんは一言そう司君に言って、自分の寝室へと向かって行った。
「すみません、私、でしゃばりました」
だんだんと、自分のしたことが冷静に判断できるようになり、私はお母さんに謝った。
「ううん。穂乃香ちゃん、ありがとう。ちゃんと二人の間に入ってくれて。本来ならきっと、私の役目なのよね。でも、今まで、どこかお父さんに遠慮してたっていうか、怖かったのかもしれないわ」
「え?」
「喧嘩したりしたくないから…。でも、穂乃香ちゃん、ほんと、うちの子たちを理解してくれてて、ありがとう。嬉しかったわ」
お母さんはちょっと目に涙を浮かべそう言うと、キッチンに向かって行ってしまった。
「つ、司君…。あの」
司君はずっと黙って私の横にいた。
「サンキュ。穂乃香」
そう言って司君は私を抱きしめた。
ほんと?呆れてない?私のこと。
「穂乃香、俺さ、もっともっと、親にも、誰に対しても、心開いていこうと思う」
「…」
「逆らったり、はむかったりするんじゃなくって、感じてることや、思ってること、正直に話していくよ」
「うん」
司君はしばらくそのあとも、私を抱きしめていた。




