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第11話 文化祭のあとで

 司君と夕方別れ、私は美術室に、司君は模擬店の片づけに行った。でも、帰りは一緒に帰ろうと約束をした。

 キャロルさんは、知らない間にお友達と帰ったようだった。


 ダンスパーティの時間が刻々と迫っていて、皆が浮き足だっている。そんな中、私は美術室を片づけていた。

「結城さん、藤堂君と踊るんでしょ?」

「ううん。踊らないよ」

「何で~~?彼氏がいるのに」

「私も藤堂君も、ダンス苦手だから」


「もったいない。彼氏がいるのに~~~~」

 何度も、部長に言われてしまった。部長ってそんなに彼氏が欲しいのかなあ。

「じゃ、片づけが終わったら帰るだけ?」

「うん」


「…一言忠告しておくね」

「え?」

「大山先生が、各階を見まわってるんだって。カップルで教室に残ってるだけで、説教をくらうことになるそうだから、教室には行かないほうがいいよ」


「…う、うん。わかった。忠告ありがとう」

「どういたしまして。ダンスパーティ出ないカップルは、いつも教室に行ったり、人がいないようなところに行くらしいけど、今年は先生が相当、目を光らせてるみたいだからさ。2人っきりになるチャンス、今日はないかもね。残念だけどね」

 部長はそう小声で言って、私の背中をぽんぽんとたたき、他の人に片づけの指示をしにいった。


 う~~ん。もしかして、ダンスパーティに出ないのは、2人きりになろうとしてるって、勘違いをされたんだろうか。

 そんなに彼氏がいるのに、ダンスをしないのは珍しいことなのかなあ。私は逆にダンスをしちゃうカップルが信じられないけど。アメリカとかじゃないんだから、恥ずかしくないのかなあ。


 司君がそういうの苦手な人で良かったって、心から思う。もし、そういうのが好きな彼氏だったら、私、ついていけないだろうな。

 それとも、好きな人のためだからって、嫌でもダンスをするんだろうか。

 ま、いっか。そういう彼氏じゃないんだから。


 5時過ぎには片づけも終わり、ダンスパーティに出る人は、いそいそと急いで美術室を出て行った。でも帰宅組は、

「帰りになんか食べて帰んない~~?」

などと言いつつ、のんびりとしている。


 するとそこに、司君がやってきた。

「あ、藤堂君も片づけ済んだの?」

 私はカバンを持って、司君のところに駆けて行った。

「済んだよ。美術部も?」

「うん。今さっき終わったの」


「じゃ、帰ろうか」

「弓道部のみんなで、打ち上げとか行かないの?」

「今日は行かないよ。ダンスパーティに出るやつもいるし」

「え?いるんだ」


「彼女いないやつばっかりなのに、ここ1週間くらいで彼女を見つけたやつが数名いてさ」

「へ~~。あ、川野辺君も?」

「…2年はほとんど、ダメ」

「え?」

「1年生が頑張ってた。なんでだか、2年は彼女できないやつばっかりで…。なんでかな。去年も誰もダンスパーティ出れなかったんだ。俺も含めて」


「…そうなんだ」

「あ、今年も行かないけどね?俺…」

「うん」

「帰る?それとも…」

 それとも?なんで司君、階段のほうを見たのかな。


「教室は大山先生が見回るらしい。でも、他のところはどうかな」

「…」

 まさか、2人きりになれるところを探していたりする?

「帰ろう。あ、そうだ。どこかで何か食べて行ってもいい?お腹空いちゃった」

 私は内心バクバクしながら、司君にそう言った。


「うん、いいよ。どこに寄ろうか」

 良かった~~~。学校で2人っきりに何てなるの、緊張しちゃうし、それにもし先生に見つかったら、それこそ即行転校することになっちゃうよ。


 2人でまたちょっと距離を置いて歩きながら、駅に向かった。時々、うちの学校の生徒がいたが、私たちを見て、

「あ、ダンスしていかないんだ」

とぼそぼそと話しているのが聞こえてきた。


 駅前のコーヒーショップに司君は入って行った。

「ドーナツ屋じゃなくていいの?」

「うん。あそこは弓道部のやつがもしかしたらいるかもしれないし」

「…その人たちと一緒じゃなくってもいいの?」


「なんで、むさくるしい野郎といないとならないの?俺、結城さんと一緒のほうがいいんだけど…」

 真面目な顔をしてそう言われ、私は戸惑ってしまった。

「…結城さんは、俺があいつらと一緒にいるほうがいい?」

「う、ううん」

 クルクル顔を横に振った。


「あれ?そういえば、今日全然見かけなかったね、あの二人」

「あの二人?」

「中西さんと八代さん」

「ああ、2人ともだって、来てないもん。デートするって言ってたよ」


「……そうなんだ。まあ、そんなやつも多いかもな。沼田も来てないし」

「そうなの?なんだか、めずらしくない?お祭り騒ぎ好きそうなのに」

「……うん。最近バイトをしてるからって言ってた。でも、なんだか変なんだよな」

「変?」

「よそよそしいんだよね。八代さんと別れてすぐにも、よそよそしくなったけど、あんときに戻ったみたいに」


「そういえば、私にも話しかけてこなくなったかも」

「…なんなんだろうな…」

 司君は宙を見て、それからため息をついた。と、その時、司君の携帯が鳴った。

「…なんだ、母さんからだ」


「お母さんからメール?」

「うん。文化祭終ったかって。で、今日は家族で外食するから、穂乃香ちゃんと何か食べて来てってさ。なんだ。それならちゃんと、どっかレストランにでも入ったらよかったね」

「うん」


「どうしようか、夕飯」

 司君とそんな話をしていると、私たちのテーブルにやってきた人がいた。

「?」

 誰かと思って見上げると、

「よ。お二人さん」

と金髪の男の人が言ってきた。あ、柏木君だ!


「柏木?」

「文化祭の帰り?ダンスパーティ出なかったの?」

「…うん。柏木君は、文化祭来てたの?」

「来るって言ったじゃん。でも、会えなかったね」


 そう言うと、柏木君は私たちのテーブルのすぐ横のテーブルに座った。

「俺さ、探したんだよ、結城さんのこと。でも、ここで会えてよかったよ。ま、邪魔な奴が一緒だったけどな」

 そう柏木君が言うと、司君はじろっと柏木君を睨んだ。


「あの可愛い子、どうした~~?」

 柏木君は司君に向かって、にやつきながら聞いた。

「え?」

「可愛い子、一緒にいたじゃん」

 あ、瀬川さんのこと?


「誰だよ」

 司君はむすっとしながら、柏木君に聞いた。

「弓道部の前で話してたじゃん。やったら可愛い女の子と」

「……ああ、1年生の?」

「そう。今日、一緒にいなかったの?」


「いないよ。何で一緒にいないとならないんだよ」

「あっれ~~?藤堂のところに来なかった?探してたけどなあ」

「知らない。まったく見かけてない」

「ふ~~~~ん。なんか、ダンス踊ってくれないかなあ、なんて言いながら、友達と探してたよ?」

「俺と?」


 司君が眉をしかめた。きっと私も眉をしかめたと思う。

「お前に気があるみたいじゃん。あの子」

「…なんで?俺にはもう、彼女いるんだし、それなのになんで、ダンス踊ってくれないかな、なんて言ってるわけ?」


「そりゃ、結城さんから奪って、自分の彼氏にしようとしてるんじゃないの?」

「はあ?」

 今度は司君は目を丸くした。

「結城さんに忠告。あの子、けっこうやばいかも」


「…え?」

「今日、ちょっと小耳にはさんだんだけど、藤堂に近づくために、同中だったやつらに絡んでくるように頼んだらしいし」

「え?!」

 私も司君も、一瞬わけがわからなかった。


「…あ、まさか、あんとき?」

 司君は、何かを思い出したらしい。

「心当たりあるんだ」

「…でも、そんなことするか?普通」


「聖先輩の時も、いろいろと作戦を練ってたみたいだ」

「作戦?」

「だけど、ことごとく失敗したらしい。たとえば、他校の男子生徒に絡まれてるように見せかけたりとか?でも、聖先輩、見て見ぬふりして、とっとと行っちゃったらしい」


 聖先輩って、ほんと、彼女以外には興味ないんだろうなあ。同じ高校の後輩が大変でも、無視しちゃうんだ。

「そんなこと、転校したお前がなんで知ってるんだ?」

 司君が聞いた。あ、本当だよ。なんで知ってるの?


「だから、今日、あの子が友達と話してるのを聞いたんだって。俺が昼食ってる横で、大きな声で話してるから丸聞こえでさ。あんなこと話してたら、男子聞いてたら引くだろうな、って思いながら聞いてたよ」

「……あんなに、可愛くって、純朴そうなのに」

 私がそう言うと、柏木君は大声で笑い、

「結城さんの感覚じゃ、考えられないだろうね。男子苦手で、藤堂と付き合うのだって、なかなか苦労したんじゃないの?」

と言ってきた。


 柏木君がそう言うと、また司君が柏木君を睨んだ。

「睨むなよ。俺、結城さんの純粋なところが好きなんだから。藤堂もだろ?恋の駆け引きなんてできそうもない、まっすぐな性格のところがさ」

「……」

 司君はまだ、柏木君を睨んでいる。


「だろ?違うの?お前って、結城さんのどこに惚れたわけ?」

「……違わないよ」

「やっぱり?今時珍しい、貴重な存在だよな」

 え~~~。私が?


「で、そんな結城さんが傷つかないように、忠告。藤堂ももうあの子と関わるなよ?それから、ああいうやつは自分の狙った獲物の彼女に対して何をするかもわかんないから、藤堂はちゃんと結城さんを守れよ?」

「…お前に言われなくたって、わかってる、そのくらい」

「本当か?あの子の本性、お前、見抜けたのかよ」


「………」

 司君は黙り込んだ。それから、

「本性は見抜けないけど、関わろうとも思ってなかったよ」

と怖い顔をして柏木君に言い返した。

「…じゃ、徹底的に無視するんだね。聖先輩みたいに」

「え?」


「そうしたら、あきらめるかもしれないからさ」

「……」

「できる?お前」

「何で聞くんだよ」


「だって、もうすでにあの子のこと、助けたんだろ?」

「あれは…」

「正義感から?それとも、八方美人なわけ?お前」

「…困ってたから助けただけだ。それに、ああいう連中は嫌いだから」


「ふん。正義感か?でも、自分の彼女を何よりも優先させるんだな」

「…え?」

「俺ならそうするよ。他の子に気を取られてる隙に、自分の彼女が傷ついたり、他の奴にかっさわれてたりしたら、バカらしいだろ?」

「……」


 司君は黙り込んだ。

「ま、藤堂と別れるようなことがあったら、結城さん、すぐに俺を呼べよ。いくらでも慰めてやるから」

 柏木君がそう言うと、

「それが狙いかよ」

と司君は怖い声でそう言って、それから立ち上がった。


 うわ、喧嘩になっちゃうの?私は慌てて立ち上がり、司君を止めようとした。でも、司君は私の手を取って、

「もう帰ろう」

と言うと、その場を離れ、外に向かって歩き出した。


「まじで、藤堂、しっかりと結城さんのこと繋ぎとめておけよな。じゃないと俺がかっさらうからな」

 柏木君の声が後ろから聞こえた。でも、司君は無視して、お店を出た。

「……」

 それからも、司君は無言で私の手を取り歩いていた。


 駅に着き、ようやく手を離し、それから表情を和らげ、ホームに来た電車に乗り込んだ。

「席、空いてるよ。座る?」

「うん」

 司君とシートに腰かけた。


「…あの」

「ん?」

「柏木君、悪気があってああ言ったんじゃないと思うんだけど」

「わかってるよ」


「え?」

「あいつ、まじで結城さんに惚れてるよね。結城さんが傷つかないよう、忠告してくれたんだ。それはわかってるよ」

「…」

 惚れてるかどうかは、わかんないけど。


「俺はやっぱり、抜けてるかもしれない。あいつがああ言ってくれなかったら、あの1年の子のこともわかんなかっただろうし」

「…」

「それがちょっと、悔しくって腹が立った」


「…でも、わかんないよ。そんなこと。私だって、思いもつかなかったし」

「……」

 司君は私をじっと見ると、

「柏木が惚れたところも、俺と同じなんだな」

とぼそっとつぶやいた。


「え?」

「結城さんのこと、あいつ、わかってたんだよな。ちゃんと」

「……」

 私のことそういえば、まっすぐだの、純粋だのって言ってたっけ。でも、そんなことないんだけどな。作戦だって練ろうとした。ただ、自分に自信もないし、間が抜けてるし、勇気もないしっていうだけで。


「結城さん。もし、何かあったらすぐに俺に言ってね?」

「うん」

「俺も、注意するようにするから」

「…うん」


「はあ」

 司君は下を向くと、ため息をついた。

「悔しかったけど、でも、あいつには感謝なんだよな」

「え?」

「忠告してくれたこと」


「…」

「俺も、結城さんが一番なんだ」

「え?」

「だから、誰よりも守りたいし、そばにいたいし、大事だ」


 私のことが?

「結城さんがもし、俺の知らないところで傷ついていたりしたら、なんて思ったら、考えただけでも辛くなった」

「…」

「だから、絶対に何かあったら、すぐに俺に言って」

「……うん」


 でも、きっと私、そんなに弱くないかもしれない。ただ、司君に嫌われたり、去って行かれたらって思うと、怖くなるし、勇気もなくなるし、いじけるし、途端に弱くなるけど。

 司君に嫌われる以上に怖いことも、傷つくこともない気がするなあ。

 なんて、そんなことを思いながら、司君の肩にちょっとだけ、体を預けてみた。


 ふわ。あ、優しいオーラに包まれた。

「司君」

「ん?」

「夕飯、どうする?」

「あ、そっか。そうだね。なんか買って行こうか?」


「うん」

 私は、皆が帰ってくる間だけでも、家で司君と2人きりになれることを、その時ちょこっと喜んでいた。

 だから、瀬川さんのことなんか、まったく気になってもいなかった。


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