第1話 だましてる?!
お待たせしました。穂乃香と司が帰ってきました。
また、二人のドキドキな関係をお楽しみください。
それは、突然の出来事だった。
「結城さん。話があるので、ちょっと来てもらっていいですか?」
高校1年の秋、文化祭の日。私は友達と体育館にいた。軽音学部のライブで盛り上がり、目をハートにさせて、そのライブを見ていたときだ。
きゃ~~~~!女生徒のものすごい歓声の中、私はいきなり声をかけられた。
声をかけてきたのは、当時名前も知らないでいた藤堂司君。顏だけはなんとなく知っていた。
だけど、あの頃、私が夢中だったのは、体育館のステージで歌っていた聖先輩だった。
体育館の裏に、連れて行かれた。私はステージの聖先輩が見たくって、気が気じゃなかった。
だけど、不思議。いまだに覚えている。体育館の裏にある銀杏の木の、見事な黄色の色。
天気が良くて、空は青。そんな青空に映える黄色の銀杏の葉。そして…、照れて真っ赤になった、司君の顔。
はあ…。あの時のはにかんだような、照れくさそうに話す司君、今思えば可愛かったなあ。
いきなりの告白。きっと勇気を出して私に声をかけたんだろうな。苦手なダンスまで誘ったりして。
「友達でも駄目かな」
あの時、もし、友達だったらってOKしていたら、去年のクリスマスは、寂しいクリスマスになったりしていなかったんだろうか。
それとも、友達って言っても、廊下で会ったら挨拶をする程度で終わっていたんだろうか。
司君のことだから、友達って言っても、そのくらいで留まっちゃいそうだな。
もうすぐ、あれから1年になるんだ。あの告白から…。
そして、今年の文化祭は、司君と一緒に回ることができたり、それに、クリスマスも、年末年始も、バレンタインも、ずっと司君が隣にいるんだ。
今年の冬は、バラ色なんだ~~~~~。
ほわ、ほわ、ほわわわわん…。
ああ、私、超幸せかも~~~~!!!
「穂乃香。顏、にやけてるよ!」
「え?」
「本当だ。まあ、だいたい何を妄想していたか、察しはつくけどね」
麻衣と美枝ぽんに言われてしまった。
麻衣と美枝ぽんは、クラスメイト。今日も3人で仲良く、中庭で話をしながらお弁当を食べていた。
10月を過ぎてから、学校は一気に文化祭モードになった。
そして、後夜祭でするダンスパーティにカップルで参加したいと思う人が、彼氏、彼女を作るため、この時期は告白合戦をすることになる。
私と麻衣とそしてもう一人の友達、芳美は、昨年、聖先輩のファンをしていて、彼氏なんて作る気もなかった。文化祭ではステージに上がる聖先輩が見れるだけで幸せ。それだけで、満足だった。
だけど、文化祭当日、彼女といる聖先輩を見て、3人ともがっかりして、麻衣と芳美はさっさと彼氏を作ってしまった。
私はと言えば、文化祭当日に告白されたにもかかわらず、好きな人がいると言ってふってしまったのだ。
今思えば、なんてもったいない、恐れ多いことをしてしまったんだろうと思う。なにしろそのお相手は、今や、泣く子も黙らせる…じゃなくって、聖先輩と1、2位を争うくらいのモテっぷりなんだから。
だけど、去年の今頃は、藤堂司と言う名前すら知らなかった。顏は知っていたけど、まったく興味もなかった。不思議だよなあ。あの頃、司君はすでに私の名前も知っていて、ずっと私を見ていてくれたというのに。
だけど、もし私も司君のことを知っていたら、好きになっていたんじゃないかな。私のほうが片思いをして、告白するのは私の方だったかもしれないんだ。
それでふられてたりして。
ガ~~~ン。もしそうだったとしたら、立ち直ってないよ。ずっと。
「穂乃香。今度はなんで真っ青になってるの?それ、さすがに想像つかないわ。何を妄想してるんだか」
麻衣に言われてしまった。
「なんでもないの。それより、麻衣は彼氏を文化祭に呼ぶの?」
麻衣は今年の春に、去年付き合いだした彼と別れ、その後、バイトで大学生の彼氏をゲットした。今では、その彼氏とラブラブのデートを重ねている。
「呼ばな~~い。来たって面白くないだろうし。逆に私が彼の大学の文化祭に遊びに行くんだ」
うわ。嬉しそう。麻衣…。うまくいってるんだなあ。
「美枝ぽんは?」
麻衣が美枝ぽんに聞いた。美枝ぽんは、夏に海で出会った一つ下の彼氏がいる。
「私も呼ばないよ。文化祭に来るのも考えちゃう。どうせ、ホームルームだってしないだろうし、うちのクラス、なんにもしないんだし、来なくたってばれないよね?」
「そうだね。うちのクラス、やる気ある人誰もいなかったね」
「あの沼っちですら、文化祭なんてかったるいって言ってたしねえ」
そうなんだよね。沼田君あたりが、張り切ると思っていたのに。
「沼っち、最近元気ないもんね」
美枝ぽんがぽつりとそう言った。
「そういえばそうかも。私もあんまり話をしないし」
私がそう言うと、麻衣は口ごもって、
「まあ、いろいろとあるんじゃないの」
となんとなく話を誤魔化していた。
あ、もしかして、麻衣は何かを知ってるのかもしれないなあ。
沼田君と言うのは、やっぱりクラスメイトなんだけど、美枝ぽんと春に付き合って、夏になる前に別れてしまった。原因は私らしい。
でも、沼田君から直に告白されたわけでもない。
春には、沼田君は私の相談役だった。司君とのことで、あれこれよく相談に乗ってもらった。それに、応援もしてくれてた。沼田君は美枝ぽんが好きだったから、私はそっちを応援したり、協力していた。
だけど、あっという間に、別れちゃったんだよねえ。
「穂乃ぴょんは、藤堂君とダンス踊るの?」
いきなりの美枝ぽんの質問に、私は飲んでいるお茶を吹きだしそうになった。
「お、踊るわけないよ。そんなの私も藤堂君も苦手だもん」
「だろうね。司っちがダンスを踊る姿なんて、絶対に想像できないよ」
麻衣がそう言って、あははって笑った。
「じゃ、何を妄想していたの?私はてっきり、藤堂君と踊っているところでも想像していたのかと思った」
美枝ぽんがそう聞いてきた。
「え~~~!まさか。私はただ、今年の冬は去年みたいに寂しくないなって思っていただけで…」
「そうよね。去年はせっかくの告白を、断っちゃって、寂しいクリスマスを過ごしたんだもんね?穂乃香」
「あ、そうか。藤堂君を見事にふっちゃったんだっけね?」
う…。それ、言われるといまだに、胸が痛む~~~。
でも、そんな司君と私は、今は同じ屋根の下に住んでいる。私の親がいきなり長野でペンションをすると言って、家も売って仕事も辞めちゃったから、母と昔友達だった司君のお母さんが、私を引き取ってくれることになったんだよね。
まさか、司君のお母さんと私の母が、友達とはね。まったくの偶然だけど、きっと私と司君が付き合うのって、運命だったんだよ。
なんちゃって~~~!!!!
はう…。今朝の司君も可愛かったな。メープルとじゃれついている司君って、本当に無邪気で可愛いんだよね。あ、メープルっていうのは司君の家で飼っている、ゴールデンレトリバーなんだけどさ。
キュキュン!ああ、司君の笑った顔を思い出すだけで、胸がキュンってしちゃう。
「ね~。美枝ぽん、文化祭、部活で何かしないの?」
「するよ、作品を展示してる。でも、当日の係りにはならなかったから」
「そうか。じゃあ、穂乃香は?」
「へ?」
「今もどっか、意識飛んでた?美術部で文化祭、何かするのって聞いたんだけど」
麻衣が呆れた顔をしながら、私に聞いてきた。
「あ、うん。去年と一緒。展示するだけ。あ、でも私、2時間くらい、受付することになちゃったんだよねえ」
「ふうん」
「藤堂君は?弓道部って何かするの?」
「うん。弓道部のみんなで、模擬店出すって言ってた」
「へえ~~。じゃあ、穂乃香、一緒に回れないってこと?」
「ううん。藤堂君の担当、午前中だけって言ってたし、午後は2人とも空いてるから、大丈夫なんだ」
「同じ学校に彼氏がいるのって、こういう時いいよね」
麻衣がぽつりと言った。
「いいじゃん。大学の文化祭、ちょっと羨ましいかも」
美枝ぽんがそう言うと、麻衣はにやけながら、
「年上の彼、いいよ~~」
と美枝ぽんをつっついた。
「年下も可愛いんだからね」
美枝ぽんが反撃に出た。時々この二人は、自分の彼氏自慢をしあっているんだよね。だけど、どうやら、キス以上の進展はまだないらしい。
そして、私と司君のことは、いまだに2人には報告していない。多分、司君がまだ、誓いを守っていると2人は思っているらしい。
なにしろ、いまだに私と司君は、学校では初々しいカップルを装っているし…。
なんてそんなふうに言っちゃうと、じゃあ、家ではどうなんだ!って言われそうだよね。
家での私たちは…。家では…。
ちょっと言えない。恥ずかしくて…。
「穂乃香。また、どっかにいってるよ。意識」
「え?」
ドキ。麻衣にまた言われてしまった。やばい、やばい。
「クリスマス、そういえば、穂乃香は何をプレゼントするの?やっぱり、穂乃香自身?」
「…。え?」
「もしかして、そんな覚悟決めてない?っていうか、そんなことを妄想してない?」
グルグル。首を横に振った。私をプレゼントって、そういえば、前に司君にも言われたけど、もうとっくにプレゼントしちゃってるし。
「私は、ちょっと勇気を出してみようかと思ってるんだ」
麻衣が顔を赤らめてそう言った。
「え?クリスマスに?」
「うん。彼、実はもう、ホテルを予約してるの」
「え~?お、お泊りするの?」
美枝ぽんが目を丸くして聞いた。
「うん。予約してもいい?って聞かれて、うんってうなづいちゃった」
「きゃ~~~!」
「み、美枝ぽん、そんなにさわがないで。そんな美枝ぽんは彼とどうなの?」
「私はだって、向こうはまだ高校1年だよ?キスだって、最近だもん。それも、すんごい緊張してたし。そんな関係になるのなんて、あと1年はかかるんじゃないかなあ」
「そうだね。年下なんだもんね」
「それにしても穂乃香は、そろそろ藤堂君とそんないい感じになってもいい頃じゃない?一緒に暮らしてるんだしさ」
「え?」
ドキ~~~。
「あ、えっと。それは、その…。ほら。家族がいるから、なかなか…ね?」
「そっか。一緒の家に住んでるとはいえ、家族もいつも一緒なんだもんね。また、ご両親が旅行に行くことってないの?」
「う、うん。あ、ご両親いなくても、弟いるし」
「あ~~。やっぱり、弟がいると、そんないいムードになれないわけ?」
美枝ぽんと麻衣が交互に聞いてくる。
「えっと。うん。守君、藤堂君の隣の部屋だし。やっぱり、その…ね?」
「だよね~~。隣りにいるのに、いちゃいちゃしてられないよね~~~」
麻衣がそう言うと、美枝ぽんも、私の肩をぽんぽんしながら、無言でうなづいた。
それ、もしかして、同情してる?それとも、なんだろうか。
っていうか、なんていうか。ものすんごい罪悪感が今、私の胸の中でうずまいているんですけど。
隣の部屋に守君がいるから、いちゃつけない?
うそうそ。
家族がいるから、なかなか…ね?
うそうそ~~~。嘘ばっかりついてるよ、私~~~~!
守君が隣の部屋で寝ていようが、家族が同じ家に住んでいようが、そんなのまったくおかまいなしに、いちゃついていますって!
でも、やっぱりさ、そういうこともみんなには言えないよね。
夏休み前に、生徒指導の先生に司君のお母さんが呼びだされてから、本当に私も司君も学校では注意してるんだもん。
もし、私たちの関係がまた先生にばれたら、今度こそ私の両親に報告されちゃう。司君を思い切り信頼している私の父は、いったいどんな反応をするか、怖いなんてもんじゃない。
長野に転校になったり、司君との仲を引き裂かれたりしたら、私悲しくて、死んじゃうよ。
だから、学校では、本当におとなしくしているし、申し訳ないけど、麻衣と美枝ぽんにも私たちの家での関係をばらすことはできないんだよね。
ごめんね。罪悪感がひしひしとこみあげてくるよ。
だけど、だけど、やっぱり、司君のそばにずっといたいんだもん。
高校を卒業するまで、こんなことが続くのかもしれないけど、でも、2人に対しての罪悪感はあるものの、家と学校での司君との関係のギャップを、実は楽しんていたりもするんだ。超ドキドキすることもあるんだけどね。
学校でも笑ったり、素を見せ始めてきた司君。だけど、まだまだ、表情は硬い時もあるし、クールでかっこいい司君でもいるんだよね。
でも、家に帰って2人っきりになると、甘い司君に変わるんだ。
はう…。いけない。また顔がにやけるところだった。昨日の夜の司君を思い出して…。
駄目だ!学校では思い出さないようにしているんだから!!
司君は相変わらず、先生や先輩方から一目置かれている。真面目だし、誠実だし。そして、女生徒からは、聖先輩の次にモテまくっている。でも、私と付き合っているからか、コクってくる女子はほとんどいない。たいていみんな、ちょっと離れたところから見て、きゃっきゃさわいでいるって感じだ。
そう。私はなんでだか、女子から一目置かれている。ついでに言うと、なんでだか、私たちカップルは、お似合いの理想のカップルなんだそうだ。
学校で平気でいちゃつくカップルがいる中、私たちは、いちゃつくこともなく、つかず離れずの、理想の距離を保ち続け、はたから見ると、とても信頼しきっている、安心して見ていられるカップルなんだそうだ。
学校ではね…。
はあ!みんなを思い切りだましているみたいで、なんだか、悪いなあ。ほんと…。
昼休みが終わり、教室に戻った。2学期になり席替えがあって、私は前から2番目、司君は一番後ろ。すっかり席が離れ、教室の中で話す回数もぐっと減ってしまった。
それに、授業中に司君を見ることもできなくなった。
なので、放課後、一緒に美術室に行く時、やっとこ話ができるっていうような状態だ。
「結城さん、今日部活は?」
「文化祭に向けて、みんなで一つのものを描こうってことになって。自分の作品で手いっぱいの人は参加してないんだけど、私はもう完成させてるから、そっちを今日から描いていくの」
そう言いながら、私はカバンを持って、司君と教室を出た。
「みんなで描くの?」
「うん。学校をテーマにして描いてるの。大きな作品になるから、美術室じゃなくって、どっかの廊下の壁か、外に飾られるかも」
「へえ、すごいね」
「…文化祭での模擬店、何にするか決まったの?」
「うん。焼きそば」
「へえ!藤堂君も焼きそば焼くの?」
「どうかな。まだそこまでは決まってないけど」
へ~~。なんか、楽しみ!
「私、藤堂君が焼くんだったら、その時に絶対に買いに行くね」
「俺が焼いたのを?」
「うん!」
「…俺の作った焼きそば食べたいの?」
「うん!」
「なんだ。だったら、今度の休み、作ってあげるけど?」
「………」
家でってことか…。
「えっと。それも、食べたいけど、模擬店での焼きそばも食べたいかも」
「…あ、そう?」
今の会話、誰かに聞かれてないよね。いや、聞かれていても、まさか一緒に暮らしてるって、わかるような会話じゃないよね。
一緒に暮らしていることも、いまだに内緒にしているし…。
「結城さんの絵は、俺、見に行かないけど、文化祭終ったら家に持って帰るよね?」
「え?うん」
嘘。来てくれないの?なんで?
「俺の絵だから、なんだか見に行きづらい。ごめんね?家に持って帰ってきたら、ちゃんと見させてもらうよ」
「…うん」
なんだ。恥ずかしいのか。
あ、今のも、一緒に住んでいるって、わかるような会話じゃないよね?と思いながら、周りに人がいないかどうか、キョロキョロと見てしまった。
まあ、ばれてもいいんだけど。2人で同棲しているわけでもないし。
「じゃ、またあとでね、結城さん」
「うん。部活頑張ってね、藤堂君」
学校では、まだ藤堂君と結城さんと呼び合っている。このへんも、周りの人には新鮮らしい。付き合ってだいぶたつのに、いまだに苗字で呼び合っているなんて、真面目なカップルよねって。
…。真面目なカップルがなぜ、理想のカップルになっているのかが私には謎だけど、家に帰るとすぐに「司君」「穂乃香」と本当は呼び合っちゃってるんだよね。
やっぱり、私たちって、みんなをだましているのかなあ。いるんだよねえ。
「そんなの、気にしなくたっていいじゃん」
夕飯後、リビングでテレビを観ながら司君にそのことを言うと、司君ではなく弟の守君がそう返答してきた。
「え?」
「平気で公の場でいちゃついてるより、ましだって。うちの学校の3年で、学校で平気でいちゃついてるやつがいるけど、見てて気持ち悪いもん」
「…」
それは言い過ぎだと思うけど。
「ここは日本だろ、少しは周りの状況も読めよ、って思うよ、まじで」
守君がそんなことを言いだした。
「そんなことを言ってる守が、彼女ができた途端に、どこでもいちゃつくようになるんじゃないの?」
デザートを持ってきたお母さんが、テーブルにお皿を置きながらそう言った。
「俺が?まさか~~~。俺、こう見えてもね、学校じゃ、クールなんだぜ!聖兄ちゃんみたいにさ」
「……」
一瞬その場が、静まりかえった。
「さ、お風呂入ってこようかしら」
お母さんは何事もなかったようにそう言って、リビングを出て行った。司君も何事もなかったように、お皿に乗っている柿を口に入れた。
「なんだよ、なんだよ、みんなして、無視してくれちゃって」
ク~~ン。そんな守君の心境を察したのか、メープルだけが守君のそばによって、慰めてあげていた。
「でもさ、穂乃香。本当に気にしないでいいと思うよ。大山先生だって、いまだに俺らの行動を監視しているようだしね」
「あ、やっぱり、司君もそう思う?」
「うん。たまにね、クラスでの様子を伺いに来てたり、登下校もチェック入れてるの、わかるよね」
「だよね。隠れて見てるようだけど、ばればれだよね」
私がそう言うと、隣に座っている司君は私の太ももの上に手を乗せて、
「ま、家の中でまで監視されてるわけじゃないから、学校では距離開けてても、俺は不満にならないけどね?」
とそう顔を近づけて言ってきた。
「…え?」
ドキ。太ももに置いた司君の手、ジーンズを履いていてもわかる。とてもあったかい。ちょっと、ドキドキしてきちゃう。
「あはは、大山先生は家に帰ったら、母さんたちが見張っているとでも思ってるんじゃないの?まさか、うちの両親があんな人たちだなんて、思いもしないだろうね」
「そりゃそうだろ」
守君がメープルの頭を撫でながらそう言った。
「そんで、まさか、そんな親だからって、どうどうと家で2人がいちゃついてるとも、思ってないんじゃないの?」
守君に呆れながらそう言われ、私はついつい顔が熱くなってしまった。でも、
「うっせえ。お前も彼女ができたら、絶対にいちゃついてるって」
と司君はちょっと笑いながら、言い返していた。
司君、変わった。本当に家で、いろんな表情を見せるようになった。それで、司君のお父さんは、いろいろと司君に言うんじゃないかと思っていたけど、そんなこともいっさいないし…。逆に楽しそうに話している時すらあるもんなあ。
藤堂家は、司君が良く笑うようになり、前よりもさらに明るさを増した。
そして、守君がいても、ご両親がいても、司君は平気でいちゃついてくるので、そんな司君に私は実は戸惑っている。
困ってるわけじゃない、けして。ただ、戸惑っている。
っていうより、ドキマギしている。
そうなのだ。私の毎日は、やっぱり今も司君でドキドキだった。