97.
「まぁ、なんだ。その格好では窮屈だろう。着替えを誰かに用意させよう」
私がガックリしていた事を、艦長は別の解釈をしたようで、仕切りに着替えを勧めてきた。
別の方向性で、同情されてしまった。
動きやすい服は確かに欲しいので、その提案には乗るつもりだが。
「御心遣い、ありがとうございます。御言葉に甘えさせていただきます」
それを聞いた艦長が、満足そうに頷く。
「ふむ。 明日には王都の港に着く。それまでここでゆっくりするといい」
艦長がそう言い終わると、机の上のベルをチリンと鳴らした。
涼やかな音色だ。
すると、一人の船員が入ってきた。
「艦長。お呼びでしょうか?」
艦長が1つ頷くと、その船員に指示を出し始める。
「レイ殿を、今から船室に案内しろ。それから、着替えの服も用意しておけ」
それを聞いた船員が、不思議そうな顔になる。
「はっ。しかし、その、女性服がありません」
困惑した表情の船員が、こちらを見る。
もっともだ。
「ああ、その心配はない。レイ殿は男だ」
素の表情で、爆弾を落とす艦長。
またか。
「は?え、や、はぁ?」
そこ、何度も見ない。
認識は間違ってないから。
おかしいのは、団長と艦長だから。
本当に。
まぁ今回は確かにメイク薄めだし、二日目だからはげまくってるけれども。
ていうか、顔洗いたい……
今の状態外見うんぬんよりも、女としてヤバいです。
しみとかしわとか、色々と。
「り……了解しました。それでは、艦長失礼します。レ……レイ殿こちらへ」
気を取り直したのか、案内を始める船員。
その前に、挨拶だけはきちんとしなければ。
「艦長、短い間ですがお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくな」
最後に一礼をして、艦長室を後にした。
その後、ギクシャクした動きの船員に部屋を案内され、服も渡される。
早速、ドレスを脱ぎ普通の服に着替える。
色々サイズが合わないが、ごまかしごまかし着る。
髪もほどいて……
え?これどうなってんの?
鏡がないので、今の状態がさっぱり判らない。
奮闘すること約10分。
どうにかこうにか、髪をほどいたけど……
とりあえず適当にかきあげておく。
髪がどうなっているのか、先程から気になって仕方がない。
もんもんと考え込んでいたら、ノックをされた。
誰何したところで、顔と名前が一致しないので入るように促す。
「ピアちゃん、今大丈夫?」
ヨモルォスカだった。
酔いのせいか、心なしか顔色が悪い。
「私は大丈夫です。それより、どうかしましたか?」
「うん、さっきの話の続きをしようかと思って」
来た。
あの話だ。
座るように促す。
「ピアちゃんは、ゴーストが何か知っているのか?バンサーの奴ともめたのも、それが原因だろ?」
さて、どう答えようか。
しばし、考える。
「それは、私も知りたかったからです。何を知っていて、どうやって知ったのか、その情報が欲しくて」
嘘は言っていない。
「ゴーストは、さして俺にとって重要じゃないよ。そう警戒するな」
警戒しない方がどうかしてる。
何故その名前だけが独り歩きしてるんだ。
「偶々、今回の捜査上で上がった単語だから、皆気になってただけだ。それも、この件が終われば気にもしなくなる。ゴーストは実はピアちゃん自身のことだろ?誰にも言うつもりはないから、安心しろ」
どこに安心要素が。
それに特定されてしまったし。
まぁ、いい。
この男が何者かだけは知っておくべきか。
「では、あなたの本名と、偽名を考えた人物を教えて下さい」
名前が判れば、何かのヒントになるかと思うのだが。
「え?何々、俺に興味持った?」
「ええ、興味津々です」
にっこり笑って、言ってやった
て、そこでなんで照れる。