96.
その後、艦長に案内されて艦長室に入った。
呼びにやった船員がいつまで経っても来ないので、気になって甲板へ出て来たら、私とフィオルさんが話していたのを見かけたらしい。
「さて、改めて自己紹介と行こうか。艦長をしている、イジャ-フォ=イドファイ=ペオリ=ハドイだ。船員が手荒な真似をしたらしく、申し訳ない。レイ殿の事は、団長より話を聞いている」
「団長から……」
団長?
レイ殿?
女男……。
そうですか、あくまでもそのキャラで行けという事ですね?
解りました。
はいはい、やりますとも。
「失礼いたしました。改めまして、レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンです。この度は」
「あー、いや。堅苦しいのはよそうや。この船の事気になるだろう?」
挨拶をしようとして、途中で遮られる。
艦長の顔を見ると、ニヤッと笑われた。
「まずこの船の事だが、フィオルも話していたように、第一級貿易商船だ。規約通り、ほぼ元軍人で構成されている。現役もたまに乗り込んでるがな」
艦長は、説明をよどみなくしていく。
この国の歴史から貿易商船、軍艦に至るまで。
約30分。
話が上手いので、つい引き込まれて聞き入ってしまった。
要約するとこうだ。
まずこの船は、第一級と呼ばれる商船で、この船の全乗組員名簿の90%以上は、一定数の訓練を経験した元軍人で構成されている。
有事の際に従軍するという規約がある為、国が決めた措置なのだそうだ。
その代わり、第一級ともなると税やその他の優遇が半端ない上に、平時は貿易で利益が出る為実入りがいいらしい。
国にとっては、艦をメンテナンスせずに済む上、人件費その他諸々がかからない。
優遇措置でかかる経費等は、それらの維持費のわずか数%。
むしろ交易による恩恵が大きいので、国としても積極的にこの政策を推し進めているのだそうだ。
あえて商船側のデメリットを上げれば、第一級に登録されている乗組員は、年に2回以上の海洋訓練に参加しないといけないという事か。
なるべく、時期をずらす等の分散策は練っているらしいが、船員が少なくなるのに変わりはないそうだ。
まぁ、でも外洋に出ると賊に襲われたりするらしいので、この定期訓練もあながち悪くないのかもしれないとの事。
それからたまに、有事でないのに国から依頼を受ける時があるそうだ。
今回のように。
「でだ、今回はレイ殿の所の団長から、君を攫えと依頼されたわけだ」
攫えって。
「で、伝言も預かっている」
どうやら、団長が色々手を回したらしい。
「伝言ですか?」
艦長が頷く。
「任務ご苦労だった。通常通りに戻ってもらって構わない。だそうだ」
一応、任務は終了みたいだ。
まあ、潜り込むためのダシにされただけだし、こんなものか。
「それにしても、驚いた」
ん?
顔を上げる。
艦長と目が合った。
「そうしていると、女にしか見えんな」
いや、女ですからね。