94.
「待って」
腕を捕まえられた。
そうは、問屋が降ろしませんよねぇ。
そうですよね。
「君さ、競りの商品になりかけた子だろ?」
私が一瞬緊張して何も答えずにいると、何かあせりだした。
「あ、いやそう言うつもりじゃないんだ。きっと、多分まだ状況が飲みこめてないんじゃないかとか思って」
しどろもどろに何か言い訳を始める男。
敵意は感じない。
確かに状況はさっぱりだ。
鍵しまってない、見張りいない、攻撃されない。
だけど船の上。
「えと、そうですね」
鵜呑みにするわけにもいかないが、何らかの情報がもらえるなら欲しいところだ。
頷いて、続きを促す。
「まず俺たちは、君に何もしないから。君を売ろうとしてるわけじゃない。だから、どうか警戒しないでほしい。今日はまる一日ここにいてもらう事になるだろうけど、明日には家に帰れると思うから」
どうやら帰してくれるらしい。
男が続きを口にしようとした時、俄かに外が騒がしくなる。
「大変だー!女の子がいない!迷子になってるかもしれない!手ー空いているやつがいたら、今から探すの手伝ってくれ!」
扉が開く音がいくつか聞こえる。
「やべぇ。あ、ちょっとここにいててもらえるかな?」
そう言うや否や、男が慌てて外へ飛び出した。
慌てたせいで扉が開けっ放しだ。
ちなみに私は迷子扱いらしい。
騒ぎを聞きつけ降りてきた船員の内の1人が、この開けっ放しの部屋の中をちらっと覗く。
目が遭った。
挨拶しておいた。
「ヒルスお前なー。なに自分の部屋に女の子連れ込んでるんだよ」
「ちょ、誤解だって。女の子の方から、俺の部屋に来たの。俺じゃないって」
この部屋の男の声だ。
どうやらこの部屋の主は、ヒルスというらしい。
「てめー、1人で何良い思いしてやがる」
「や、だから誤解だって」
必死に言い訳をするヒルス。
多分こういう場合、誰にも聞いてもらえないんだろうけど。
この部屋に足音が近づく。
「あー、ごめんな、ヒルスに何もされて無いよな?」
1人が扉からこちらを覗きこんで、話しかけてくる。
さっき挨拶した男だ。
「だから、何もしてないって、俺」
「あ、えーと。状況説明だけそちらの彼にしていただきました」
「なぁ?言っただろ?たくよー、皆ひでーよ」
項垂れているヒルスに、皆笑い声をあげる。
「あはは、悪い悪い。そうすねるなヒルス。そうだ、アイエネイル…」
「ピアで結構です」
一応まだ任務継続中という事で、ピアクィカで通す事にする。
「アイエネイル・ピア、船長の所へ案内をしたいのだが、行けそうか?」
頷く。
「では、案内しよう」
手を取られる。
「うわ、でたよエセ紳士」
「俺はいつでも女性に紳士だ」
「自分で言っている時点で説得力が」
ヒルスがそう言ったら、エセ紳士に頭をはたかれてた。
ヒルスはどうやら、いじられキャラらしい。
ついでに、他の船員たちにもはたかれてた。