93.
潮騒の音が聞こえる。
体を起こすと、そこはベッド以外何も無い手狭な部屋になっていた。
体が揺れている。
なにも2日酔いだからとかではない。
物理的に揺れているようだ。
まるで漁船にでも乗っているみたいだ。
えらく揺れる。
気絶したその後にでも、船に乗っけられたりしたのだろう。
あの、バンサーやヨモルォスカもこの船に?
あの二人にはまだ聞きたい事がまだある、この船のどこかにいるのだろうか?
探して見つけねば。
どちらにしてもまずは、外に出られるか試してみない事には始まらない。
立ち上がり、そっと扉に近づき外の気配を窺う。
感知できる範囲内には、どうやら誰もいないようだ。
鍵はかかってるだろうけど、一応ドアノブを回して確認してみる。
開いていた。
「……えーと」
あまりの意外さに一瞬呆けてしまった。
気を取り直して、静かに廊下を覗く。
誰もいない。
これは罠か何かなのだろうか?
廊下に出て周りの気配を再度読むと、かすかに感じる。
ドアが並んでいるので、もしかするとその中に誰かがいるのかもしれない。
見つからないよう細心の注意を払って、進んだ。
ここの廊下だけで20m以上はある。
なので、この船の全長は30m以上あると見ていいだろう。
なので、船員もそれなりの人数のはずだ。
いつ遭遇するかも判らないので、気を引き締めにかかる。
そのまま薄暗い廊下を進んでいくと、突き当たりに到達した。
そこにあったのは、急な階段だった。
上と下に行けるようになっている。
とりあえず上を目指す。
音を立てないように慎重に登っていくと、左右に扉がある場所にでた。
扉に近づき、両方の外側の気配を読む。
と、誰かが近づいて来たようだ。
隠れる場所が無いので、急いで靴を脱ぎ一気に階段を飛び降りる。
華麗に3点着地。
さすが私、とかやってる場合じゃない。
目に付いた、一番近場にあった部屋の扉を開けてすかさず体を滑り込ませる。
「ふぅ」
扉にもたれて息をついていたら、前に人がいた。
びっくりされた。
私もびっくりした。
入ってきた体勢のまま、5秒くらい固まってしまった。
「えーと、部屋を間違えてしまったようですね」
ははは。
こういう時は笑って誤魔化す。
「いやー、どうもー、お邪魔しましたー」
うん、こういう時は逃げよう。
そうしよう。
それしかない。
はぁ、着替え中でなくてよかった。
体を回転させ、ドアノブに手をかける。
「待って」
腕を掴まれた。
ですよねー?