91.
引き続きバトルです。
残酷なシーンはありません。
「なに?なぜ、警戒されてるか聞いてもいい?もしかして、あいつに何かされた?」
心配顔のヨモルォスカ。
それでも私は警戒を解かない。
心底困った顔をしている。
ヨモルォスカは敵ではない?
手っ取り早く、敵味方を見分ける為にいくつか英単語を言ってみた。
どれも反応を示さないが、私がゴーストといえば目の動きが微かに動く。
「敵か」
判断したら、私の行動は早かった。
「ちょっと待って、ピアちゃん。そのゴーストというのは!」
蹴りをかわされる。
続けて顎辺りに拳を突き出す。
これもよけられる。
「ピアちゃん何か知っているのか!?」
私の鳩尾あたりに繰り出されたヨモルォスカの拳に、気付かれない様そっと触れ、一拍置いてから腕をぐっと掴んでそのまま奴の体を前に引っ張る。
そのスピードを利用しながら背後に回り、左手に隠し持っていたロープを首に巻こうとする。
が、あっさりかわされ、がら空きになった私の胴に奴の蹴りが入った。
「がっ」
壁にぶつかり息がつまり、1拍分遅れをとる。
それを見てとった相手が1歩近づいた所で、私はその場で右に捻りを入れながら飛び上がり右足で壁を蹴る。
その時に出たスピードと遠心力を利用し、上段からヨモルォスカに蹴りを放った。
だが、そのまま左足首を掴まれ、身動きの取れない状態にされる。
「いいかげんにしろよ。俺は味方だ!」
力強く言い切るヨモルォスカ。
だが、"ゴースト" という単語に反応した時点でアウトだ。
ヨモルォスカは何者?
私を殺すだけなら、いくらでも時間はあった。
それをしなかったのは、なぜだ?
情報?
ここは地球じゃない。
私の持っている情報は、ここでは何の役にも立たない。
地球ではなくても、利益のある知識?
異世界人だから?
いや、違うな。
それなら既に、宗谷親子だけで十分補える。
「ともかく落ち着け、このまま降ろすから」
相手の顔をじっと見る。
ひとつの可能性に思い至る。
もしこの目の前の男が、同じ地球人だったら?
ああそうだ、何故その事に気が付かなかった。
異世界人が極端に少ないだけであって、ここには私や宗谷英規だけしかいないとは限らないじゃないか。
目の前にいる男が、そうであっても不思議ではない。
それに、ここに来た当初、ファインさんに口外無用と釘まで刺されている。
ヨモルォスカも同じだろう。
何よりも、発音が全く違うが、間違いなく"ヨモルォスカ"はロシア語だ。
改めてじっと見る。
ヨモルォスカには今のところ敵意が無い、害意もない。
それはよく判る。
だが味方だとも言い切れない。
「うぅ」
バンサーの呻き声が牢屋に響く。
「たく、このおっさんは」
そう言って、ヨモルォスカがバンサーを振り返る。
おっさんというが、恐らく私とさして年齢は変わるまい。
「で、ピアちゃん。ゴーストってなんなんだ?何故こちらに攻撃してきたんだ」
私は困惑した。
本当に何も知らないのか?
それともその名のごとく、喜劇のように面白おかしく演じてでもいるのだろうか?
本当に判らなくなった。
ヨモルォスカを検索しても多分出てきません。