88.
ヨモルォスカに蹴りをかました後、再び後ろ手に手枷をされ部屋を出た。
出てしばらく奥へ行くと、隠し扉があった。
その扉の解錠方法と中からの開け方を、万が一があった時の為に教わった。
入口の中を覗くと、地下へと続く階段があった。
ヨモルォスカの後に付いて、階段を降り続けると一階に到着した。
そこの隠し扉も同じ方法で開くと教わった。
一階の間取と、通常時の敵の歩哨数も聞いておく。
大雑把に、頭の中で脱出経路を描いてまとめて記憶しておいた。
そのまま地下へと降り続けて行くと、この国に初めて到着した時の様な、すえた臭いが立ち込める場所に出た。
つまり牢屋だ。
ヨモルォスカが、そっと私に耳打ちする。
「ここからは、乱暴に扱うぞ。適当に合わせてくれ」
私は、微かに頷いた。
通路を歩いて行くと、そのサイドに鉄格子があり、中に1人づつ人が入れられている。
前方には、看守らしき人が2人。
「きょろきょろするな、さっさと歩け!」
私が観察をしていたら、ヨモルォスカにグイッと腕を引っ張られた。
躓きそうになりながら、歩く。
牢屋の中から、絶望と同情を隠しもしないでこちらを見つめてくる。
その男女比は、4:3だ。
薄暗くて詳細が判らないので、髪の長さでの判断だが。
空いていた牢屋に辿り付くと、無理やりその中に入れられた。
乱暴に入れられた為、壁にぶつかリ倒れる。
「く、いい様だな。せいぜい、大人しくしている事だ。そうすれば、ましな飼い主がお前を買うだろうよ」
ヨモルォスカが近付いてきて、軽く頬を叩かれた。
先程のお返しだろう。
まぁ、いい。
「わ、私をぶちましたわね!」
キッ、とヨモルォスカを睨む。
「なぜ悪い?そうして喚いた所で、誰も助けは来ないぞ」
ヨモルォスカが、周りに聞こえる様に話す。
特に看守。
「私が、そんなに安っぽい人間だとお思い?」
再度叩かれる。
あれ?
ピアやってる私って、こんなキャラ設定だった?
何かもっとこう、暗くて弱い感じじゃあ。
何となく、高飛車お嬢に代わってきている様な。
まぁ、いいか。
続けよう。
「2度もぶちましたわね!お父様にも、ぶたれた事などありませんのに」
再びキッと睨みつける。
誰に見られているという訳でもないので、別に睨む必要はないのだが、演じてると思うとつい。
「どうやら、甘やかされて育ったようだな。せいぜい新たな飼い主に、愛想を尽かされない様に、しっぽでも振るんだな」
にやにや笑いをする、ヨモルォスカ。
その顔さえなければ、モテるだろうに。
残念な二枚目だ。
「も、もういや!私を家に帰して、帰して!!」
泣き崩れる、振りをする私。
とか思っていると、ヨモルォスカが思いっきり動揺していた。
いや、演技だって。
観客は前の牢屋の人だけで、その他は音声のみしか聞こえていない。
なので、本当はここまでしなくてもいいんだけど、つい入り込んでしまった。
「ふ、ふん。まぁせいぜい、せいぜい泣くなりなんなりすればいいさ。その内に、泣く事さえも許されなくなるだろうからな」
「さっさと出てお行きなさ……」
私の言葉を最後まで言わせず、ヨモルォスカに口付けをされる。
その時何かを口に移された。
「ごちそうさん」
そう言って、牢に鍵をかけると去って行った。
はぁ!?
あの野郎。
普通に渡せばいいだろう!?
ヨモルォスカが去った後、前の牢屋にいる男に解らない様、口の中のものを吐き出した。
布に包まれていたそれは、音も立てずに落ちた。
どうやって拾えと?
はぁ、もう疲れたよ私。