87.
「さて、状況の整理はしておいた方がいいだろう。まず、俺が受けた追加命令は、ピアちゃんの身体チェック阻止に特化されている。なのでそれ以上手を出すと、逆にまずい事態になりかねないんだ。何かあった時、すぐに対応出来ればいいのだが」
困ったという顔をする、ヨモルォスカ。
冗談のように顔が整っているくせに、内面が残念な20代。
「ちょい待て。内面が残念って何?こんなに内外ともに、いい男いないよ?」
本当にいい男は、自分で言ったりしない。
「いい男は、そんな事を自分で主張しませんよ。言っちゃった時点で、残念なんです。そんな事より、話進めませんか?」
この人と話すと、本題からどんどんずれて行きそうなので怖い。
いや、20%位は私も悪いかなぁ、とは思うんだけど。
ほんの少しね?
ほんの。
ええ。
「何か色々言いたい事があるんだけど、まぁいいや……」
腑に落ちないという顔をしながらも、ヨモルォスカが説明を続ける。
「今回、競りにピアちゃんが売りに出される方向で作戦が想定されてたはずなんだけど、どうも雲行きが怪しくなってきた。バンサーがねぇ、ピアちゃんに興味持ってしまったから。ああ、バンサーってのは、さっきの男なんだけど」
どうやらあの交渉役の名前は、バンサーというらしい。
主に、交渉全般が彼の仕事なのだそうだ。
あのブリーフィング前に見た資料の中には、交渉役の名前まで載っていなかった。
それほど重要ではないのかもしれない。
「それで、もし何か起きた時の事だけど、俺や別動隊は手が出せないかもしれないんだ。その、とても言いにくいんだけど……」
何やら歯切れの悪い、ヨモルォスカ。
気持ちは嬉しいが、はじめから私がブラックフラッグなのは解ってた事で、仕事を受けた時点でそういう事態も全て込々だ。
それに、こういうのは暗黙の了解ってやつだと思うのだが。
「作戦優先で、見捨てられるかもって事ですよね」
「言いにくい事をはっきり言ってくれて、ありがとう」
つまり、何かあった時は、自力で何とかしろという事だ。
よくある話で、その手の契約書に何度かサインをさせられたものだ。
懐かしい。
「仕事の内ですので、大丈夫です」
私が何もリアクションしなかった事が意外だったのか、びっくりした顔をするヨモルォスカ。
何か期待されてたんだろうか?
「泣いた方が良かったですか?」
一応、訊ねてみる。
「その方が良かったかもね、遠慮なく抱けるし」
この、セクハラ人間。
「ふむ、丁度一発勝負したぐらいの時間が経ったかな?」
何故、例えがそっち系なんだ。
なので、セクハラ返ししてやる。
「へぇ、意外と早いんですね」
「ちょ、ピアちゃん?女の子でしょう?それから、俺違うから。普通だからね?」
そこまで、必死にならなくてもいいでしょうが。
それとも図星だったのだろうか……
それは悪い事を言った。
謝ろうとしたら、
「何なら一度試してみる?」
とか言ってきたので、思わず蹴ってしまった私は悪くない。