86.
「さて、アイエネイル・ピアクィカと言ったかな?君は何者だね」
何者だと、そう来たか。
よし、取り乱そう。
「何者!?冗談ではありませんわ!勝手に浚って、勝手に売られて!帰して、私を家に帰して下さい!」
手で顔を隠せないので、俯いて泣くふり。
「ふむ、あのジオレガ商会の若造、ああ見えて中々の切れ者だからな。何か裏があるのかと思ったのだが。まぁ、いい。君が何者だろうとこちらはあまり気にしない。ただし」
交渉役が近づき、私の髪を鷲掴みにする。
そのまま顔をグイっと上げられる。
ちょ、近い。
そして、痛い。
「私に」
更に、相手のまつげの本数が数えられそうな位、顔を近づけ、
「逆らうな」
渋い声で、言い放った。
その時突然、扉が開く。
「あー、俺お邪魔でしたかね?」
先程の案内役が、戻ってきた。
「ヨモルォスカか、ご苦労だった。いつものように、この者の世話を頼む」
交渉役がトンと背中を押し、案内役の側に私を押し近づける。
「任されました。で、明日出しますか?」
こちらを指差し、交渉役に指示を仰ぐヨモルォスカ。
指差すな。
「いや、珍しく欲が出てきた。この事は伏せておけ。上には知らせるな。後、適当に競りに出せるものを見繕っておけ」
「へー、珍しい。明日は雨ですな」
「さっさと行け」
まるで犬を追い払う様な仕草で、ヨモルォスカに退出を促す交渉役。
それを受けてヨモルォスカは、乱暴に私の腕を掴むとそのまま部屋を出た。
しばらく道なりに、廊下を歩いていく。
すると突然足が止まり、案内役がこちらに振り向いた。
何だ?
「悪いが、あんたが生娘かどうか、調べさせてもらうよ?一応、商品だからな」
ニヤニヤ笑いが鬱陶しい。
「な!?そんな事しなくても、わ、私は、き……生娘……ですわ」
最後の語尾を、小さく俯いてごにょごにょ言う。
別の男が、進行方向側から歩いて来たからだ。
反応が無かったので、どうやら今までの会話は聞かれていないらしい。
だが、目の前の男にはキチンと聞こえたようだ。
「へぇ、それが本当かどうか、これから判るけどな?」
ニヤッと笑う。
先に進むと右に曲がる廊下があり、そのまま曲がる。
するとすぐ近くの部屋に、無理やり入れられた。
「ふぅ」
男が息をつく。
「申し訳ない」
開口一番に謝られた。
何が?
なんで謝られてるんだ?私。
あれ?そう言えば、副団長から説明を受けた時に、別の任務がどうたら言っていたな。
もしかしてそれ?
情報の共有は大事だ。
聞いてみよう。
「友軍ですか?」
「そうだ。連絡員からの情報では、今回ここに来るのは、女にしか見えない男だという話だったのだが……ピアちゃん、本物の女の子だよな?結局、危険回避のために、本物を寄こしたって事なのか……」
あんなに触っておいて、男とか無いでしょ。
団長め。
というか、ピアちゃん言うな。
ちゃんとか、無いわー。
無い。
「とにかく、さっき途中本気で触ってしまった事、謝るよ」
本気で触ったのか。
そうか、ふーんへーそうなんだ。
「あ、いや、男だって思って触ってたら、男よりも腰細いし、胸もあるし。胸偽物かと探ってたら、本物の胸だったから、つい、こうね?こう。ゴフっ」
手つきがいやらしい、思わず蹴りを入れてしまった。
やくざキックで。
「白。ちょ、げほ、ひでぇよ。いきなり蹴るなんて、ピアちゃん女の子なのに」
片膝をつくヨモルォスカ。
誰がピアちゃんだ。
それに、白とか言うな。
白しかないんだって。
「そりゃあ、生娘かどうか調べるのに、抵抗の一つも無ければ不自然でしょう?」
フフフフ、次どこ蹴ってやろうか。
「だけど、蹴った場所って見えない部分だよね!?あ、水色も見た事あるよ?げ」
私のニヤ顔を見て、思惑を悟られたらしい。
「あぁ、ごめん、悪かった。悪ふざけし過ぎた。あの時の事は謝る」
先手必勝とばかりに謝る、ヨモルォスカ。
気勢をそがれてしまった。
「えーと、じゃあおふざけはここまでにして、話の続きをしましょう」
取り敢えず先を促してみる。
話を逸らしたのは私だけど。
「そうデスね」
ヨモルォスカさんが、何とも言えない表情をしていた。