84.
「ジョイロナ隊長そろそろです」
御者をしている隊員その1が、中にいるユメノシュコーさんに声をかける。
ジョイロナっていうんだ。
ファーストネームだろうか?
「ゆるめに縛るから。痛かったりきつかったりしたら言ってくれ」
ユメノシュコーさんがどこからか縄を取り出し、私の手首に縄をかける。
もちろん後ろに手が回っている。
「分かりました」
「少し不自由だが我慢しろよ。後、乱暴に扱うから、事前に言っておく」
「了解しました」
馬車が止まり、隊員その2が門番に何かを伝えると、門が開きそのまま中に入った。
しばらくすると、馬車が完全に停止し馬車の扉が開く。
先にユメノシュコーさんが下りると強引に私の腕を引っ張り、無理やり下ろす。
嫌がる振りをしつつ、馬車から降りると、そのまま目的地であろう一軒の屋敷に連行される。
ユメノシュコーさんの他に、御者をしていた他の隊員たち2名もその後に続く。
正面には屋敷の入り口があり、その付近に哨戒がいる。
5名。
門のところに2名。
案内役が、屋敷に入る前に1人づつ身体チェックをする。
私に対してやたら執拗にチェックが行われた。
てかなんで態々後ろ回って、体密着させてするのよ。
意味不明。
わき腹とか、色んな意味でそこやばいから。
ヤバい……
ヤバ……
や……
泣きそう。
全て終わったら、絶対一発殴ってやる。
顔覚えたからな。
「その位にしたらどうだ」
ユメノシュコーさんが、どすを効かせて言った。
何気に迫力あった。
一通り私の身体チェックが終わると、隊員2名がほっとしていた。
そりゃそうだ、男だとバレたら終わりだし。
「さっさと案内しろ」
イラつく態度を隠そうともせず、ユメノシュコーさんが言う。
チェックをした男は、肩を軽くすくめしぶしぶ案内し始めた。
すれ違いの時に見せた、ニヤケ顔にむかむかする。
絶対殴ってやるから。
館の中に案内されて入ると、意外と品のいい内装だった。
いや、ステレオタイプと言うかなんというか、金ぴか成金趣味かと。
私の頭は単純ですね。
はい。
2階へと続く階段を上がり、応接室だと思われる場所へ通された。
入って正面のソファに、ユメノシュコーさんが遠慮なく座る。
その後ろに隊員2名が待機。
私はその内の1人の隊員に、腕を掴まれたまま立っている。
案内役が一度席を外す旨を言いってこの部屋を出て行くと、腕を掴んでいた隊員が一旦離してくれた。
「第一段階突破かな?」
ユメノシュコーさんがそう言うと、他の隊員も頷く。
「だが、さっきのアレ見て思ったが、これはバレる心配はなさそうだな。というか、レイだったか、そのあまり役に入らなくてもいいと思うぞ」
隊員その1が言う。
さっきのアレというのは、ボディーチェックの事か。
いや、役どころか素です。
「ああ、俺もそう思う」
隊員その2も同意する。
「まぁ、その、なんだ。女装が板に付きすぎて、男に襲われない様にしろよって事だ」
ユメノシュコーさんがまとめる。
女装が板に……
生まれて三十うん歳、未だに板に付いていないとか、くそ、団長め。
「何だか心に傷が残りそうだ……」
思わず呟いてしまったら、3人に同情されてしまった。
「うん、まぁ、そのなんだ。がんばれ」
励まされてしまった。
「あの、作戦に影響出ないように大人しくしていますので」
安心して下さいと伝えたら、三者三様の表情が返ってきた。
「ま、まぁ、ともかくだ。気持ち引き締めるぞ、お前ら」
「了解」
ユメノシュコーさんの声かけに、私たち3人が答えた。
耳を澄ますと、2人分の足音が扉の外からかすかに聞こえて来る。
おそらく先ほどの男と、今回交渉を担当する者の分だろう。
再び腕を掴まれて、役のスイッチが入った。
私はピアクィカ=ウェイ=グアオイエ=グ-リルクェン。
没落した元貴族の次女。
気付いたら浚われ、これから自分が売られる事に絶望している。
控え目で大人しいが、なけなしのプライドもある23歳。
誰がなんと言おうと、23歳。
ええ。
さぁ、いよいよ舞台が始まる。