83.
すっかり、仔牛の気分に浸っていた私は、現在馬車に揺られて交渉現場へ向かっていた。
あの作戦会議の後、ナリアッテたちに剥かれ磨かれ着せ替え人形と化して女装を完了。
みすぼらしい(ナリアッテ談)ドレスを着せられ、貧乏設定な薄付きメイクをして。
他の侍女さん達が何だか物足りないという顔をしていたが、今回はこれでいいと思う。
その後、隊員たちと合流したけど、大きな反応がなくホッとした。
いや、もう美女だらけのこの国で、私の顔を見せるのもおこがましいというか、何というか。
なので、この反応の無さは逆にありがたかった。
同情されるのが、堪えるんで。
男にしか見えないとか言われたら、もうどうしたら……
その後ヴォイドと別れ、今回しばらく行動を共にするユメノシュコーさんの馬車へと乗り込む。
なんというか、成金ファッションなユメノシュコーさん。
お似合いですよとも言えず、言いあぐねているとあまり見るなと言われてしまった。
「あー、レイだったか?」
今までの事を回想していた所で、前に座っているユメノシュコーさんに声をかけられる。
「はい?」
「どこの隊だ?」
「え?あ、いえ。先日の入団テストに合格したばかりなのですが……」
あれ?
もしかすると、入隊したばかりって聞いていない?
「なに!?あぁ、いや、まさか新人だとは……」
何かもごもご言っている。
「おいおい、大丈夫かよ。まぁ捕まるだけなら大丈夫。なのか……?ま、まぁあれだけ似合えば、男だとバレねぇーシ、いけるか?うん」
新人である事に不安を覚えたらしい、ユメノシュコーさんはどうやら納得したようだ。
「え、エーと。頑張ります?」
返答に困ったので、笑顔で意気込みを語ってみた。
やけくそ感は否めない。
「へ?あ、ぇ?あ、いや、だが、え?しかし……」
く、久々に自分の変な笑顔で動揺してる人見たよ。
皆慣れて、反応しなかったから忘れてたけど、くそっ団長め。
私の笑顔が変なのも、空があんなに青いのも、鳥が飛んでるのも、団長のせいだ。
絶対そうだ。
それからそこ!何度も私の顔を見ない。
何度見たって、この顔は変えられないんだから。
くっ。
「あ、えーと、そうだな。一応今回の件をさらっておくか。俺が相手との交渉をする。その間悲痛というか悲壮な感じで立っていてもらいたい。設定は売られていくお嬢様だ。自分のその後の待遇なり何なりに、悲嘆にくれている感じで頼む」
「悲壮感を漂わせていれば、良いわけですね?」
ユメノシュコーさんが、頷く。
「そうだ。で、交渉成立したら、俺とはお別れだ。レイはどこか別の場所に連れられて行くだろう。万が一の事を考えて、その経路を覚えておくといい。任務が上手くいけば、解放されるはずだ。必ず成功させる。が、何が起きるか判らん」
万が一ってなーに?
万が一って。
と言いたいところだが、我慢して了承した。
まぁ、そうなった時は、そうなった時だろう。
計画通りなんて、期待するほうが間違っている。
「そろそろ着く。降りる準備してくれ」
御者をしている別隊員がそう告げる。
心なしか、馬車の進む速さもゆっくりとなっていた。
ふと前を見ると、ユメノシュコーさんの顔が、真剣みを帯びていた。
いよいよだ。