78.
ここから、旧バージョンと話がずれて行きます。
国王との飲み会が終わってすぐ、私は寝てしまった。
やはりと言うかなんと言うか、どんなに飲んでも起きるのは6時ちょうどだ。
少し飲みすぎたように思ったけど、どうやら引きずらずにすんだようだ。
朝の日課のランニングも、気分よく進めている。
ヴォイドといつものコースを走り、いつものようにあのファンシー部屋へと戻って行った。
今日のヴォイドは様子が変だった。
何かあったのだろうか?
ちょっと不機嫌な感じだ。
彼は機嫌が悪い時は口数が少ない。
今までの経験で、学習した。
今日は挨拶をしたきり何も話さなかった。
「ねぇ、ヴォイド何かあった?」
「いえ、あーえーと、はい」
何だか言い淀んでいる。
どっちだ。
「あの、朝食後申し訳ないのですが、副団長の所まで行っていただけませんか?」
歯切れが悪い。
何か不味い事でも起きたのだろうか?
入団取り消しとか?
「副団長?いいけど。何だろう?」
取り敢えず、それ以上は何も話をしそうになかったので、先に朝食を食べる事にした。
きっと副団長が何か話してくれるはずだと思うし。
朝食を取り終えた私は、ヴォイドと一緒に副団長の部屋まで行った。
行く途中アイオン先輩が居たので、副団長の所まで一緒に行く。
彼もどうやら用事があったらしい。
ノックをして扉を開ける。
今日は、アリーオさんはいないみたいだ。
あれ?
ヴォイドが入らない。
「あれ?ヴォイド入らないの?」
「いえ、今回は入室許可無いですから」
そう言って、苦虫を潰した様な顔になった。
仕方がないので、そのまま入室した。
「ふむ、朝からすまないな。実はル……いやレイに話がある。入団早々申し訳ないが」
あぁ、やっぱり内定取り消しなのだろうか?
ちらっとアイオン先輩に目をやる。
やっぱり落ちたとかの話は、他の人にはあまり聞かれたくないし。
「ああ、アイオンにも関わる話だ」
私の視線の先を読んだのか、副団長が言う。
ん?
駄目でしたの話ではないのか?
副団長の方を見て、先を促す。
あ、アリーオさん帰ってきた。
目礼だけしておく。
「でだ、入団早々な話だが、レイにやってもらいたい事がある。何、恐らく、2・3日で終わる話だ。訓練は初日から抜ける事になるが、その事は気にしなくていい。どうせ初めは、吐くぐらい走り込みするだけだしな」
何だか参加しなくてよかった的な訓練内容だけど、この頼みって絶対トラブル関係だよね?
受けたら後悔しそうな臭い、プンプン。
「そこで、やってもらいたい事なのだが、うちの隊員を潜入させたい場所がある。ただ潜り込むだけだと疑われる。なので、より信憑性を持たせる為に、女性を伴って行く事になった。その女性をレイにやってもらいたい」
「私が女性役をやれと?」
思わず片眉をあげる。
副団長がうなずいた。
「大雑把に説明する。レイには交渉材料になってもらう。まず、内部に入るために交渉条件を提示する。この時条件を出すのは、一緒に行く隊員だ。交渉相手がその交渉条件に食いつけば、成立するはずだ。成立後隊員が内部に潜り、取引が始まるまで待機。違法取引が始まったらその現場と証拠を押さえる手筈になっている」
ふむ、私が鶏のえさねー?
えさを上手く使ってそれを調理できるかはその隊員次第ってか。
それにしても、本当に大雑把な説明だな、おい。
「ここまではいいか?この件がうまく行けば、敵の資金源が潰え、現在遂行中の別の作戦もほどなく完了するだろうと考えている。これで先日のしゅぅ」
「副団長お待ちください」
今まで黙って聞いていたアリーオさんが、待ったをかけた。
「私はレイの侵入には反対です。女装だとすぐに判ってしまいます。それならば、始めから雇われ者を使えば済む事ではないですか」
そうだ、そうだ。
いいぞアリーオさん。
「アリーオ、この一連の作戦は団長が陣頭指揮を執っている。それに先だって雇われによる情報漏洩が有ったばかりだ。なので、今作戦には絶対に使うなとの事だ。よって、今回は隊員のみでこなさなければならない。そういう事情から、レイを起用するに至った。これは、すでに決定事項だ。変更はない」
アリーオさんはこれ以上反論できないのか、引き下がった。
「レイもいいな」
これで、拒否できなくなった。
「了解」
頷く。
「この件が片付けば、先日の様な襲撃は暫くなくなるだろう」
ああ、つまりこれは、昨日国王が言ってた団長丸投げの件に繋がっているのか。
「では、アイオン」
「はっ」
「今回の作戦においての現場責任者及び指揮はお前だ。1ウェジェ後に作戦室にて関係者を集めての確認作業を予定通り行うが、その時の進行はお前に任せる」
「サ、いえ了解しました」
副団長に敬礼するアイオン先輩。
真面目な顔をしているので、一瞬別の人かと思った。
「頼んだ。では、解散。ああ後、レイだけ残ってくれ。アリーオ、この書類を団長と宰相の所へ」
「判りました。それでは失礼します。レイ、どうか無事で」
アリーオさんが、すれ違いざまに頭を撫でて出て行った。
って、私もう三十路越えてるんですが……
ていうか、もう性別ばれてますよね、アリーオさんに。
そうしてアイオン先輩も、副団長に挨拶をし部屋を出て行った。
何だか生温かい眼で先輩に見られてしまったが。
恥ずかしい。