76.
あれから2時間近く、飲んでいた。
地球時間でいえば、夜の11時くらいだろうか?
「多田さん、もうそこら辺りで止めにした方がいい」
あまりにハイペースで飲むものだから、宗谷英規にストップをかけられた。
まだそんなに飲んでない。
飲み足りない。
「いや、いい飲みっぷりだな」
なんだか、国王にも呆れらてしまった。
もういいじゃない、淑女とか言われる年は過ぎてるんだし。
恥じらいとかそんなものは、地球に置いてきましたよ。
「そんなことより国王、昨日の襲撃犯どうなってるんです?」
酔いがいい感じで回ってきた。
今日はよく寝れそう。
でもまだ飲みたい。
「ああ、あれか。あまりにお粗末すぎてな、追う気にならん」
あれは駄目だとか、なってないとか呟く国王。
犯人にダメ出しって。
まぁ、私から見ても、あれはちょっと。
「ダメですよー。ああいうのを放っておくと、後で後悔するんですから。ほら、よく言うじゃないですか、1匹見つけたら見えない所に100匹はいるって。次から次へと湧いてきますよ?」
うわ、想像したら嫌だな。
嫌な襲われ方としては、突然物体Xがこちらに向かって飛んでくる事だ。
あれは肝が冷える。
目の前に影を見ると、流石の私でも背中が粟立つ。
そして一番嫌なのが、寝ている時に襲撃される事。
あの時の気持ちの悪さといったら。
あれはないなぁ。
今では、少しでも気配を感じれば、どんなに深く眠っても私は目が覚める。
もちろん、それなりの対処をさせてもらうけど。
それはもう丁重に。
ふふふふふ。
「ゴキブリの事?」
宗谷英規が聞いて来る。
おっと、また口に出てたか。
「やだなー、襲撃犯の事ですよ。害虫には変わりありませんが。どちらにしても、早期発見・早期駆除ってね?陛下も早めに襲撃犯の件、何とかした方がいいですよ?」
「ふむ、まぁそこら辺りはアレイに任せている。あいつならうまく治めるだろう」
「丸投げー」
そう言って私はくすくす笑った。
「丸投げはしてないぞ。これでも把握はきちんとしている」
国王が憮然としているが、目が笑っているので本気で丸投げしてそうだ。
「していなかったら、ダメダメじゃないですか。でも、もう主犯は判ってるんでしょ?」
「まぁな。やはりというかなんというか、結果がありきたり過ぎて正直つまらん」
つまらんって言われても。
いったい犯人に何を期待しているんだ。
「命を狙われていて、つまらんの一言で片づけてしまう陛下って凄い」
思わず呟いてしまった。
「何だ、惚れたか?その気があるなら後宮に上げてもよいが、どうだ?」
ニヤッと笑いながら私に聞いて来る。
これは、国王自らの就職スカウト?
けど就職先がこの国の後宮で、役職が王の嫁か愛人かって、どんなだよ。
しかも絶対条件として、転職不可だし。
ないなぁ。
ないない。
どんな条件でも、断るなぁ。
「どうだと言われても、選択肢にすら上がりません。それに、さっきのは褒めてませんよ、私」
「なんだ、残念」
残念言うな。
「おお、いかん。長く付き合わせてしまったようだ。そろそろ、お開きにせねばな」
そう言って、国王が立ちあがる。
この国王、結構酒に強い。
きつそうなエタノールもどきを何杯も飲んでる割に、足取りが全くぶれていない。
ここで襲われても、この状態の王なら何とか凌げそうだ。
宗谷英規は、途中でセーブしていたのを知っている。
こういうところは、大人だなぁと感心する。
そして私も立った。
「陛下、とても楽しかったです。お酒御馳走様でした」
そう言って、正式な礼をする。
頭をあげると、国王は満足そうな顔をしていた。
「中々、酒につきあってくれる女性がいなくてな、今日は有意義だった。エィキ、ルイを部屋まで送ってやってくれ」
「解りました。では、そろそろ失礼いたします」
宗谷英規も暇を告げる。
もう一度礼をして、オフィスを後にした。
私の隣に宗谷英規。
後ろには、ヴォイドと宗谷英規の護衛が後をついて来る。
何となく変な感じだ。
そんな事を思っていると、宗谷英規が口を開いた。
「で、なぜ君は騎士団に入ろうとしている?」
廊下の気温が一気に下がった。
国王と飲み会編、これで終わりです。