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自称現実主義者の異世界トリップ  作者: GUOREN
国王陛下と宗谷英規と飲めない現実主義者(自称)
74/228

74.

侍従長に付いて向かっている場所は、オーバルオフィスだとかの、国王が執務する部屋だそうだ。

ついこの間ナリアッテに聞いた話によると、国王のオフィスは私の部屋の1つ上の階の中央付近にあるとの事だった。

で、今ひたすら向かっている訳だ。

流石外交の場として利用するフロアだけあり、全体的に品の良い調度品等が、華美になり過ぎない様に計算されて配置されている。

この辺りに敷かれている絨毯や絵画等をよく見ると、群青やボルドー等の色を基調色にしているのが判る。

その為か、フロアが全体的に統一感が出ていて、中々雰囲気がいい。

もしかすると、この国のナショナルカラーなのかもしれない。

そんな事を考えながら歩くうちに、どうやらオフィスに到着したみたいだ。

「アイエネイル・タダ。こちらに陛下が居られます。どうぞお入りください」

「侍従長、案内ありがとうございました」

私が礼を言うと、やはり驚かれる。

もしかして、礼を言う習慣が無い国なのだろうか?

侍従長が、扉を開けてくれたので、中に入る。

オフィスは20畳程の広さで、扉の正面奥に執務用の机があり、書類らしき物が山積みになっていた。

どうやらその裏に、国王が座っているらしい。

らしいと言うのは、皮紙で出来た書類が、比喩では無く視覚的に山になっていて、国王の姿が見えなかったからだ。

少しでも机が揺れれば、すぐに書類雪崩が起きるだろう。

「ああ、来たな。お前達は下がっていいぞ」

国王がそう言うと、ヴォイドと侍従長をオフィスから追い出した。

扉が閉まる音を聞いてから、私は正式な礼をする。

「ああ、そう畏まら無くても良い。顔を上げてくれ」

そう言われたので、顔をあげる。

「お招きに与かり光栄です、陛下」

「こちらも会えて嬉しい。宰相補司も、もう来ている。隣の部屋へ案内しよう」

国王が席を立つ。

一瞬書類が揺れるが、崩落には至らなかった。

どうにもあの机を見ていると、ジェンガやヴィラ・パレッティをしている気分になる。

よく崩れなかった事だ。

「どうした?」

動かない私を見て、国王が訊ねてきた。

「あ、いえ。絶妙な均衡で、机の上に書類が積み重なっているので、揺れた時に崩れてしまわないか、少し緊張してしまいました」

「ははは、仕事量が一向に減らなくて、書類だけが積み重なっていく。偶にはこうして酒でも飲んで気分を紛らわせんとな」

そう言いながら、国王は私に近づき手を差し伸べる。

「では、隣の部屋へ案内しよう」

促され、国王のその手に自分のものを重ねた。

オフィスにはもう一つ扉があり、そこから隣の部屋に行けるようになっていた。

そこは、オフィスより一回り程小さな部屋で、応接セットが有る事を見ると、休憩やちょっとした話し合いに使われているようだ。

先に来ていた宰相補司、宗谷英規がソファに座って待っていた。

とりあえず私も下座に座る。

あくまで日本基準だが。

「夜分遅くに付き合わせてすまない。一度君らにゆっくりと会っておきたかったのだが、その時間をなかなか作れなくてな」

そう言うと、侍従を呼ぶ。

今度は、侍従長とは別の人物が応じた。

国王が何かを伝えると、しばらくしてお酒が運ばれきた。

本当に飲み会なんだ。

「2人とも、何を飲む?エィキはエウェジークで良かったな?」

おお、ウィスキーもどき。

あれ美味しいんだよね。

「ルイは?エアエイでいいか?」

国王が聞いて来る。

ワインもどきも美味しかったので頷く。

国王の侍従がそれぞれに杯を配り、お酒を注いでいく。

芳醇なお酒の香りが部屋に漂う。

国王は私の知らない酒を飲む様だ。

透明度の高いお酒で、匂いはエタノール?

まさか本当にエタノールじゃないだろうな?

ちょっとどきどきする。

それぞれの杯にお酒が注がれたのを見計らい、国王がリオンア(乾杯)と言った。

私も宗谷英規も、リオンアと返す。

この国での乾杯は、リオンアと言ってから杯をくるっと水平に回転させるのが慣わしらしい。

「さて、エィキの話はこの間に聞いたので、今度はルイの話を聞きたい。ルイはエィキと一緒のところから来たんだな?」

乾杯をした後、国王が尋ねてくる。

どうやら、宗谷英規は国王と何度か会っているようだ。

まぁ、役職が宰相の次の次に偉かったら、会って話す事ぐらい有るのかもしれない。

そういえば、国王は昨日の夜会で、地球の事を知りたいみたいな事を言っていた。

きっと今から、いろんな質問をされるんだろうなぁ。

「はい。地球という惑星、えーと、とにかく、その地球の中のニホンという国から来ました」

「エィキはニッポンと言っていたが、別の国か?」

私が杯に手を取ってお酒を飲もうとすると、国王が質問してきた。

「いえ。言い方がニホンやニッポンの他何種類かありますが、同じ国です」

手に持った杯を口に近づける。

「そうか。ルイもカイシャというのに所属しているのか?」

が、又もや質問される。

国王は、会社組織の事を宗谷英規から聞いたらしい。

何だか興味津々だ。

「はい、私も彼と同じく、会社組織に所属しています」

う、目の前においしそうなエアエイが有るのに手が出せない。

私を試しているのだろうか?

「カイシャというのは、店等と同じと受け取っていいのか?」

「若干意味合いが違うかもしれません。個人の店は、一般的に個人事業主が設立し、経営をします。しかし会社は、会社法という法律に基づき出資者で社団を組織し、国の認可を受けて会社を設立し、その代表者が経営を行います。そこは、宗谷さんのほうがお詳しそうなのですが」

ちらっと宗谷英規の方を見て、後は宗谷氏に話を振ってね、と期待をこめて言ってみる。

そして、今だとばかりに杯を手に持つ。

「組織と言う事は、個人の店は当てはまらないのか?」

続けて国王が私に問う。

あぁ、エアエイが近くて遠い。

たった50cmの距離なのに、又もや30cmしかあげれなかった。

「ええと、厳密には当てはまりません。例外があったと思いますが、忘れました。あのー、素人なのでそれ以上は突っ込まないでいてくれると、うれしいです」

突っ込まないでと言ったのに、そこから国王の怒涛の質問攻めにあった。

あの、私もお酒飲みたい。

エアエイだけじゃ無くて、エウェジークも飲みたい。

そのエタノールもどきも気になるし。

その後国王は、会社の組織や運営、資本主義の原理からはじまり通貨や物流、通貨価値や外国為替に貿易、はては株式に至るまで私に聞いてきた。

こういう事に詳しいはずの、宗谷英規では無く私に。

隣の男は一切口を挟まず、ひたすら飲むだけ。

な、お代わりまで。

羨ましい事してんじゃないよ。

私なんて、エアエイを一口飲んだだけだというのに。

「ふむ、中々奥の深い話だな。それらを導入しようとすると、中々難しいか」

「あのー、宗谷さんとそういった話はされなかったのですか?」

絶対しているはず!

「エィキの話は難しすぎる。専門用語を連発されて、理解不能だ」

国王の、その不貞腐れる様が何とも可笑しい。

思わず和んだ。

それにしても、いったいどんな話をしたんだろう。

「宗谷さん、どうやって説明されたんですか?」

隣の宗谷英規に聞いてみる。

「概ね君と同じだ」

「絶対嘘だ」

思わず言ってしまった。

この間、総出で宗谷英規の会社へ謝りに言ったときの論調からいくと、私と同じ説明しているようには思えない。

きっと、難しい単語を並べまくって、理路整然と説教調で説明しているようなイメージが沸く。

実際国王への説明は、どうだったんだろうか?

「嘘じゃない」

じと目で見ていると、否定された。

「あれのどこが同じ説明だ。ルイのほうがよほど解り易いぞ」

国王が私に賛同する。

「ちなみに陛下は、会社の説明をどのよう受けられたのでしょう?」

国王に聞いてみた。

その間にエアエイを一口いただこう。

「よく判らなかったので、そのまま言うぞ」

私はうなずいた。

「カイシャとは下部士気が医者郷名が慰藉格子外遮又は郷道が慰謝の事を言う」

一気に言う、国王。

何だろう?翻訳がおかしな事になっている。

意味が判らない。

それにしても、よく覚えていたな。

「私には、呪いの呪文のように聞こえるのですが」

「同じく余にも呪文にしか聞こえなかった」

2人同時に宗谷英規を見る。

「会社とは株式会社・合名会社・合資会社又は合同会社の事だと言ったのだが」

宗谷英規が困り顔で言う。

「宗谷さんそれ間違って無いけど、説明としてどうかと思います」

そりゃ専門用語だらけで、意味が解らないだろうよ。

そもそもこの国に会社の概念が無いんだから、そんな説明じゃ誰だって解らない。

いや、概念の有るなしの問題でも無い様な気もするが。

ああ、3杯目!

お代わり、狡い。

思わず、物欲しそうに宗谷英規を見てしまった。

「その後の説明もほぼ全滅でな、カイシャの概念だけは何とか理解した。さて、難しい話はしまいにして、もっと色々2人の世界について話してほしい」


そうして、やっと私もお酒が飲めた。

万歳!

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