68.
そこには、セットを乱され不貞腐れている少年が一人。
すまん、つい思わず衝動的にやってしまいました。
反省。
「お前、絶対俺の事、そこらへんのガキだと思ってるだろう」
「ぜんっぜん、思ってません」
私は、首を左右に振りまくる。
ガキだとは思っていませんよ?
ガキだとはね?
それをじと目で見るジョアーグ。
「本当かよ。見てろよ、俺はいずれ団長のように、出来る大人になってみせるからな」
ジョアーグは何かを決意して、宣言した。
目に力が宿っている。
おお、何だかみなぎっている。
あれ?
「団長?なぜそこで団長?」
「お前なぁ、騎士団団長って言やあ、この国にいる奴だったら普通に憧れるだろうがよ。団長みたいになりたいとか、一度でも思った事ないのか?」
「いやぁ、そこら辺解んないんだわ。ジョアーグィは」
っ痛、舌噛んだ。
あーもう、名前長いなぁ。
「ジェイは団長みたいになりたいのか?」
私がジェイと言ったら、なんか照れてる。
こういうところが、犬っぽいんだよなぁ。
「当たり前だろう?小さい時からの目標だったんだから」
拳を握りしめて、なにやら力説しはじめた。
こいつは、本気だ。
なんだか圧倒されてしまった。
「そ、そうか」
これ以上の団長の話題は、タブーだと直感した。
ジェイは、なぜかは知らないが、団長の事を妄信している。
下手な事を言ったら、倍になって返ってくるような気がする。
ここは黙っておくべし。
それにしても、恐るべし団長。
老若男女問わないそのカリスマ性は、ここまで来たらもはや宗教レベルかもしれない。
そこへヴォイドが慌てて戻ってきた。
「話は済んだみたいだな、じゃあそろそろ行かないか?」
ジェイが早く行きたそうに言う。
「そうだな、揃ったことだし寄宿舎へ行こう」
続けて私がそう言うと、ヴォイドが怪訝な顔をしている。
あれ?
どうかしたんだろうか?
「レイ、寄宿舎で生活するつもりですか?」
ん?
何か問題でもある?
「え?そのつもりだけど?どうせ1ヶ月で移らなきゃならないんだったら、今移っても一緒じゃないか?ダメ?」
小声でヴォイドに問う。
するとヴォイドが一瞬動揺したように見えた。
「ダメで……はない。むしろねが……あ!いや、その、やはりダメだ!ええ、ダメです」
どっちだよ。
「えーと……」
私が困惑していると、ヴォイドが慌てた。
「あ、だからそれは、その」
ヴォイドがちらっとジェイや他の合格者たちの方を見た後、言葉を続ける。
「色々と問題が発生しそうで……その」
ここでは言いにくいことなのだろうか?
最後がしりすぼみになっていた。
「まぁ、今移らなくても、結局1ヶ月後には移動しなきゃでしょ?」
「それは、そうですが……」
まだごヴォイドがにょごにょ言っている。
「なぁ、そろそろ行こうぜ」
ジェイがじれたのか、いいタイミングで歩を促す。
「そうだな。行こう」
私が同意すると、しぶしぶといった体でヴォイドが付いてきた。
はっきりしないなぁ。
何が問題なんだろうか?
後でもう一度聞いてみるか。
取り敢えず、この問題は保留にした。
しばらく歩くと、寄宿舎が見えてきた。
他の建物よりは、こぢんまりとしている。
収容人数が少ないからだろう。
その寄宿舎周辺には、すでに結構な人が集まっていた。
「うわー、見事に貴族ばっかだな」
ジェイが言う。
よく見るとジェイの言う通り、沢山の荷物を囲んでいる貴族とその従者が、宿舎の周りに屯していた。
この集まり具合をみると、どうやらこちらが面談をしている時から、寄宿舎に移動を開始していたみたいだ。
貴族は皆通ってくると思っていたので、これには驚いた。
割と寄宿舎で過ごす方を選択する貴族も、多いらしい。
「説明会の時に居た人達が、少ないな。一旦帰って、荷物でも取りに行ったのだろうか?ジェイは、取りに帰らなくていいのか?」
「部屋割と同室者が気になったから、先に手続き済ませておこうと思って。後で取りに帰ればいいし」
「それもそうだな。じゃあ、入舎手続きを先に済ませてしまおうか」
私が言うと、2人が同意した。
受付は外に設置されていた。
私たちの名前を確認した後、受付係の騎士が、鍵を其々に渡してきた。
部屋の鍵だ。
その後、案内係の騎士が宿舎をざっと案内してくれた。
風呂だけが共同らしく、トイレなんかは部屋に設置されているらしい。
あっ。
そうか、ヴォイドの心配ってこれの事か。
あらら。
まぁ、うーん、風呂対策は後で練るか。
どうやら先着順で部屋を割るらしく、1階の1番奥の部屋が割り当てられた。
早めに寄宿舎に来て正解だな。
1階だと集合とか楽だし。
上手くいけば廊下とか色んな窓から出入りできるし。
まぁ、構造にもよるけど。
部屋の中に入ると、10畳ぐらいの空間に2段ベッドが2つと机が並んでいた。
小さな机が適当に配置して置かれている。
そんな所が印象的だ。
どうやらこの部屋は4人部屋で、全員同じ部屋になれたみたいだ。
ジェイが喜んでいる。
「後一人って、どんな奴だろうな?」
「確かに気なるな。先着順なので、もうすぐ来るんじゃないか?」
噂をすればというやつで、この部屋がノックされる。
「どうぞ」
ヴォイドが返事をすると、扉が開く。
20歳前後の男が入ってきて、恭しく口を開く。
「失礼いたします」
入ってきたなり、一礼する。
「本日より、こちらで過ごされます、ウィロアイド=リジェン=ケウェオ=ケナンヴェマ様でございます。どうぞウィロアイド様」
自分は脇に寄り、後から来た人物に入室を促す。
どうやら同室者は、後から来た方の人物らしい。
貴族だ。
入って来た貴族が、こちらを見回す。
うーん、あまりいい目ではないな。
「ご苦労。アレン、ここまででよい」
「かしこまりました。お荷物は後ほど運ばせますゆえ」
「任せる」
「では、私はこれにて」
アレンと呼ばれた20前後の男が、静かに去って行った。
この一連のやり取りをジェイがぼけーっと見、ヴォイドはやや眉を寄せて眺めていた。
「ふん、お前ら庶民が同室か。これは先が思いやられるな」
「なっ!」
これはこれは、面白いやつが同室になったものだ。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
寄宿舎編始動です。
どうか引き続きお付き合い頂けると、うれしいです。