65.
面談が終わり、廊下を挟み向こう側の壁にもたれかかって腕組んで待つ。
ああ、こういう所がオヤジなんだ。
直そう。
ヴォイドの面談は、数分足らずで終わった。
なんだか、事務連絡のみという感じの長さだ。
「副団長は何て言ってた?」
気になったので、ヴォイドに尋ねる。
「引き続き頼むと」
どうやら副団長に、一通りの説明を受けたらしい。
つくづくヴォイドには申し訳ないなぁ、と思う。
というのは、本来なら近衛として、王族や王族に連なる人々の警護をしなくてはならないはずなのに、こんな一般人の護衛なんて小さい事をさせているからだ。
ただ大人しくしていればいいものを就活まで始めたのだから、ヴォイドにとっては始末に負えないというところだろう。
さらに、巻き込まれて再受験までやらされるとか、彼にどれだけ負担をかけているかと考えると、胃が心配になるほどだ。
それにしても、彼の一般業務からかなりかけ離れている仕事内容だと思うのだが、契約内容とかどうなっているんだろうか?
労務に関する法律とか、色々無視されている様な気がするのだけど。
休みとか休みとか休みとか……
彼女の一人や二人いるだろうし。
もしや新婚だったり?
うわ嫁とか子がいれば、怒られてそうだな。
たまには子供の面倒を見てよ、とか、ネズミーランドに行く約束したじゃないパパ。とか言われてそう。
大丈夫なんだろうか?
「彼女も嫁もいませんが」
ヴォイドがぼそっとつぶやく。
あぁ、この勤務体制じゃ彼女作るの無理だわなー。
今度、労使関連を確認してみるべきだな。
どうもそういう法律は、整備されていない感じがする……
まぁ、王政だし異議申し立てる権利は、騎士団に所属した時点で奪われるのかもしれないなぁ。
一度ファインさんか、宗谷英規に相談してみるか。
と、脳内メモにメモっておく。
それはともかく、ヴォイドは上司にやれと言われて渋々、全く関係の無い仕事を引き受けたのだろうと思う。
上官命令は絶対とかなんとか、逆らうと軍規がどうとか。
そういった事を考えていると、私は頭を下げずにはいられなかった。
「ヴォイド、色々迷惑かけてごめん」
「いきなり何を言うかと思えば……」
少し呆れ顔で言うヴォイド。
「貴女が気にかける事ではありませんよ。こう見えて、結構楽しんで護衛してますから。それに彼女いませんから」
と、笑顔で言いきるヴォイド。
ちょ、護衛楽しむようになったら終わりだよ。
それ職業病だよ。
気持ちが解る分、何だか涙が出てきた。
それから、彼女がいないと堂々言ってる自分が悲しいと気づいておくれ。
お姉さんなんだか心配になってきたよ。
「そうか、そう言ってもらえると助かるな。じゃあ私は、御免ではなく有難うと言うべきか。これからも宜しく」
そう言いながら手を差し出すと、ヴォイドはすごく照れた顔して私の手を握り返した。
「ああー!!ちょっ、俺も俺も、俺も宜しくしたい」
突然、どたどたという足音が聞こえた為そちらを見ると、突進してくるジョアーグがいた。
「解ったから、廊下を走るな。それから叫ぶな」
ヴォイドがジョアーグを叱る。
ジョアーグが、ちょっとしゅんとなっている。
その姿が一瞬犬みたいに見え、思わずジョアーグの頭をワシャワシャと撫でまわしてしまった。
触り心地の最高な犬……
ちょっと癒される。
「お、おい。何するんだ、よっ」
"よ"と言ったところで、両手で私の肩を突き飛ばしジョアーグが離れる。
うーん結構病みつきになる毛質だったが、今回はあきらめる。
残念。
セットが思いっきり崩れていたので、直してあげるべきか否か……悩む。
弟がいたらこんな感じ?
「あ、悪い。ついジョアーグ見てたら、イヌ……癒し系動物みたいだと思ってしまって無意識に」
「なッ。動物扱いしやがって。それに俺はこう見えてもお前より年上だ」
「……え?」
何々?今嬉しい事言わなかった?
でも10代はちょっと余りにもサバ読み過ぎだよね。
ココ薄暗いから、どうせ夜目遠目なんだろうよ。
きっと日の光に当たったら、実年齢ばれるんだろうな。
「なんだよ。どうせ俺は背低いし、16には見えねーよ。悪かったな」
どうやら、背の高さと16に見えない事が、コンプレックスらしい。
16だったらこれから伸びるし、気にしなくてもいいと思うのだが、理想はヴォイドの高さだそうだ。
180ちょいか。
確かにバランスのいい高さではあるけど。
悩みは人それぞれなんだな。
気を取り直して、私はジョアーグに向かい合った。
「そんな事は気にするな。ともかく、ジョアーグ、これからも宜しく」
ジョアーグに手を差し出した。
「てことは受かったんだな?」
そういうと、ジョアーグも笑いながら手を握り返してくれた。
その上に、ヴォイドも手をのせ「宜しく」と言う。
三人はしばらくその雰囲気を楽しんだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
と私がいうと、ジョアーグが変な顔をする。
「おいおい、何を言ってんだ。この後、合格者だけ集まるように言われてるだろう?」
思わず、ヴォイドを見る。
ヴォイドは首を振る。
私は肩をすくめた。
その件は聞いていない。
もしかして、入団後のオリエンテーションでも始まるのではなかろうか?
一応聞いておいた方がいいだろう。
「もしかして、その為に戻ってきてくれたのか?」
「お前ら降りてこないし、合否が気になったし」
照れている姿がまた、初々しい。
何だこの癒し系動物は。
手が思わず頭へと向かうが、ぐっと堪える。
「そうか。悪いな、遅くなって」
とか言って、結局私はジョアーグの頭をまたワシャワシャとしてしまった。
やば、これ止められないわ。
「それでは行きましょうか」
と言って、ヴォイドがジョアーグを促す。
「そうだな」
なんだか疲れた様子のジョアーグの後について、私たちは合格者部屋に行くことにした。
あ、結局年齢訂正できなかった。
ま、いいか、いいよね、このままで。
だって、若く見られたいのは女の子の三大欲求の一つだもんね?
ワカイ・カワイイ・胸デカイ。
はんっ、どうせどれも持ってませんよ私は。
ここまで見捨てずお読みいただいた方に最大の感謝を。




