63.
風呂に入って朝食を食べ終えた私は、しばらくその場でボーっとしていた。
今まで試験対策の為に行動していたので、終わっしまった今は特にする事がないのだ。
なので、今後の事について考える。
足場を固める為に、就職をしようと思い立ち運よく入隊試験を受ける事が出来た。
そこまでは良かった。
何か政治的な事に巻き込まれた時用に、IDを2つ持つことにも成功した。
ここまでも良かった。
だけど、夜会の時に団長の女装発言で、レイと琉生が同一人物であるという事がばれた。
この王宮にいる間は、どうやらレイとして過ごす事を余儀なくされそうだ。
私が女であることを知っているのは、今のところ副団長・ヴォイド・ナリアッテ・宗谷英規の4名。
完全に男と思っているのが、団長とキョウキーニ殿下。
ファインさん・アリオイエさん・アイオン先輩・キースについては保留。
おのれ。
返す返すも腹が立つ。
団長め。
何もあんな公の場で言わなくてもいいじゃないか。
ただでさえ声が通るのに。
はぁ、過去が修正されるはずもないので、取り敢えず前向きにいこう。
だけど、いつかぎゃふんと言わせてやる。
さて、今後の事を考える為、副団長に相談しなきゃならない事がある事に気づいた。
今日はそれを片付けよう。
外で待機していたヴォイドを呼んで、今から副団長に会う事を伝える。
ヴォイドが誰かに言伝を頼み、先触を出してくれた。
副団長からOKの返事が返ってきたので、今から向かう事にする。
王宮から西に向かい、しばらく歩くと練兵場が見えてくる。
練兵場では、訓練が始まっていて剣戟の音が聞こえきた。
この音を聞いても、違和感を覚えなくなってきたあたり、この国にも慣れたんだなぁとしみじみ思う。
まぁ、もともと順応性だけが売りの所があるし、私。
練兵場を抜けると、士官宿舎か何かが集まっている場所に出る。
確かその奥に副団長の執務室がある建物があったはずだ。
その建物の3階だったはず。
迷わず中に入っていく。
すると、人が大勢いた。
おや?何かイベントでもあるのかな?
と思ってヴォイドに言うと、はっとしていた。
「忘れていましたが、今日受験者面談の日です」
私もハッとした。
一旦私とヴォイドは外に出て話す。
「そういえば、あったねそういうの。でも連絡なかったよね?確か剣技合格者のみ通知し、面談を行うという話だったよね」
「すみません、すっかり忘れていました。確かに連絡はありませんでしたね?」
ヴォイドが恐縮しながら言う。
「もしかして、私たち落ちた?」
「それは、少しショックです」
沈むヴォイド。
よし、これは直接聞かねば。
という事で、他の受験者に紛れることにした。
中に入ると、やはり受付があり、そこで受付をすませる。
受け付けが少し不思議そうな顔をしたのが気になったが、取り敢えず番号札をもらう。
順番はどうやら先着順らしい。
それから面談は3階であるらしい。
ってことは面談者、副団長の可能性大。
因みに団長は、王宮にいる事が多い。
勿論ナリアッテ情報。
私が42番でヴォイドが43番。
最後尾に並んで大人しく順番を待っていた。
ヴォイドが沈んでいるので、きっと手違いだよとフォローを言ってみた。
どうもヴォイドは、浮上するのに時間がかかるらしい。
しばらく放置しようと決め、ボーっとしてると41番目の人が話しかけてきた。
「あんた、昨日の16番だろ?」
人懐っこそうな顔で尋ねてくる。
「え?あぁ、そうだけど?」
「俺、ジョアーグってんだけど、昨日あんたの試合面白かった」
「ああ、レイだ。よろしく」
と言って手を差し出す。
相手が手を握ってきた。
「で、こっちがアンヴォイド」
あ、今更だけど本名でよかったんだろうか?
まぁいいや。
ヴォイドとジョアーグが握手を交わす。
「あんたら二人強いなぁ。特にアンヴォイド。昨日の試合凄かったよ。世の中には上には上がいるんだって改めて思い知った。試験終わったら話しかけようと思ったんだけど、すでにいなくてさ」
え?ヴォイドの試合そんなに凄かったの?
うわ、見たかった。
昨日はキのつくジャンキー殿下に邪魔されて、見れなかったし。
おのれ。
「それは悪い事をしたな」
それから順番が回って来るまで、話を聞いていた。
ジョアーグは、城下町で粉挽き屋を営んでいる次男坊だそうだ。
一生を粉を挽くだけの人生で終わりたくなくて、今回の応募となったわけだ。
おおー、若人大志を抱いてるね。
いいねぇ。
剣の手ほどきは、町の騎士崩れのおじさんに教わっていたとか。
中々自信があったが、団長や私たちを見て世間の広さを思い知ったらしい。
そんなジョアーグ16歳。
若い。
そうなのだ、受験生の大半が10代。
お肌ぴちぴち。
一瞬年齢制限があるのかと思ったが、あそこにいらっしゃる30代風の人もいるから、年齢で弾く事はないのだろう。
色んな事を話している内に、3階にたどり着きジョアーグの順番が回って来る。
緊張していたので、"やる気のある人材が欲しいはずなので、団長と剣を合わせる事ができたなら、はじかれる事はないはず"と言ったら、頑張ると言って中に入っていった。
5分くらいしたら中から出てきて、受かったといっていた。
どうやらその場で合否を言い渡すみたいだ。
さて、次は私の番
次回面談。