62.
ジョギングから帰って来ると、ナリアッテが待ち構えていた。
物凄くいい笑顔を、伴って。
「ルイ様に朗報です。先程のサロンの件なのですが」
「サロン?」
そんな話してたっけ。
「はい。レイ様にサロンデビューしていただこうかと。どうせするなら効果的な人物が揃ってからの方がいいだろう、という話にル・レイ会でなったのです」
「ル・レイ会?この間の何とか会とはまた別なのか?」
ヴォイドが独り言を呟く。
ふむ、ヴォイドは何とか会を知っていたようだ。
何故知っている。
何気に関心を示している様だが、ヴォイドよ悪い事は言わない、あまり関わらない方がいい。
それにしても、効果的な人物ねぇ?
レイの人物像を本格的に固めるのに、有効な人間かぁ。
現在城内に流れている噂を本物にすり替えるだけの、影響力と発言力がある者。
となると、それなりの地位がある人物。
かつ、真昼間からサロンに顔を出せる時間的余裕のある者。
官僚・軍人は忙しそうなので除外だし。
てことは、ニートかリタイアかリクルートかってところ?
うーん。
噂好きなら女性かな?
暇そうな女性なら、どんな人でもサロンとやらに顔を出しそうだ。
「ナリアッテ、どんな人物?」
「ルイ様。この王城に住まう限り、早かれ遅かれ必ずお会いする方です。会っておいて損はございませんわ。その方の心さえ掴めば、随分と王宮生活が楽になりますわよ」
つまり、機嫌を損なえば恐ろしい事態になると。
ますます会いたくなくなってきた。
「ロイミオ王女殿下には、一度お会いするべきです」
う、表情を読まれた。
先手打たれた。
そんな第一級セレブ群に属するような人とは会いたくない。
王様?
いや、彼とはなんだか飲み友達になれそうな……
いやいや、恐れ多い。
いやいやいや、まず係わり合いになるべきではない第一級重要人物だし。
「サロンに行けば、お会いする機会もありますし。ただ、今はウェイルア学院におられるので、サロンデビューは殿下が戻られてから、と考えております」
ウェイルア学院とは、団長も通っていたエリート養成セレブ学院だ。
セレブ学院と言うのは少し語弊があるが。
この学院は、一般民の受け入れも行っており、10%は平民であると聞いた。
さらに、人材確保の為、各国から援助資金が出ており、この学園の教育費はほぼ無償だ。
つまり、かなり家計に優しい教育機関なのである。
それでも平民の入学率が悪いのは、セレブと平民の間に横たわる、教育に対する意識格差によるものだ。
幼少期から専属教師に教育を施され、この学院を目指すセレブリティーと、勉強する位なら働けと、物心つく頃から教育される平民。
教育に対する考え方が180度違う。
この格差が、この10%という数字に現れているのだろう。
とはいえ、王族だろうと何だろうと水準を満たない者は容赦なく落とすのが、完全実力主義のこの学院のモットーらしい。
過去この学院に入学・進学できなかった王族・貴族は枚挙に遑がない。
とまぁ、そんな学院に通う王女様は、時々王や王太子に会いに来るらしい。
結構自由?
それにしても、王女ってそんなに気軽に会えるものなのかな?
「ええ、王宮内に限りますが、結構簡単にお見かけする事が出来ますよ。よくサロンに出入りしたり、お茶会のお誘いがあれば、よく顔を出されますし。陛下と性格がよく似てらして、楽しい事が何よりお好きな方ですわ」
うわー、玩具にされそうだな。
ナリアッテとは気が合いそう。
「ちなみにル・レイ会のメンバーでもあります」
なんですと!?
玩具にされそうではなく、確実に玩具ではないか。
恐るべし、ル・レイ会。
この企画に噛んでる人の名簿一覧が欲しくなってきたよ。
ハはははは。
そういえば、朝食がまだなんだった。
取り敢えず、ごはん食べよう。
うん。