60.
「あ、そうだ。いいこと思いついた」
そう、ここで止めておけば良かったんだよ。
でも言ってしまったんだよ。
本気でどうかしてた、私。
「いっその事、意地でも団長の前では男で通してやろうかと思っているんだけど、ナリアッテはどう思う?」
あ、あれ?
ナリアッテの目の色が変わった様な気がする。
獲物を見つけた野獣の目に見えるのは、気のせいかな?
きらんって、効果音が聞こえそうな目つきはやめて下さい。
思わず後ろに下がってしまったから。
どうやら食いつかれた模様。
この世界は娯楽が少ない。
とことん少ない。
侍女さんたちも例外ではない。
そんな中にちょっとした娯楽を、私は提供してしまったらしい。
ナリアッテの顔を見て、悟ってしまった。
「フフフ、それはとてもいいお考えですわ。とことんレイ様モードになっていただきながら、たまにルイ様モードになって団長を惹きつけ、団長が少し惹かれ始めた時に、レイ様とルイ様どちらが本当のお姿なのか苦悩する団長。その狭間に悩み苦しみルイ様が女性だと気づいた時には、もう時すでに遅く……」
おーい、戻ってこーい。
てか、何設定だそれ。
それから、ナリアッテの言っているような事態にはならないから。
絶対。
それに、団長とか早々会う機会とかないでしょうが。
えーっとそれから、ときどき琉生モードって何?
ナリアッテの中では、どういうシチュエーションになっているんだ?私。
聞くと恐ろしい事になりそうだから、聞かずにおいた。
今度は、選択を間違えなかったようだ。
それにしても、どうやら時代は団長らしい。
しばらく、侍女たちはこの娯楽を手放さない、様な気がする。
「っは!申し訳ありませんわ。私ったら。この件について、ルイ様を綺麗に着飾る為に集う会と、レイ様を徹底的に支える会の両会に伝えねばなりませんわ。ルイ様構わないでしょうか?」
何とか会がもう1個増えてる……
それに、そこで許可求めないで、ナリアッテ。
頭が真っ白になりそうなんだが。
はぁ~。
もうどうでもいいかも。
勢いに押されて頷いた。
頷いてしまった。
両会の存在を知ったばかりで、まだ承認した覚えもないのに……
「会に掛け合って、今後の方針を協議せねば」
使命に燃えきっているナリアッテの顔は、いつもの倍輝いて見えた。
眩しいです、はい。
取り敢えず、使命に燃えたままナリアッテがいつもの仕事をしはじめた。
ただただ、その仕事ぶりを眺めているだけの私。
いつの間にか、風呂もでき上がり、寝る準備をして爽やかに去って行った。
弾むような去り姿が印象的だった。
それを茫然と見つめるしかできなかった。
寝よ。
疲れた~
やっとこれで夜会編も終わりました。
ここまでお読みいただき感謝です。