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自称現実主義者の異世界トリップ  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が性別詐称(確定)
57/228

57.

しばらくその場でじっとしていると、宗谷英規に後ろから声をかけられた。

「あれ?宗谷さん。お疲れ様です」

振り返り、挨拶をする。

習慣というのは恐ろしいもので、おはようございますとお疲れ様は、ほぼ脊髄反射で出る。

異世界だっていうのに、いまだにこれらの挨拶が出てくるのだから、なんだか可笑しい。

職業病だな。

「あ、ああ、お疲れさ……」

そこまで言いかけて、私の顔をじっと見る。

そして、宗谷英規は思い切り眉をひそめた。

急に表情が変わったので、私は少しびっくりした。

「どうかされましたか?」

「どうしたもこうしたも、君、怪我をしてるじゃないか」

と言って、宗谷英規はさっとハンカチを取り出す。

あ、そういえばナイフで傷ついてたんだっけ。

痛みがなかったので忘れていた。

「じっとしていろ」

宗谷英規は、首元にハンカチをあてがい、まだ乾ききっていない血をそっと拭ってくれた。

首元がハンカチに擦れて、僅かにちりっとする。

「どうして君はあんな無茶をした?」

ハンカチで拭いながら、静かに聞いて来る。

顔は無表情だが、声音から怒っているのが良く判る。

「何人かが襲いかかっていた時、あの場で君はじっとして居るべきではなかったのか?少なくとも、この場には何人もの騎士達がいた。君が行かなくても事は済んだはずだ。違うか?」

宗谷英規が、まるで言い聞かせでもするように言ってくる。

ああ、まぁ確かにそうだろう。

別に私が動かなくても、事態は収まった。

団長もキョウキーニさんも、強いのは一目瞭然だ。

それにヴォイドが強いのなら、その他の近衛も実力があるのは考えるまでもない。

そう、あの場で私が出ていく理由など、なかったのかもしれない。

だからと言って、私が何とかできる問題を何もしないで、ただ見ているだけというのは私の性には合わない。

その場でできる事があれば、状況が許す限り行い、出来ないと判断をした時はすぐに退く。

それが私のやり方だ。

「そうですね。ですが、緊急事態に何もしないというのは私の信条に反しますから」

と、苦笑気味に答えた。

「あの場を何とかできるとでも思ったのか!?」

ムッ。

「そうではありません。敵だと認識される前に、幾人か減らす事が出来ると判断したから、行動したまでです。あの場全体を収めるのは、私1人では到底無理です」

「そうではなく、実際に君は怪我をしているだろう?」

宗谷英規は、先ほどとは打って変って、弱々しく呟く。

そして、どことなく悲しげに見えなくもない眼をこちらに向け、首に当てられていたハンカチをそっと離す。

代わりに私の傷口をその長い指でゆっくりと撫でる。

ゆっくりと。

首筋から背中にかけてゾクッと電気が走った感じがした。

体がびくっとなる。

思わず、宗谷英規の目を見てしまった。

切なげに揺れた瞳が、私を捕える。

私は不覚にも目が離せずにいた。

宗谷英規との視線が絡み合い、金縛りにでもあったかの様に、私はその場を動けなかった。

彼の長い指はやがて首の傷から離れ、首筋をなでながら顎へとゆっくりと移動する。

顎を親指で2撫でし、徐に私の顔を上に向かせた。

瞳に吸い込まれそうになり、そのまま目が離せずにいると、顔が少しずつ近づいて来る。

このままいけば何をされるか解っているのに、私の体は相変わらず動けずにいた。

近づいた彼の瞳が揺らめく。

それから、何かを我慢する表情へと変化し、すぐに顔を横に向け逸らされる。

そして、小さく切なげに溜息をつき、名残惜しそうに私の唇を撫でてから手を離した。

「とにかく、無事でよかった……」

掠れ気味に呟かれたその言葉が、すっと私の耳に入ってきた。

それは、何よりも彼の本心から出た言葉であったからかもしれない。

拒否せず頭に届き、私は受け止めた。

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