54.
ナリアッテが言うには、国王が自分の側近くに来た時は、基本声をかけられるか側を去るまで敬意を表する礼をし続けなければならないそうだ。
そして丁度その状況に陥っている、男2人と女が1人。
1部の人間からすれば、男3人に見えるらしいがね。
はん。
この国の国王が、適当に声をかけながら徐々にこちらに向かってくる。
その間、少し膝を落として頭を下げる礼の状態を保ち続ける事、約12秒。
そして、現在進行形でこの状態は続いている。
これはあれか?
私の腰と膝への挑戦状だと、受け止めていいのか?
幸いまだ私は、こんな年でも腰痛や膝痛には悩んでいない。
が、しかし年が年だけに出来るなら労わっておきたい。
いつまでも、若いと思うな膝と腰。
さて、30秒になろうかという時に、漸く国王は私達の前に来た。
国王は、宗谷英規に話しかける。
「エィキ、こちらの女性はお前がエスコートしてるのか?同郷人がもう一人いると言っていただろう?この者か?」
宗谷英規は一度深く頭を下げた後、顔を上げ口を開く。
「はい。彼女は、私と同じ場所から来た者です。生憎、本日はエスコート役にはなれませんでしたが」
国王に堂々と話す宗谷英規。
流石、かつて財界の期待の星と言われただけある。
財界の修羅場を渡り歩き、自然と身に付けたものだろう。
堂々としている。
「ふむ。その方、楽にせよ。名を名乗ることを許す」
国王が、私に向かって言う。
ふー、やっと普通の姿勢に戻れる。
男性陣は、この姿勢を一度でもやってみるといいんだ。
立って礼をし続けるのと違って、女性の礼の方がかなりきつい事を思い知るから。
「お初にお目にかかります、国王陛下。私は琉生=多田と申します。此度陛下には、寄留許可及び寓居を賜り、御高配感謝いたします。その上、この場にお招きいただき、誠に幸せにございます」
簡潔に挨拶の文句を述べ、軽く頭を下げる。
かまずに言えた。
ナリアッテありがとう。
副団長から聞いた国王の性格なら、あまり長い答礼は好まない。
手短に要点を言うのが、正解との事。
私からすれば十分、面倒な感じだが。
「やはりそなたが、ルイなのだな。なるほど噂通りだ」
「恐れ入ります。どういった噂なのか気になるところですが」
思わず首をかしげる。
皆がどういった噂をしているのか非常に気になる。
やはり、男か女かが争点なのだろうか。
非常に不安だ。
「そうだな、うむ。ではこうしよう、近々会う機会を設けようか。その時にでも話そう。それに酒にも強そうだしな」
国王が、ちらっと私が持っていたグラスを見て、にやっと笑う。
あちゃー、やっぱり不謹慎だったよね。
思わず苦笑。
グラスだけでも誰かに返せばよかった。
てか、飲むなって話だよね。
でも、無理。
「失礼いたしました。陛下」
頭を下げる。
「いや、そういう意味ではない。それより何を飲んでいた?」
「エアエイとエウェジークを少々です」
「あれがsy」
ウフフ、いやだなぁ、副団長こんな所で何を仰るつもりかしら!?
他人から見えない速さで、副団長の脇腹をつねってみた。
「いっ」
流石に、鍛えてるから筋肉だらけで脇腹をつねる事は出来なかったが、副作用があった様だ。
副団長は、脇腹が弱いらしい。
「ローアム?どうした?」
国王が、不思議そうに副団長に聞いた。
「あ、いえ何でもありません、陛下」
慌てて、国王に弁明する副団長。
こちらを睨むのも忘れなかった。
なので、にっこり笑っておいた。
「エウェジークもいけるのか。なるほど、なかなか強いらしいな。よし、エィキと交えて酒を飲みながら、その方らの国の話を聞くのも一興だ。必ず場を作ろう。ではアイエネイル・ルイ、楽しんでいってくれ」
私は微笑んで、王族に対する最高礼をした。
「それからローアム、たまには家に帰れ。姉上に小言を言われてかなわない」
「勘弁して下さい」
「こちらが勘弁してほしいよ。じゃあエィキ、ローアムも楽しんでいってくれ」
そういう会話が、副団長たちの間でされていた時、私は暇だったので辺りを見回していた。
ゲストは皆、国王の様子を窺っている。
その視線の中には、嫉妬やらなんやらの負の視線も混じっている。
その中で、昔慣れ親しんだ気配も感じられた。
殺気だ。