52.
「全くだな」
「ですよねぇ?」
あれ?
今声に出してた?私。
ちなみにこの声は、副団長だ。
「あの2人は、なんだかんだ言って似た者同士だ。すまないな。不快な思いをさせてしまって」
申し訳なさそうに謝る副団長。
「いえ、気にしていません。むしろ誤解は誤解のままでいたほうが、私にとって都合がいいかもしれません」
「都合がいい?」
「はい」
思いっきり頷く私。
バトル好き殿下が、レイと顔を会わせる度にバトられるのはちょっと辛い。
彼は、二度と私に近付くなと言った。
このままの方が、平穏に日々を過ごせそうだ。
その状態を維持する為にも、誤解は誤解のままで。
それに、私は入団を諦めたつもりがないのでやはり、そのままにしておいた方がいいだろう。
つまり、女装が趣味の男……
それは……ちょっと嫌かも。
という様な事を、副団長に話してみた。
話したら何やら、ダメージが。
「やはり入団は諦めてなかったか」
え?
そこ?
そこを聞きます?
「キースにも言いましたが、落ちるのを前提として試験に臨むのって、不毛だと思うんですけど」
「それはそうだが……」
副団長が、複雑な表情をして唸る。
あ、いや私、間違った事言ってないよね?
「正直な話、まさかお前が団長とまともに剣を交える事が出来るとは思っていなかった。予定外だ」
副団長が、最後の方を小さい声でぼそっと言ったが、私にはきちんと聞こえていた。
予定外。
予想外ではなく、予定外。
これは、副団長の頭の中では私が途中で失格する、と考えていたという事だろう。
そういう前提だったからこそ、今回の入団テストをすんなりと受験させた。
どうせ、マラソンで脱落するか、万が一実技に通過しても、そこで落とされるだろうという予測の下で。
逆に、実技をしてそこで落とした方が、蟠りも少なく本人も納得するし、落ちたら落ちたで、こちらで何とか就職先を斡旋すればいい。
そう考えていたはずだ。
ところが、マラソンでは16番目に入っているし、剣も下手なりに扱える。
しかも変に目立ってしまったので、手を回して落第にするわけにもいかない。
副団長としては、予定外も甚だしい事だっただろう。
「ルイ、心の声はしまっておいてくれ」
「え?すみません。でもまぁ、強ち間違っちゃいないでしょう?」
副団長が苦笑する。
「まぁ、どちらにせよ、落ちても受かっても就職は必要なんで」
それはもう切実に。
「前向きだな?もし俺がお前の立場だったら、そう前向きになれたかどうか」
「まぁ、現実と向き合えれば、思ったよりも何とかなるもんですよ。それより、私ってこのまま謁見とかしたら、不敬罪とかに当たったりしないですか?性別詐称で」
ちょっと気になったので、聞いてみる。
又牢屋送りとかは、御免被りたい。
「ああ、謁見の話か。そこら辺りは問題ないだろう。陛下は、楽しそうな事に常に飢えているお方だからな。もしばれても、逆にそのまま続けろとか言いそうだ」
どんなトップだよ。
続けろとか逆に命令されたら、なんだかやだなぁ。
「団長が待ったをかけたりは?」
もう1つの懸念を聞いておく。
「それもない。あまり小さなことに拘らない性格をしているからな」
「まあ、そうかも。団長、男だと思っている割には、キョウキーニ様みたいに、この姿に嫌悪してなかったし」
「そのドレスが、似合ってたからじゃないのか?誰がどう見ても男にしか見えない姿だったら、違う反応をしていたかもしれないが」
え?そういうもの?
「ふーん?似合っていたらいいんだ」
思わず、副団長をじーっと見る。
副団長が、ひるんだ。
なるほど、副団長は肌状態がいいのでファンデは薄づきでもいけそう。
眉を女らしくカッティングして、シャドウはその時の着るドレスかなんかに合わせようか。
口紅とチークは……
げ、むかつくほどの美女が出来上がりそうだ。
「おい、まさか想像なんてしてないだろうな?」
「やだなー。むかつく程の美女になったんで、途中で考えるのをやめましたから、大丈夫ですよ」
「思いっきり想像してるじゃねーか。頼むからやめてくれ」
副団長が、何だかげっそりしている。
でも一度挑戦してみたいかも、とか思ったのは内緒だ。
「内緒になってない」
その時、会場が急に静かになった。
何事?
宗谷英規の登場を期待されていた方ごめんなさい。
彼はもう少し後です。