50.
偽13番は会場に入ってきた瞬間、一直線にこちらへ来た。
あらゆる人物を、総無視してだ。
いいのか?それで。
「……んじゃないのか?」
「ああ。私も、そう聞いているが確証がまだだな」
「そうか。まぁ、何とかなるだろ。協力はするぜ」
「ああ、その時は頼むかもしれん」
私が色々考え事をしていたら、その間に団長と偽13番ことキョウキーニさんとが、内々の話をしていた。
ここにいても仕方がない。
という事で、副団長にそれを伝えようとしたら、どうやら2人の話にじっと耳を傾けているようだった。
正直、今話しかけるのは不味いと思ったので、私は諦めた。
それが命取りだった事に、気付かず。
その場を離れるタイミングを完全に逸した私は、ただ会場内を見渡していた。
「で、こんなつまらん話は置いておいて、アレイそろそろ紹介しろよ」
キョウキーニさんが団長に、私を紹介するように促す。
話が一段落ついたらしい。
「何をだ?」
団長が、一体何を言っているんだこいつ?とういうような顔をする。
「いや、何をって、そこの女性はお前の連れなんじゃないのか?」
キョウキーニさんは私の方を一瞬向いて、団長に紹介を促す。
どうやらキョウキーニさんは、昼間の16番が目の前にいる私だと気付いていないようだった。
よしよしそのまま気付くな。
「今日は、誰も女性を伴っていないが」
なにやら、雲行きが怪しい。
「あ、じゃあローの連れ?」
今度は副団長に話を振る、キョウキーニさん。
ローって副団長の事か。
一瞬判らなかったよ。
よし、流れはまだこっちにある。
話を振られた、副団長が少し困ったような顔をする。
「あ、いえ、始めはうちの騎士が伴にしていたようですが…少し今離れているようです」
歯切れの悪い返答に、訝しげな顔をするものの、キョウキーニさんは流す事にしたみたいだ。
「ふーん?ま、いっか。えーと初めまして、オウェインピア」
オウェインピアとは、隣国語で女性に呼び掛けるときの敬称だ。
「私はキョウキーニという。キーニとでも呼んでくれ。珍しくもアレイが女性を伴っているので、少し興味を惹かれてね、よければ貴女の名前を教えてはもらえないだろうか?」
キョウキーニ改めキーニさんが、胸に手を当てて言う。
隣国の略礼だ。
本来は、ここで頭を下げるのだそうだが、そうしなかったのには、理由がある。
実はこの人こう見えて、王族らしい。
先ほど響き渡った名前を聞いて解ってしまった。
一応、今回の夜会に赴くにあたって、来るであろう重要人物の名前を一通り頭に叩き込んでいた。
この国の重鎮から、隣国の王子に至るまで。
ナリアッテ情報によると、彼は隣国の第3王子であり、隣国では団長と同等の地位に当たる、軍務司令に就いているとの事だ。
団長と仲がいい(?)のは、周辺諸国のサラブレッドたちが集まる超名門学校の同期で、どちらも軍職に就く為の学科を専攻していた学友だったかららしい。
まぁ、そんな事は置いておいて、胸に手を当てただけの略礼となったわけは、王族が簡単に公衆の面前で頭を下げるわけにはいかないからだ。
ともかく、隣国と言えども王族に名を乞われては、無視するわけにもいくまい。
「初めまして、キョウキーニ様。ルイ=タダと申します。以後、お見知りおきを。お会いでき大変光栄ですわ」
と言い、私は王族に対する礼をとる。
「こちらこそ、会えて嬉しく思う。どうか顔を上げてほしい」
そう言われたので、顔を上げた。
キョウキーニさんは少しだけ屈み、私の手を取る。
何をするのかと思えば、私の手の甲に口づけた。
それを見ていた団長が、微妙な表情でキョウキーニさんのこの一連の動作を見ていた。
「キニー、一応言っておくが……」
団長が徐に口を開く。
「何だ?」
キョウキーニさんが、団長に顔を向けた。
「そいつは」
「男だ」
女だーーー!!!
せっかくの50話なのに、こんな話ですみません。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると嬉しいです。