46.
「ルイ」
後ろから誰かに名を呼ばれたので、振り向く。
キースだ。
「久しぶりだね、キース」
「あ、ああ。本当にルイか?」
顔をまじまじ見られる。
3日で忘れるからって、そんなにじろじろ見て何度も確認しなくてもいいと思う。
今日はメイクしたから、最後に会った時とは余計に顔が違って見えるからかもしれないけど。
正直、お肌の曲がり角は10年前に曲がりに曲がったので、凝視には耐えられないのだ。
しかも、ファンデを今日はケチった分、結構薄付きだし。
この国は、私の肌の色に合ったファンデ置いてないから、ついケチりたくなるのだ。
あと何回位、持つんだろうか?
無くなった後が怖い。
不安だ。
「そんなに確認しなくても、正真正銘本物の琉生です」
「あ、いや、疑ったわけじゃないんだ」
慌てて弁明しようとするキース。
いやいや、思いっきり疑ってましたでしょうが。
まぁ、レイと琉生を分ける為に、メイクでかなり誤魔化してますが。
でもファンデーションだけは、量が限られているので、誤魔化し切れているかどうか判らない。
「それより、さっきまで近衛三官といたと思ったのだが、彼はどうした?」
無理やり話し逸らしたな。
「ああ、それなら」
さっと目線をヴォイドのいる右の方に移す。
「あっち」
私の視線を追って、キースは彼を確認した。
「なぜ離れているんだ?」
尤もな質問です。
「ヴォイドは、さっき見つけたちょっと不審な人物の監視に行ってるよ」
「不審な人物?」
キースの眉間に皺が寄る。
こう、皺寄ってるのを見るとつい伸ばしたくなるのは、仕方がないと思う。
今は我慢。
「何かあるみたいだね。警備に立っていた、アイオン先輩もいつの間にやら消えてたし」
「それは、気になるな」
「気になるでしょ?」
「それにしても、先輩とは。試験受かる気満々だな」
キースがにやりと笑う。
「落ちるのを前提として試験に臨むのって、不毛だと思うけど?」
「それもそうだが、自信家だと言われた事はないか?」
呆れたように言われてしまった。
「面と向かって言われた事はないよ……」
ちょうど通りかかった使用人から、お酒を貰う。
先程のウィスキーもどきだ。
「ルイ……それを飲むのか?」
顔を引きつらせるキース。
「おいしいよね、これ」
そう言いながら2口。
「信じられん。エウェジーク飲むなんて。もっと酒なら他にあっただろう?色々」
「さっき飲んだけど、ちょっと物足りなくてエウェジーク?に切り替えた」
「切り替えたって。何故よりによってそれに行く」
なんだかすごく呆れられているみたいだ。
確かに度数は高めだろうけど。
飲めない事はない。
むしろ好き。
「ヴォイドが飲んでて、美味しそうだったから」
「美味しそうだからと言って、度数考えず手を出すなよ。ともかく、飲むならこれにしておけ」
と、キースが私の持っていた杯と自分の持っていた杯を交換する。
交換されたお酒の匂いを嗅いで、一口飲んでみる。
わーい間接キス。
ははは、もうこの年になると他人のものなんて、平気でガンガン飲めるようになります。
はい。
「んま!」
思わず呟く。
度数はそれほど高くない。
フルーツ系の香りがとてもよく、飲んだ瞬間口の中に香りが広がる。
ワインより糖度が高めだが、後味がさっぱりとしていてとても飲みやすい。
酸味がやや少ないのが、ほぼ私の好みだ。
「だろうな、恐らく7年前の酒じゃないか?たしか、エアエイの当たり年だったはず。うわ、これもいいのを出してきたな」
私の飲みさしのエウェジークを、キースは一気に飲みほした。
おおー、結構いける口とみた。
「さて、話を戻すが、なぜ近衛三官が不審人物の監視をしている?」