43.
ファインさんが去っていく姿を見るともなしに見ながら、さっきの話が彼にうまく伝わったかどうか、急に不安になってきた。
何せ即興で組み立てた会話だったからだ。
周りに悟らせず、かつファインさんに通じるもので何かないか。
そう考えた時に思いついたのが、月の女神の話だ。
だが、月の女神の話は、あからさまだったかもしれない。
あの童話(?)が、実は湾曲な王室関連の話だというのはこの国で有名なのだ。
うーん、もっと気の利いた話は思い浮かばなかったのか、私。
こういうのはあれだな、メモを渡すのが1番性にあっている。
Hi!・Shake・Bye!だ。
数秒で事足りる。
だが残念な事に、この国では使用人にメモとペンを借りると、持ってくるのに10分かかる上に、もれなく羽ペン、インク壺、でかい皮紙の3点セットが付いてくる。
これは、あまりにも目立ちすぎる。
意味ないし。
「うまく伝わっているといいのだけど」
「え?何がですか?」
思わず呟いてしまった言葉に、ヴォイドが反応する。
「え゛?ああ、いや、それよりヴォイド、この状況をどうやって突破する?」
扇子で口元を隠しながら、隣のヴォイドに尋ねる。
「難しい問題ですね」
そうなのだ、今ファインさんが去った後、数人のお嬢様方に囲まれそうになっている。
しかも皆様、怖い顔をしてたりなんかして。
先程も感じたが、美人が怒ると迫力が2割増しだ。
「ヴォイド、この中で知り合いはいない?」
「残念ながら、よくわからないです」
ふむ、相談相手を間違えたようだ。
打開策はと考えながら、再度ヴォイドを見る。
ヴォイドを見る。
3度見をした所で、これしかないという提案をしてみる。
「よし、ヴォイド。誑し込もう」
私は扇子をパチンと閉じて、ヴォイドに言った。
我ながら名案だった。
「は!?」
「いけるいける。君なら落とせる」
これ以上の突破口は無いに等しい。
「言っている意味が解りません。誑せとか落とせとか」
軽く頭を振るヴォイド。
セットした髪が崩れるぞ。
「そんな事を言っている場合じゃない。よく見ろ、もうすぐここの包囲網が完成されてしまう」
そうなのだ先程から、彼女たちはじりじりと包囲網を完成せんとこちらににじり寄って来る。
しかもここは壁側。
いやな構図だ。
少し焦る。
「どちらにせよ、身分が高い方達っぽいから、無視して行くわけにもいかない。ヴォイドの話術で何とか誤魔化して、この場から離脱を図るしか方法はないと思う」
「な!?」
あ、忘れてた。
ヴォイドは社交場が苦手だった。
策士、策、成らず。
残念。
古っ。
うわ、どうしよう。
テンパってきた。
ヴォイドもテンパっているのか、口が魚のようにパクパク言ってる。
何だか、そういう顔していると幼く見えるな。
「大丈夫だヴォイド、社交界の帝王と言われていそうなファインさんに、さっきは会ったんだ。彼を見習えばいい。きっと1人や2人、3人位までいけるんではないか」
もはや私は何を言っているのか、判らない。
結構、追い込まれている。
「一体何の話をしているんだ。あのファインという男が夜の帝王なのは、見ていて否定できないが、それでどうやって切り抜けろと?イオンじゃあるまいし」
逆ギレ?
因みに、夜の帝王とまでは言ってないよ、ヴォイド。
あ、拗ねた。
しまった、どうしよう。
私、追い込まれた?
そして包囲完成されたっぽい。