40.
ヴォイドの腕を取ったとたん、階下の女性陣の目が一段と怖くなりました。
鋭いというより、冷たい感じで。
ヴォイドは、あれだけのお嬢さん方にもてているわけですね。
より取り見取り?
それにしても、これはきついな。
何というか、視線恐怖症1歩寸前になりそう。
注目浴びてますよ。
ヴォイドだけが注目浴びてるのかと思いきや、どうやら私も対象に含まれているらしい。
ナリアッテによれば、謎の客人として私の噂が宮中に広まっていたみたいだ。
その正体が今日明かされるというのだから、皆注目するわな。
で、階段を下りている途中、フロア全体をざっと見る。
右手前方に、団長と隊長改め副団長が、女性にとっ捕まっているのが見えた。
そこから離れた後方の場所で、キースが男性と話しているのを女性が遠巻きに囲んで見ている。
反対側に視線を移すと、女の子の集団があると思ったら、中心にはファインさんがいた。
あれでは動けんだろうな、お気の毒に。
そして宗谷英規はなぜか男に囲まれている。
がよく観察すると、あからさまに集まりはしないが女性が話す機会を窺っているのが判る。
アイオン先輩が、会場の警護の為壁に張り付いており、その隣には先日私にアリオイエさん宛ての荷物を頼んだ人もいた。
で、視線を正面に戻すと、アリオイエさんの姿が見えて目があった。
にっこり微笑まれた。
あれ?
琉生としては、初対面だったはずだが。
気付いてないよね?
それとも、副団長辺りが話したのだろうか。
ま、いっか。
心持ち首をかしげながら微笑んでおく。
何故か一瞬静かになったが、又ざわざわした雰囲気に戻った。
奥のフロアでなんだか気になる人物が動いた。
思わず視線を移す。
そうこうしている内に、とうとうフロアに着地。
一歩進むごとに、包囲網が完成していく。
ちょっと緊張してきた。
気合を入れて、笑顔を張り付けて顔をあげると、目の前にアリオイエさんがいた。
「ヴォイド、今日は美しい花を伴っているね」
アリオイエさんが、親しげにヴォイドに話しかける。
知り合いでしたか。
何故だか困り顔のヴォイド。
どうした。
「え、ええ。本日エスコートをする事になった……」
調子でも悪いんだろうか?
ここ数日変だったのは、いろいろ無理してたのかもしれない。
なので言葉を引き継いだ。
「はじめまして、ヴォクィッツ騎士団補佐官。琉生=多田と申します。お会いできて光栄です」
そう言って、笑顔で礼をする。
「いやはや、噂に違わぬ女性のようだ。よければ私の事は、アリーオとお呼び下さい。アイエネイル・タダ。主に私は、騎士団関連の雑用係みたいな仕事をしているんですよ」
アイエネイルは単体で使うと"お嬢様"とかになるが、女性の名前の前に付けると敬称になる。
いわゆる、儀礼称号だ。
身分ないからね?私。
それにしても噂っていったい。
聞きたい様な聞きたくない様な……
聞いちゃえ。
「まぁ、どんな噂か恐ろしいですわ。後からどのような事を尋ねられるのかしら」
「貴女の顔が、神秘的で美しいともっぱらの噂ですよ」
なるほど変わった顔で珍しい、とな。
社交界用語の様だ。
まぁ、右も左もこれだけ美形だらけじゃ、この顔珍しくて仕方がないだろうな。
こちらとしては、どこを見ても目の保養になるからいいけど。
「まぁ、お世辞の御上手な事。おだてても何も出ませんのに。私の事はルイとお呼び下さいませ、アリーオ様」
ふふっと微笑みながら言う。
ほぼナリアッテの真似だ。
「……。この朴念仁のお相手では勿体無い。アイエネイル・ルイ、私と是非1曲踊っていただけませんか?」
「朴念仁……ミ、いやアイエネイル・ルイ。そろそろ」
ヴォイドが何やら言いたげだ。
ここは、ヴォイドに乗っておくか。
アリーオさんはきっと、人から情報を引き出すのがうまい人だ。
踊ってる間中、根掘り葉掘り聞かれる様な気がする。
それは些か嫌かもしれない。
それより以前に、ここのステップが違いすぎてダンスすら踊れないのだが。
「ふふ、アリーオ様、申し訳ありませんが、ダンスは又の機会に」
駄目だ、ナリアッテの真似が上手くいかず顔が引きつる。
て言うか、痛い。
何か色々痛い。
これ、終わるまで続けるの?
無いわー。
無い!!
「それは残念だ。まぁ、近いうちにお会いする機会もあるでしょう。その時はもっとじっくりお話しましょう」
何をだ!
もしかして、ばれてる?
レイと琉生ばれてる?
改めてアリーオさんの顔を長い間じっと見たが、鉄壁の笑顔でバレたかどうだかよく解らなかった。
最後、アリーオさんの顔がちょっと引きつり気味だった。
長時間、笑顔の形保つのって難しいしね。
今日身をもって体験しているので、解りますよ。
うんうん。
「それでは、アリーオ様また」
「ええ、アイエネイル・ルイ。貴女もよい夜を」
アリーオさんが自然な動作で、手の甲にキスをおとして去って行った。
ナ、ナチュラルすぎる。
40話ですね。
読んで下さった皆様に最大の感謝を。