39.
ノックがあったので、ナリアッテに出てもらった。
扉の先には、きちんと正装したヴォイドが立っていた。
髪が後ろになでつけられ、目の色と同じ青を基調にした服がよく似合っている。
顔がいいと、何を着てもよく似合う。
その見本みたいだなぁと思った。
しばらく動かなかったので、入るよう促すと入ってきた。
今日のエスコート役はヴォイドだ。
事前にそう決められていた。
ヴォイドはどうやら、この夜会に招待されていたらしく警護もできてちょうどいいという事で、エスコート役に決まったらしい。
ヴォイドが目の前に来ると、口を開く。
「こんばんは。本日はエスコート役をさせてもらいます。ブ、いえ、宜しくお願いします」
かんだ?かんだね?今。
緊張気味?
騎士なんだから、こういうの慣れてるだろうに、変なの。
「こんばんは、ヴォイド様。こちらこそ宜しくお願いします」
と、にっこり笑って正式なおじぎを返した。
固まっている。
私、間違ったのか?
うーん、ここのしきたり解らんぞー。
頼むから誰か指摘してくれ。
これからが不安だ。
一般的には、騎士が女性をエスコートをする際、当日に伺いを立て、女性に許可をもらうのが習わしだそうだ。
まぁ、事前にオファーを入れOKをもらった上で、当日決まったセリフのやり取りを行うらしい。
決して先程の様な、ヴォイドのセリフではない事は断言できる。
実際は、昔の物語、騎士と王女のなんたらとかいう話の踏襲で、長ったらしくウニャウニゃ言うそうだ。
王道の身分差の恋物語なんだと。
取り敢えず、この夜会の間だけはエスコートする人とされる人が、同等の身分になれるので、今日だけ平民の私はヴォイドと同じ身分として扱われるみたいだ。
何だか、しきたりがあちこちにあって面倒臭いぞー。
とか言っている間に、ヴォイドにエスコートされながら、会場に向かって歩いていた。
会場は中央にあるので、大抵迷わずに行ける。
中央に向かって歩く度に、調度品がいい物に変わっていく。
あ、あれって、サザビーズに出したら遊んで暮らせそうだな、等と下らない事を考えている内に2階の大広間の入口にたどり着いた。
立っている衛兵に、ヴォイドが名を告げる。
広間内にヴォイドと私の名前が読み上げられた。
う、これは結構恥ずかしい。
広間内にざわめきが走る。
うん、解ってたけど女性陣の視線が痛いよ。
顔良し・資産あり・性格よしと、揃ってたら狙われるよね。
ヴォイド。
友人のような肉食系女子は、ここにもいたか。
ヴォイド、気の毒に。
女性不審にならなきゃいいが。
「そういう事は、心の中だけで言ってほしい」
げ、漏れてた?
おもいきり頷かれた。
漏れてたのか、そうか気をつけよう。
ヴォイドが咳払いをする。
促されたので、腕につかまり階段を下りる事にした。
どうやら、これからが戦場らしい。