38.
何とかあの場を抜け出し、琉生に戻るべくあのファンタジー部屋に向かった。
部屋の扉を開けると、ナリアッテが出迎えてくれた。
ああ、癒しの笑顔。
でも心なしか、いつもの1.2倍増しな感じがする。
完璧な笑顔だ。
何でかな?すぐに回れ右をしたくなったのは。
「お帰りなさいませ。軽めの昼食をご用意していますわ」
ナリアッテが笑顔と共に言う。
「あ、ありがとう、ナリアッテ」
引きつりながらも、にっこりと笑顔を返す。
「では、こちらへどうぞ」
完璧な笑顔を保ちながら、案内するナリアッテ。
う、この後起る出来事が、だんだんと恐ろしくなってきた。
「そうだ、ナリアッテはきちんと朝食と昼食を食べたの?」
私は知っている。
結構ナリアッテが仕事の鬼だと言う事を。
たまに食べずに済ましているのを知っているので、時々聞いておかないといけない。
食べていない時には、無理やり食わす。
返事を聞くと、どうやら今日は食べたらしい。
ホッとする。
でもこの仕事の鬼は、この後の仕事も容赦せず完璧に遂行するだろう。
完遂された暁には、きっと魂の抜けた自分がいるに違いない。
ちょっと涙目になった事は許して欲しい。
そんなこんなで昼食を済ませて、一息ついてると、先程出迎えた時のさらに1.2倍の笑顔を振りまきながらナリアッテは私と向かい合った。
「では、ルイ様。始めましょうか?」
それを合図に、待ってましたとばかりに集まって来る侍女さんズ。
この間のように逃げたりはしないけれど、少しばかり気圧されて一歩後ずさった私に罪はないはず。
その気迫、団長並。
それから私は、侍女さんズにいじくり倒された。
風呂に入って磨かれまくって、オイル塗られて90分。
着付けに80分と髪を纏めるのに45分。
メイクは私が10分弱で行い、トータル時間はおおよそ3時間45分。
昼を食べ終わったのが15時20分位だったので、今は19時5分。
夜会が20時位から開始なので、今の時間は結構ぎりぎりという事になる。
よかった、メイクを自分でしておいて。
ええ、普段5分もかけませんから。
今日だけ特別仕様の7分コース。
やはり、正装ともなると、準備に時間がかかるなぁ。
しかも今日は国王主催ともあってか、色々しきたりに則ったドレスだ。
着付けに時間がかかった事かかった事。
一息をついてから、気合を入れ直してパウダールームを出る。
出たら、ナリアッテと目があった。
「やはり、ルイ様にはそのドレスの色がよくお似合いです。お勧めして良かったですわ」
どうも、こういう手の褒め言葉は苦手だ。
どう返していいか、判らなくなる。
取り敢えず笑っとくか。
「ああ、又笑って誤魔化して」
それから、ナリアッテに説教された。
半分聞き流しながら、どうやって止めようか考えていたら、ノックがなった。
説教がやんだ。
ほっ。