36.
結局ましな案が出ずに行き詰ったので、偽13番に話しかけて見る事にした。
「あ、エーと、偽物13番さん。い、いったい私に何のご用でしょうか!?」
ああどうか、いきなり切りかかるという人種ではありませんように。
「偽物?ああ、悪いな。連れ出して」
「いえ」
私は首を横に振った。
「アレイの奴と、まともに戦える新人がいるとは思わなくて、少し興味がわいて話してみたくなったんだ」
アレイとは、多分団長の事だろう。
確か、アナレイ=ジャレイア=ジェン=ジアヴァイエとかいう長い名前だった。
「興味、ですか?」
うう、嫌な方向に話がいきそうだ。
相手に気付かれないよう、徐々に体を横にずらしていく。
とにかく、いつでも逃げられる体勢を整えておこう。
「ああ、試合中にお前のやっていた剣の型だが、あれは一体何だ?」
何だと聞かれても困る。
太極剣とか、どうやって説明すればいいのやら。
中国発祥の古代拳闘術の一種と言うと、中国の説明をしなければならないし、生まれ故郷の隣国で発祥した古代拳闘術と言うと、生まれ故郷の説明をしなきゃならない。
どこで発祥したか判らない謎の古代拳闘術と説明すると、なんだか胡散臭いし。
うーん。
「あれは何だと言われてもですね、説明が難しいです。どこの発祥だとか、そういった詳しい事を知っているわけではないですし……」
異世界発祥ですとか言えないしな、ここは有耶無耶にして、と。
「とにかくですね、私が小さい時に出会った方に、教えていただいた剣の型なんです」
は、はしょりすぎた……
だけど、これは本当の事。
10歳位の時に出会った楊師に、護身術として太極拳を教わった。
たった数年しか教わらなかったが、これのおかげで今の私がある。
言葉で適当にさっきの型について説明をしつつ、体を徐々に横にずらして行く事をしていった。
うん、後もう少し。
「ふーん?では、今からその型をもう一度見せてもらいたい」
偽13番が、いきなり剣を抜く。
うわ、強制、強制ですか?
しかも他国の宮城で剣を抜くって、おいおいおい。
なんですか、御乱心ですか?
思わずホールドアップする。
うわ~、なんかこっち注目されてますが……
主に要人警護の方々の視線が痛いです、はい。
「一体何の冗談のおつもりですか?他国で、しかも宮城敷地内で剣を抜くなどと。国際問題に発展しかねませんよ?」
と、一応もっともらしい事を知ったかぶったか言ってみる。
さらに、横にじりじりと移動。
「そんな事にはならないから安心しろ。だからその剣を抜いてさっきの技を見せろ」
あー、ヤバい。
相手が苛立っている。
お願いだから、剣を持って苛立たないで。
頭ん中でアラーム鳴りっぱなしよ、さっきから。
仕方がないので、こちらも剣を抜く。
はー、結局怪我コースじゃないか。
団長戦の時でさえ、怪我しなかったのに!!
適当に合わせて、逃げようか?
いやいや、適当に合わせられる相手じゃないし!
逃げきれるかな?
いや、逃げなきゃまずい感じがするし。
護衛の方も、ちょっと尋常じゃない空気出してるし。
つんだ?
さよなら、私の短い人生。
そして、集中し始めた時に、救いの神が現れた。