30.
試験1日目を終え、あのファンタジー部屋に戻った。
そうしたら、部屋で夕食をとった後、ナリアッテに寝るように強要された。
というわけで、昨日は何もせずに寝た。
で、相も変わらず6時に目が覚める。
取り敢えず、身支度をするため無駄にでかいクローゼットに行き、男物の服をチョイス。
これからの為に、ナリアッテが用意してくれていた私服だ。
昨日はうっかり、ジョギングに隊服を着てしまったが、今日は私服にする。
万が一隊員に見られてもいいようにだが、あのコースには結構顔馴染みの人もいるので意味がないだろう。
もし合格したとして、その事について何か聞かれたら、副団長にでも聞いてくれと言って躱すしかないよなぁ。
隊長から入団試験の話を聞いてから、レイと琉生を使い分けて生活をしている。
せっかくここでのIDもらったのだから、使い分けないとというのは建前で、来るべき時が来た時の保険に。
どちらかの名前が社会的に抹殺された場合に備えて、使い分けた方がいいだろう。
なので、この事を知る人間は少ない。
という事で、レイモードの時は従業員通路を歩く。
その方が目立たなくて済むし、都合がいいのだ。
で、日課のジョギングコースに出たら、ヴォイド(変装済)に呼び止められた。
「おはようございます」
「おはよう、ヴォイド。取り敢えず走る?」
と私が言うと、ヴォイドは頷いた。
しばらく走っていると、ヴォイドが口を開いた。
「疑問に思ったのですが、貴方が本気で走ったら、このコースを1周するのにどれ位かかりますか?」
「そうだな、もし私が本気で走ったら、昨日の成績は10位以内には入っていたかもしれない。でも、このコースにあの池がある限り、本気で走っても結果は同じかも」
レイモードの時は一応口調も変えておく。
オネエっぽくなるから。
そのキャラで行くのも面白かったかもしれないが……
いやいや、しませんよ?
「池?」
ヴォイドが疑問を口に乗せる。
「そう、池。ここから40分、あぁ、40ウェル位のところにある池。そこで、つい足がゆるむんだよ。綺麗だから思わず」
ちらっとヴォイドを見ると、納得したようなしてないような顔をしている。
ちなみに時間単位1M=1ウェルだ。
「初めの2日位だけだよ、ヴォイドのペース合わせてたの。もともと基礎体力があるから、慣れてきてたでしょ?途中から。だからほとんど自分のペースで走ってた。第一、普段からそんなに速く走ったりしないしね。持久力をつけるなら、速く走る事より、より時間を長く走る事の方が意味があるし」
納得してくれるかどうかわからない言い訳をしてみたが、どうだろう?
「なるほど」
「うん。あ、そうだ。今日の試験って実践形式?」
「そう、だと思いますが」
「?いや、ルールとかあるのかな?とか思って」
すごく今更な質問してるなぁ、私。
「ルール自体がないと聞いていますが」
「そっか。じゃあ大丈夫か。例えば型に拘っていて、その型以外は全員脱落とかじゃシャレにならないし、相手の体殴ったり蹴ったりするのが違反だったら、脱落確実かなぁとか思って」
剣術のみとかだったら、見込み無しって言われるかもしれないから、ちょっと心配だったんだよね。
まぁ、ルール無用だというのなら、何とかなるだろう。
うん。
勝つつもりか?とヴォイドが聞いてくるので、「もちろん、全力は尽くす」と満面の笑顔で答えた。
私の答えがよほど意外だったのか、ヴォイドは目を見張り、走って火照った顔を複雑そうに歪めながら何やら考え込んでしまった。
なんか色々話しながら走っていたからか、いつの間にか1周していた。
今日は時間経つのが早かった気がする。
「……お前、らは、ば……化け物だ……」
後ろから付いてきていたらしい隊員の誰かが、そう言い捨てて走り去って行った。
失礼な。
てか、そう言いながらも走っていくんだね。
さて、いったん部屋に戻って、朝食を食べる。
相変わらずパンがおいしい。
今日はなんだかいつもより品数が多い?
ナリアッテが気を使ってくれたのだろうか?
ちらっと見ると、天使の微笑み。
ああ、癒される。
どうせなら一緒に食事がしたい。
1人で食べても味気ないしねぇ。
等と考えていると、ノックがあった。
ナリアッテが応じてくれた。
「先触…もなし…お越しに……なん…、非常…す………」
「…れ……まない。少しいそ……伝え………とがあって。通して………いだ…うか」
何やらナリアッテが怒っている。
声の感じからどうやら相手は隊長らしい。
ナリアッテが、通していいか聞いてきたので構わない旨伝えた。
「食事中か、すまん。やはり出直してくる」
「や、いいですよ。構いません。隊長も食べます?」
言いながら、隊長に前の席を勧める。
「いや、俺は先に食べた」
前の席に座り、組んだ足がテーブルからはみ出してる。
足長っ
「そうですか。それで?何か問題でもありましたか?」
「ああ、いや。たんに激励というか、忠告に来た」
「・・・・・?」
「死ぬなよ」
は?
どんな試験なんだ。
ただ、実力見る為のテストじゃないのか?
死にそうな目に会うのだろうか?
ふ、不安だ。
「今日のテストに、少し加減を知らない審査官の参加が決まった。昨日急な変更が入って、1日目の結果の上位者を担当するそうだ。今日は何番目だ?」
「16番。ヴォイドは17番」
そう伝えると、隊長は考え込んだ。
「もしかすると、その方とお前が当たるかもしれない」
ええ~!
やだなぁ。
怪我とかしたらまずいし。
いや、未知ウィルス問題は私という被検体で検証済みなのでいいんだけど、女だって速攻でばれるのがまずい。
隊長権限で何とかならないのだろうか?
とか思ってたら、無理だと言われた。
ちっ。
「どんな性格の人ですか?その人。人の話聞かずに突っ走るガテン系ですか?」
「ガテ?いや、冷静沈着で、聞かなくていい話まで聞く人だ、普段は。だが、剣を持たせると人格が変わる」
「ああ、居ますねそんな人」
「だから、気をつけろ」
「まぁ、気を付けてどうこうなるものでもありませんが、念頭に置いておきます」
「そうしろ」
隊長はまだ何か言いたりない顔をしていたが、結局何も言わず席を立った。
「邪魔したな」と言いつつポンと頭に手を置いて出て行った。
わざわざ顔を見せに来るって、どんだけ面倒見がいいんだ。
兄貴って呼びたいわ。
隊長が出て行った後、しばらく先程の話を吟味する。
その問題の人物に敬語を使っていたという事は、相手は隊長より身分が高いのか。
副団長より上って事は、団長とか?
う~ん、なんか厄介事に巻き込まれる気配がする。
2日目突入。
されど、試験始まらず。
すみません。