29.
入団テストは、騎士団の訓練所で行われるようだ。
場所は事前に教えてもらっていた通りだったので、迷わずに行けた。
いつもならヴォイドがついてきたりするが、今日はこの世界に来て初めて1人で歩いている。
恐らく今の行動が、レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンとしての行動だからかな?と思ったりする。
少し感慨深い。
取り敢えず、入団テストの受付で書類を渡そうとすると、相手がえ?というような顔をした。
あれ?受付場所間違い?
と思い思わず周りを見るが、ここで合ってるはずだ。
相手の顔を見ると、朝ジョギングの時にたまに見かける人だった。
実は、今日も会った。
考えてみたら、隊服着てたんだよね、私。
あらら。
「詳細は、副団長にお問い合わせ下さい」
と、言ってみる。
社会人の必須裏技No.3、丸投げ。
こういう時って、組織の命令系統がしっかりしてる所は楽でいい。
隊長~後はよろしくねっと。
無事受付も済まし、待合所で説明があるまで待機していると、ヴォイドっぽい人物が側に来た。
思わず見上げる。
「・・・・・」
別人のような雰囲気だし、若干髪色がくすんだ金になって髪型もいつもと違うが、いや顔もよく見れば何となく違う様な気もするが、どこがといわれると困るし、よく見ないと判らないが、ヴォイドだ。
変装しているのだから、声はかけない方がいいのだろうか?
初対面の振りをするべきか、せざるべきか悩みどころだ。
う~ん。
「で?ここで何をしてるの?」
結局声をかけてしまった。
「貴方の護衛に」
「変装してまで?」
「……。ええ、まぁ」
何だか歯切れが悪いな。
とりあえずここまでの流れを聞いてみた。
曰く、やはり護衛は必要だろうと思い、これからの事を考えると自分も再度一般で試験をうけ、潜入する事に。
顔を知っているのは、結局同期と上層部等関係者だけらしいので、普通にしていても問題ない。
との事だ。
変装は念のためらしい。
今の髪型も髪色も似合っていると思う。
より自然になった?
ま、細かい事は気にしても仕方がないので、テストの事に意識を戻すとして、どうやらそろそろ始まるらしい。
微妙に緊張。
「今から健康状態のチェックと基礎体力を測る」
健康状態のチェックは、既往歴の問診記入と診察だけだった。
血を取ったりしないのはありがたいが、ここの医療水準をちょっと疑う。
かといって、詳細を調べられても困るけど。
血液型が存在しませんとかだったら、人外扱い決定だし。
まぁ、服とか脱がないことは知っていたから、採血以外は何も心配していなかったが……。
で、基礎体力は単純に私がいつも走っているコースを1周する事。
脱落者は問答無用で落とされる。
後、遅すぎるのも問題外らしいが、タイムは重要視しないそうだ。
といっても、やっぱり競争するのが人の心理というもので、皆飛ばす飛ばす。
おお、ちょっとしたマラソン大会っぽいな。
私は自分のペースを判っているので、それほど飛ばさない。
いつもよりちょっと早めのタイムで走ってるくらい。
ああこの池はいつ見ても綺麗だなぁ。
ここから眺める景色が本当にいい。
木々の合間から漏れる光が水面に反射してとても美しい。
本当、いつ見ても飽きません。
だけど、今日はいつもこの辺りで落としているスピードを落とさなかった。
そのままのペースを維持し、いつもよりかなり早くゴール地点に到着。
ヴォイドが遅れてゴール。
なんだか信じられないという目でこちらを見てる。
あ、いつもゆっくり走ってたのばれたかな?
まぁ、気にしたら負けって事で、苦情は受け付けません。
「ゴールしたら、名前を記入する事」
と言われたので、記入しに行く。
どうやらこれが、明日の試験順になるらしい。
私は16番目でヴォイドが17番目にテストを受ける事になった。
結局その日はそのまま解散となり、あのファンタジー部屋に帰る事にした。
ヴォイドの視線が痛い。
いや、あそこでいつもペース落としてたのは景色見る為だからね?
と心の中で言い訳してみた。