27.
就職活動の事は、誰にも相談していない。
言えば、反対されるか、体のいい閑職を言い渡される事だろう。
反対されるだけならばまだいい。
体のいい閑職に回された時、果して私はここにいる事を許されるのだろうか?
例えば、異世界人を政治の中枢に住まわせておくメリットを考える。
先人の言があって異世界人の保護が約束されていたとしても、それはあくまでも400年前の話だ。
400年前の人間の言葉を、この国自身が守る必要があるだろうか?
ましてや、異世界の事は一部の人間しか知らないという状況で。
何らかの形で効力の高い文書で残されているならば、ファインさんは会った時に言っていただろう。
言わなかったという事は、文書化されていないか、故意に隠されているかのどちらかなのだ。
どちらにせよ、この国の王の意向如何で、異世界人である私などどうにでも出来ると言うのが現状だろう。
そのどうでもいい存在が、現在中央に住み着いている。
大人しくしているだけならば監視を置くだけですむし、会う人物もある程度ならコントロールする事ができる。
しかし、メリットはそれだけだ。
異世界人は、400年前の人物の子孫がいれば十分。
私という存在はただお荷物なだけで、デメリットの方が大きいだろう。
この国が、私に旨みが無いと判ずれば待っているのは放逐か監禁か死。
そう判断されるまでに、自分の立ち位置を確保しなければならないというのが、火急的課題となっている。
以上を踏まえて、がんばれ私。
自己アピールが再就職への道だ。
うん。
姿勢を正す。
正面を見る。
相手の顔を見る。
「ローアム=フォンジッニ=デラ=ウナオイア王国騎士団副団長。改めてお話があります」
急にまじめくさった顔になった私を見て、副団長が姿勢を正して聞く体制に入った。
「続けろ」
私は頷き、続きを話す。
「私レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンは、王国騎士団への入団を希望いたしたく存じます」
おお、2人とも驚いてる驚いてる。
私も驚いているよ。
騎士団への入団は、脳みその片隅にしか念頭になかったんだから。
だけど、本能がチャンスを逃すなと訴えてるのだから仕方がないよね。
それに入団してもやっていけるような気がするし。
「何を考えているんだ……」
呆れたように言う隊長。
「私には、今現在において職が必要です。いつまでもここでお世話になるわけにも参りませんので。文字はろくに解らず、身元を保証する者もいない今の状態での働き口は、残念ながら身近な所に限られてきてしまいます。となると、必然的にナリアッテか副団長等の数少ない知人を頼らなくてはならなくなります。しかしながら、王宮内で仕事をするには、貴族からの推薦が少なくとも複数いると、お伺いしました。その他の下女の仕事も、今は募集していないと聞いております。その条件から、城内での侍女及び下女職に就くのは無理があると判断いたしました。その一方、騎士団が一般公募をしているという話を、お伺いしています。募集要項を確認したところ、現在の私でも応募可能と判断いたしました。まだ、募集日程には時間がありますので、出来れば入団試験を受験できればと考えております」
話を聞いた隊長が、かなり渋い顔をしている。
「大人しくしているという選択肢もある」
隊長が低い声でぼそりと言う。
「お気づきの通り、私は異質すぎます。何もせず、止まるだけの存在ならばいずれ排除されるだけでしょう」
隊長は、ハッとして私を見た。
「そうならない為にも、予防線を張っておきたいのです」
そこで一旦言葉を切る。
先の話を持ち出したのは、ある種の賭けだ。
中枢に近い人物に今の自分の状況を言うなんて、有る意味首を絞める行為かもしれない。
だが、自分の身元を固める為に、これから色々動く事を知ってもらいたかったのも事実。
私の事情を知る数少ない人物であり、初めの内から接してきた経緯から隊長の人となりも判ってきたつもりだ。
ほんの一部だけだけど。
この話を断るにしろなんにしろ、ただ私が動くことを認めてほしかった。
改めて隊長の目を見る。
しばし考え込んでから、隊長は重い口を開いた。
「先に断っておく。騎士団に女はいない。周りは男ばかりだ。よって、性別は隠してもらう事になる」
隊長の前向きな言葉に思わず目を見開いた。
80%断るだろうと思っていたからだ。
「訓練にも参加してもらう。それでもいいか?」
なんでも来い。
「ありがとうございます!!」
そう言って、私は勢いよく頭を下げた。
「まだはやい。入団出来るかは、試験に合格し、かつ1か月の合同訓練後に決まる。到底女の身には耐えられるとは思わないけどな」
そう隊長は言うが、耐えなければ後がないのは目に見えている。
それに下地はある。
はず。
多分。
なまってなければ。
なまってないよな?
う、自信ない。
最近の腹周りが……
と、取り敢えず、これで足場固めが2割くらい済んだと思う。
今はその事に安堵した。
ちょっと、重いですか?
すみません