24.
習慣とはいえ、6時に目が覚めたのはいいがその後何をしていいのか分からない。
取り敢えず、洗面台で顔を洗い着替えようと思った。
ここの洗面台や風呂は、ボタンを押すと水が出る。
アナログだと思いきやなかなかやるなぁと、ちょっと感心した。
私はてっきり、人力でお湯を運んで来るのかな?と勝手に思っていたから、捻るわけでも、引っ張るわけでもなく、押して水が出た時は感動した。
いやー、移動手段に馬車を使ったものだから、侮っていましたよ。
この国は意外と技術水準が高い国だと、認識を上方修正いたしました。
国民の皆さんごめんなさい。
顔を洗い終わったので着替えようと思ったら、私のスーツや昨日ナリアッテが持ってきてくれた服がこの部屋に無い事に気が付いた。
あらゆる場所を探したが、見当たらずに部屋をうろうろ。
どうしようか?
取り敢えず、落ち着く為に腕時計を付けようとして、失くした事を思い出した。
もしかして、乗っていた車の中にあるのかな?
昨日牢屋の中で目が覚めた時には、すでに無かったし。
私は、鞄の中に入っている別の時計を、仕方なく付ける事にした。
知り合いに借りた、というか必要にかられて奪ったごっつい時計。
男物。
腕時計してないと落ち着かない私には、この際デザインや好みは二の次三の次です。
時間を見ると6:15。
もしかして時間まで地球と一緒?
しかも日本時間。
通りで時差ぼけ起こらないはずだ。
まあ、考えても判らないことはひとまず置いておこう。
さて、日課のジョギングも今の恰好じゃ出来ないし、後やれる事と言えば、ベッドをキチンと直す事だけだ。
ああ、5分もかからない……
結局する事といえば、仕事の続き……
ワーカーホリックと呼ばないで~。
しばらく仕事をしていたら、ノックがなった。
ナリアッテだった。
彼女が入ってきたので、朝の挨拶をした。
朝が早いのに、ナリアッテは爽やかだ。
どうやら彼女は、今日着る服を持って来てくれたらしい。
お茶を飲むか聞かれたので、欲しいと答えたらその場で淹れてくれた。
いつの間にか、ティーセットがこの部屋に完備されていた。
一息ついた後、彼女に着替えを受け取って、着替えた。
「申し訳ありません、ルイ様。朝食の準備がまだ整っておりません」
いきなり謝るので、何事かと思ってしまった。
話を聞くと、大抵朝食は8時頃が普通なのだとか。
なので、まだ色々準備が整っていないそうだ。
他に職がある者は、事前に厨房に伝えているので早めに食べる事も出来るらしい。
まさか私が、こんなに早く起きているとは思わなかったとの事。
私は笑って、構わない事を伝えた。
それより時間のある間に、今日からの事をナリアッテに話そうと思った。
改めてナリアッテに話しかける。
「ナリアッテ、昨日お話したように、私にはここでの知識がないんです」
で、と言葉を続けようとしたら、ナリアッテがにっこり笑って大丈夫です。
と続けた。
曰く、文字やその他は、毎日夕食後にナリアッテが教えてくれるとの事。
いずれ調べたい事がでてくるかもしれないので、図書室の出入りの許可はすでに取ってあるとの事。
禁止区域以外なら、護衛と一緒の時だけ、王宮内外自由に行動できるとの事。
その他色々。
何だろう?
このそつのない答えは。
私がききたい事をこう、的確に応えてくれる才女っぷり。
お持ち帰りしていいですか?
何か他に質問や要望はないかと聞いてきたので、日課のジョギングがしたいと言ったら、驚かれた。
女性が走ったりとかは、この国ではあまりしないとの事。
あー、私の常識、非常識っと。
でもなぁ、体鈍るのがなんかヤダ。
この部屋広いから、ここで何かやれって言われたらできそうではあるんだけど、せっかく空気がいい所にいるのに外で運動しないのは勿体無いような気がするしなぁ。
うーん、キース辺りに相談してみようか。
と、呟いてみると、ナリアッテが護衛の1人を部屋の外から呼び寄せた。
「もっと後から紹介するつもりでいたのですが、先にご紹介いたしますわ。本日からルイ様の護衛担当になった、アンヴォイド=クォイア=ジェウェレイ=ジャミニです」
「アンヴォイド=クォイア=ジェウェレイ=ジャミニです。専属の護衛責任者です。後何人か担当がいますが、紹介はおいおい。以降お見知りおきを」
といって、茶髪の青年が完璧な礼をした。
又もや顔良し物件。
ここに来たのが、もし肉食系女子である我が友人だったら、ハイエナのごとく食いついたに違いない。
いや~!!私には選べない~!!といって、毎日嘆いたかもしれない。
どちらにしても、鬱陶しいことだ。
ま、せっかく挨拶してくれたんだから、こちらもしないとねって事で「琉生=多田です。よろしくお願いします」と言って、頭を下げたら、ナリアッテは慣れたのかもう反応はしてくれない。
少し寂しい。
「先程の、ルイ様がおっしゃっていらした件なのですけれども、私が思いつくのは訓練場しか思い当たらないのです」
貴方は?と、ナリアッテがアンヴォイドさんに尋ねる。
「距離にも依るのではないでしょうか?」
「えーと、昨日も他の人には話したんだけど、私と話す時は敬語いらないから。立場もあるだろうから難しいだろうけど、せめて周りに誰もいない時ぐらいは普通にしてほしい。まぁ、無理強いはしないけど」
少し戸惑っていたが「はぁ、善処します」と言ってくれたので、よしとする。
「どのくらい走るのですか?」
と、ナリアッテが聞いてきたので、1時間と答えた。
ちなみにここでの時間単位は、1H=1ウェジェというらしい。たまに時間といってしまうが、気を利かして文脈で考えてくれるのがナリアッテたちのいいところだ。
もしかしたら自動翻訳なのかもしれないが。
「もう、20年近くは続けてるよ。もうほとんど習慣だし、走るの」
というと2人にびっくりされた。
「「……20年……」」
そしてステレオ音声で言われてしまった。
そんなに驚かなくても……
ちょっとへこんだ。
ジョギングが出来そうな場所をアンヴォイドさんに教えてもらい、そこに今は向かっている。
馬車が通らない道だそうで、訓練にも使用されるとか。
訓練用でもあるので、軍人がうろついている。
王宮からさほど遠くもないところまで歩いて行くと、その道はあった。
程良く木陰ができる、まさにジョギングぴったりの道。
しかもいい具合に起伏がある。
ちょっとテンションが上がった。
で、軽く体を伸ばして私は走り始めた。
するとアンヴォイドさんも付いてくる。
初めてのコースなので、景色を楽しみながらゆっくりめで走る。
どうやら、このコースは王宮を中心に一周するみたいだ。
だいたい15Km程と目算した。
1時間程度で1周できる距離なので、時間的にも距離的にもちょうどいい。
40分くらい走った所で、池があった。
そのきれいな風景に、思わず足をゆるめる。
「きれいな場所ですね」
と、アンヴォイドさんに尋ねると、
「そ……うです……ね。ここ……はと……ても」
何かへばってる?
話かけたの悪かったかな?
きれいな所だったので、もっとスピードを落として周りの風景を楽しみながら走る事にした。
ほどなくすると、元の場所に戻ってきた。
ちょうど一周もした事だし帰ろうと思ったら、死にかけ寸前の護衛がいた。
ので、もう少し景色を見てから帰る事にした。
「20年はだてじゃないんですね」
息が整ったアンヴォイドさんがそう言った。
まさか私に後れを取るなんて思ってもみなかったのだろう。
プライドを傷つけてしまったかもしれない。
悪いことしたなぁと思いつつ、返事はせず苦笑するだけに留める。
そうして、私達は王宮に戻った。
朝食に思いを馳せながら。