23.
昨日はあの後、すぐに寝た。
何も考えずにベッドに倒れ込んだら、すぐに眠りに就いた。
いい感じに酔いも回っていたし、眠りも早かったのだろう。
酔っていても、いつもどおりの時間に起きられる私の体は素晴らしい。
そういえば、夢を見た。
妙な夢だった。
突然男がやって来て、開口一番に謝られたのだ。
謝られる理由がないから頭を上げてくれと言っても、謝り倒された。
ひたすら謝り続けるこの男、名前をジオイ……なんだっけ?
まぁ、ジオでいいや。
で、なんで謝っているのか?と聞くと、
「君を元に戻せないかもしれないからだ」
との事だ。
思わず、顔が引きつった。
ジオの話によると、落雷のエネルギーを利用した、省エネ転送法を使って、宗谷英規だけをここに送る予定だったのだという。
だが予想外な事にその時間は雨が降っており、ちょうど宗谷英規の後ろを走行中の私の車が側撃雷をうけ、一時的に極の役割を果した為転送フィールドが広がったとの事。
ちょっと待て。
雷と雨はたいていセットじゃないか?
予想外でもなんでもないだろう。
で、宗谷英規本体と宗谷英規周辺の物を送りこむ為、設定質量を余裕を持って140Kgに設定していたら、60Kg程余っていて転送フィールド内にいた私と私の荷物がこちら側に送られていたそうな。
もし60Kgを超えていたら、イレギュラーな存在である私の体か鞄が削られていたかもしれないと、案外ホラーな話をにこやかに話してくれた。
で元の場所にはやはり戻れないのかと聞いたら、判らないという。
戻れたとしたら、時間はかなりずれるとの事だ。
10年から100年位。
マーキング済みの宗谷英規は時間もジャストで戻れるが、イレギュラーには無理だそうな。
「やっぱり、そういう落ちか」
と、思わず呟いてしまった。
ジオは申し訳なさそうに、詫びにオプションを付けておいたとのたまう。
なんだよオプションって。
今ならシートは革張りでって、車か私は。
う、なんだか厭な予感がする。
「運気上昇と、あらゆる生物に好かれる性質をつけておいた」
なんだか得意げだ。
イラっとくるのは私だけか?
それより待て!
なんだ?その、あらゆる生物に好かれるというのは……
何か?私は、つちのこから果てはゴキブリに至るまで好かれ倒すというのか?
私の歩く後ろから、ぞろぞろ湧いて来るつちのことゴキブリ。
おぞましすぎて、夜も眠れん。
ハーメルンも裸足で逃げ出すわ!
「いらん!そんな性質!ていうか、お前か。キースや隊長やアークオーエンさんをあんなおかしな状態にしたのは……頼むから元に戻せ。いえ、戻して下さい。お願いします」
と、頭を下げて懇願した。
「えー?変わってるな。確変モテ期最強状態、又の名を"俺のターン"なのに喜ばないって、枯れてるとか言われない?」
「と・に・か・く、元に戻せ!」
冗談じゃない、あの状態の隊長たちを見続けるのは勘弁してほしい。
私は目立たず、おとなしく日々過ごすことを望んでいる。
「まぁ、元に戻せというのなら、元の状態に戻すけど。俺ならそのままにするけどな。ビバ!ハーレム!」
いや、男じゃないからハーレムはいらない。
というか、元に戻るなら何でもいい。
「じゃあ、オプション他に希望とかあるか?」
「ない」
「え~?ここは、考えうるあらゆる能力を言う場面じゃないのか?」
「な・い」
「……。よし、決めた。じゃあ、加護をやろう。君にここにおけるあらゆる祝福と加護を。ちなみに拒否は不可だ」
なんだか微妙なオプションだ。
まるで玄関先で押し売りされている様な気が……
副作用とかあったら嫌だな。
とか思っていると、朝の6時になったのか目が覚めた。
変な夢だ。
希望も何もあったものじゃない。
すると、左手に小さく痛みが走った。
何だ?と思っていると、一瞬模様が浮かんですぐに消えた。
もう一度見たが、そこには何にもなかった。
窓から風が入る。
風に乗って、小さく声が聞こえたような気がした。
『君に加護と祝福を。行く先に幸多からんことを』
何だか知らないが殴ってやりたい衝動にかられた。