227.
ん……?
思わず首を傾げる。
「あ、あああ、いや、ん?いやいやあれ?なんだ?」
「どうしたの?」
「あ、いや、な、なんでもないんだ、気にしないでくれ。教官見てくる」
様子が変なウィルはあちこちぶつけながらホーク教官の元へ去っていった。
そろそろ解散の流れかな?
ホーク教官のことについてはユイクル教官に任せたほうがいいな。
「ルイ様。そろそろ冷えますので戻りませんと」
ちょうどいいタイミングでウェルフさんが声をかけてきた。言葉に従うことにする。
「そうだね、そろそろ戻ろうか」
私は皆のいる方に向かって声を掛ける。
「皆そろそろ私は戻ろうと思う。ユイクル教官申し訳ありませんがホーク教官の事お任せしてもよろしいでしょうか?」
快い返事が来たのでユイクル教官には明日の練習でホーク教官がこれなさそうであれば代わりをお願いした。
食堂の鍵はイグプリームさんかシノヤカさんが管理することに。
イグプリームさんにも性別ばれしてしまったが、共犯ということで目をつぶってもらう。
「それでは皆様、私はこれで御暇いたします。また明日時間がありましたら参ります。それまでごきげんよう」
最後にニコリと微笑んでナリアッテ仕込のカーテシーをしてあとにした。
「罪作りな……」
ウェルフさんの言葉が聞こえたけど罪作りって何がだろう。
教本通りのナリアッテ仕込みカーテシーと辞去の挨拶口上を述べただけなんだけど。
首を傾げる。
「ルイ様、足元が御暗いですので、私めの腕に御掴まりください。あぁその前にまず上着をこちらに、その上着は後ほど私からユイクル教官へと返却しておきます。今はこれをどうか御羽織り下さい」
彼がどこかから出してきたストールを手渡してきたので羽織る。
とても軽くてしかも温かい。
地球で言うところのカシミア素材みたいだった。
心遣いがありがたい。
やはりこれくらいの気遣いができないと、傍付きは難しいんだな。
シンヴァーク様の時にも気をつけよう。
彼のエスコートでシンヴァーク様の部屋までたどり着いた。
幸いな事に誰にも会わなかった。
ふむ、この部屋から出てくる前シンヴァーク様の様子が変だったけれど、元に戻っているだろうか?
一抹の不安が残るが、ナリアッテやウェルフさんがいるなら大丈夫に違いない。
彼らを信じて、中に入る事にする。
ウェルフさんがノックしナリアッテが応じて中に入れた。
ウェルフさんは席を外すといって、部屋に入らず用事を済ませにどこかへ行った。
中ではシンヴァーク様がリラックスして何かを飲んでいる。
落ち着いておられる様だ。
ほっとした。
視線を感じたのかシンヴァーク様が顔を上げたので、目が合う。
とりあえず目が合ったので微笑んでおいた。
シンヴァーク様がおもむろに立ち上がる。
立つときにテーブルに足をぶつけたのかがちゃんと音がなった。
微妙に痛そう。
少し待ってみてもシンヴァーク様から口を開く様子がないので、私の方から恐る恐る口火を切った。
「ただいま戻りました。遅くなり申し訳ありません」
そう言ってスカートをつまみ腰を落とし、若干上半身を前かがみ気味に。
女性がよくする謝意を表す姿勢になった。
ストールがはらりと解け床に落ちるも、体勢の維持は必須なので動けなかった。
相手の許可が出るまでこの姿勢を維持する。
維持をする。
維持を。
あれ?
何かこのやり方おかしいのかな?
そろっとうかがうと、うわっめちゃくちゃ怒ってる。
眉間のシワが……
光源がロウソクなので顔色がいまいち判らないけど、昼間だったらきっと赤いに違いない。
怒らせることしかできない自分が情けないが、忍耐もまた必要だろう。
「お前は………だったのか……」
小さすぎて何言っているのか判らなかった。
「すまない」
シンヴァーク様に一言断られ、体を起こされる。
突然のことでバランスを崩すが支えられて事なきを得る。
なかなか手を放してくれず顔を見上げると、見下ろされていた。
視線が微妙に合わずどうも別のところを注視しているようだ。
再起動した後、どこか性急な動きで落ちたストールを拾い、これでもかとストールをぐるぐる巻きにされる。
なんで?
と思ったが、先ほど ユイクル教官に指摘された事を思い出した。
つまりそういう事なんだろう。
自分の姿勢や何やかやに気を取られ、胸の不備にまで気が回らなかった。
こういう所がいつまで経っても男だと思われる原因なんだろうな。
いやばれたら不味いんだけども。
既にばれまくってるけど。
いや待って、ばれてる人達って、皆直接見たって事では?
それで女だと確信した?
つまり直接見えなきゃどんな服着ても男に見える?
なんだ問題ないではないか。
女としてどうかと思うけど。
「あの?」
と声をかけるとものすごく動揺していた。
「その、勝手に体に触れてすまない。だがその恰好は扇じょ……煽ら……じゃなくて目にい……ともかくよろしくない。赤が目に焼き付いてまずいぞ……」
「赤?」
「うわぁ、本当に何でもないんだ。とにかくもう許してくれ」
助けを求めるために私はナリアッテを見た。
うん、怖かった。
怖かった。