225.
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「本来なら、止めるべきなのだろう」
一瞬思いに耽っていると、リプファーグの声が静かに耳に入る。
静かな声なのに、まるですぐ側にいるように聞こえて思わず、顔を上げた。
リプファーグと視線が重なる。
「以前の自分なら、どんな事をしても女性であるというだけで君を辞めさせていた。だが数日とはいえ、君に命を預け、預かっていて気づいたのだ。君はとても強い。それは実力という意味だけではなく精神においても、だ。君の中に、そのあり方に騎士の資質を見た。騎士としての素質に何ら問題がないのであれば、女だ男だというのは些末なことではないのかと。ならば、受け入れるべきだと自分は思った」
買い被りすぎだよ、リプファーグ。
私はそれほど強くない。
「だが、危険なことに変わりはないのだ。自分は君が意外と頑固なのも知っている。辞めるつもりは更々ないのだろう?」
「そのつもりはない」
即答する。
「そうか。ならば、自分がすべきことは1つだ」
そういい、その場でリプファーグが片ひざをついた。
少し戸惑う。
「おい、それは……」
ユイクル教官が何か言いあぐねている。
「辞めたいと思ったり困ったことになったりすれば、必ず君の助けになり、味方になることを神ジオイドの名のもとに誓う。我が名が地にある限り、そを破るはすなわち死を意味す。我が命ある限りこの契り続かん」
すごく、重い契約。
どう答えれば良いのかわからない。
困った。
「それから、できればずっと側にい……」
「そうそう、俺たちがついてるんだし、何かあったら絶対に言ってよ。きっちりみっちり仕返ししてやるから」
重い雰囲気を吹き飛ばすかのようにジェイが被せぎみに話し出した。
少し気が楽になった。
リプファーグの最後辺りの言葉は聞き取れなかったが、彼の気持ちはとても良く解った。
「リプファーグありがとう。何かあったら、相談させてください。ジェイもありがとう」
心からの礼をした。
「うーん。俺はその、言いにくいんだけど複雑だ。剣とか色々凄いのは知ってるけど……何て言うのかな……その」
クィリムが言いあぐねている。
「レイはさ、戦闘とかは心配ないと思う。だけど騎士団って男だらけの生活だろ?その中でさ、性別隠すのって無理ないか?」
その意見、最もです。
神妙に頷く。
「風呂とか便所とか。最悪集団に襲われたりとか。前はさ、側にヴォイドとかいたからいいけど……今は?現にその格好のままここまで1人で来ただろ?それに、暫くその装いで過ごさなきゃならないんだったら、ぜってー襲うやついるぜ?確実に」
「そうはなりませんし、させませんよ」
いつの間にかウェルフさんがここに来ていたようだ。
仕事終わったのかな?
「ルイ様、お迎えに上がりました。本日、部屋までの護衛はこの私にお任せ下さい。何、騎士団に所属せずとも戦闘は得意なんですよ?侍従の嗜みですから。兄には敵いませんがね」
「護衛?一般兵に?ウェルフさんが?」
「ええ、どこからどう見ても貴女は女性ですので必要かと思いまして。今後は誰か側に付くよう手配しておきます。それに、襲う馬鹿者がいるならば、ル・レイ会が抹消しますのでご安心を。君もそれで満足かな?」
ウェルフさんがクィリムに確認をとる。
いやいや、抹消とか。
ウェルフさんを思わず2度見してしまった。
「いや、満足とかそんなのではなくて、じゃない、そういうのではなく、ただレイが心配なだけで……てかルレイ会って何だ……」
「おやおや、ご存じない?では、お忘れなさい」
ウェ……ウェルフさん、黒いよ。
黒い。