224.
「ケナンヴェマ、医務室でなにか薬をもらって来てくれ、こいつの分だ」
ん?
ユイクル教官がウィルに何か頼んでいる。
ウィルが敬礼して、出ていった。
「さて、レイ。これほどの者達に性別が知られているわけだが、どうするつもりなんだ」
ユイクル教官が皆の方に顔を向ける。
話が聞こえたのか、皆はこちらを見ている。
隠しても仕方がないので、話せる事だけ話そうと思った。
皆は自分を男だと信じて友情を育んだのだ。
なのに、女だった。
表面上は何でもなくても、裏切られたと思うかもしれない。
面白くないと心の何処かで思うかもしれない。
それでも、ここまで共に来た仲間だから、あがきたい。
皆の前に移動して、緊張を解すために一呼吸する。
覚悟はできた。
皆の顔を見る。
「まずは、皆に謝りたい。騙していてすみませんでした」
深く頭を下げる。
「ご覧の通り、私は女です。裏切られたと思われても仕方がない。虫の良い話なのかもしれないですが、騎士団にはこのまま継続して所属していたい」
そして友情もそのままにと望む自分は我が儘だろうか?
従騎士になる前にも心に思い感じたが、彼らとのこの生活が楽しかったのだ。
もちろん地球にいたときも、背中を預けられる信頼も信用もできる仲間はいた。
だが、心の何処かで線引きをしていた。
昨日笑っていたやつが、ボンという音と共に気づけば土くれになっている。
そういう世界で生きてきたから。
半引退して日本に来て友人もできたけど、それでもどこか気が抜けず、無いと頭で分かっていてもいつ狙われるのかと警戒する。
慣れとはとても恐ろしく、そういうことを無意識下で行い毎日毎日繰り返し、知らず知らずに神経をすり減らす。
もちろん、日本での静かな日常はそれなりに楽しんではいた。
だけど、楽しいと感じながらも、どこかふと湧いてくる虚無感。
自分の居場所のなさ。
ぶり返す緊張感。
心は決して戦場に戻りたがっているわけではないのに、居場所はここでないと頭が叫ぶ。
ある種の麻薬のように、あの砂埃の中へ頭から突っ込みたくなる。
だけど、それも慣らされ気にしなくなり、日本での生活という非日常を繰り返しルーチン化して日々を過ごし、気づけばこの世界にいた。
過去が無くなったという、とてつもない安息。
ここで起こる全ての事柄において、自分を偽る必要が無いという解放感。
自分に向けられる好悪全ての感情が、本来の自分にベクトルを合わせて向かってくる事の喜び。
素の自分をさらけ出せる事の何と素晴らしいことか。
得難いことか。
ああ、失いたくない。
そう、失いたくない、何もかも。
こうも自分は貪欲だったのかと、ここに来て初めて知った。
だから、欲が出た。
ここに、いたい。
この場所に、いたいなあ。