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自称現実主義者の異世界トリップ  作者: GUOREN
自称現実主義者、従騎士になる
224/228

224.

「ケナンヴェマ、医務室でなにか薬をもらって来てくれ、こいつの分だ」

ん?

ユイクル教官がウィルに何か頼んでいる。

ウィルが敬礼して、出ていった。

「さて、レイ。これほどの者達に性別が知られているわけだが、どうするつもりなんだ」

ユイクル教官が皆の方に顔を向ける。

話が聞こえたのか、皆はこちらを見ている。

隠しても仕方がないので、話せる事だけ話そうと思った。

皆は自分を男だと信じて友情を育んだのだ。

なのに、女だった。

表面上は何でもなくても、裏切られたと思うかもしれない。

面白くないと心の何処かで思うかもしれない。

それでも、ここまで共に来た仲間だから、あがきたい。

皆の前に移動して、緊張を解すために一呼吸する。

覚悟はできた。

皆の顔を見る。

「まずは、皆に謝りたい。騙していてすみませんでした」

深く頭を下げる。

「ご覧の通り、私は女です。裏切られたと思われても仕方がない。虫の良い話なのかもしれないですが、騎士団にはこのまま継続して所属していたい」

そして友情もそのままにと望む自分は我が儘だろうか?

従騎士になる前にも心に思い感じたが、彼らとのこの生活が楽しかったのだ。

もちろん地球にいたときも、背中を預けられる信頼も信用もできる仲間はいた。

だが、心の何処かで線引きをしていた。

昨日笑っていたやつが、ボンという音と共に気づけば土くれになっている。

そういう世界で生きてきたから。

半引退して日本に来て友人もできたけど、それでもどこか気が抜けず、無いと頭で分かっていてもいつ狙われるのかと警戒する。

慣れとはとても恐ろしく、そういうことを無意識下で行い毎日毎日繰り返し、知らず知らずに神経をすり減らす。

もちろん、日本での静かな日常はそれなりに楽しんではいた。

だけど、楽しいと感じながらも、どこかふと湧いてくる虚無感。

自分の居場所のなさ。

ぶり返す緊張感。

心は決して戦場に戻りたがっているわけではないのに、居場所はここでないと頭が叫ぶ。

ある種の麻薬のように、あの砂埃の中へ頭から突っ込みたくなる。

だけど、それも慣らされ気にしなくなり、日本での生活という非日常を繰り返しルーチン化して日々を過ごし、気づけばこの世界にいた。

過去(しがらみ)が無くなったという、とてつもない安息。

ここで起こる全ての事柄において、自分を偽る必要が無いという解放感。

自分に向けられる好悪全ての感情が、本来の自分にベクトルを合わせて向かってくる事の喜び。

素の自分をさらけ出せる事の何と素晴らしいことか。

得難いことか。

ああ、失いたくない。

そう、失いたくない、何もかも。

こうも自分は貪欲だったのかと、ここに来て初めて知った。

だから、欲が出た。

ここに、いたい。

この場所に、いたいなあ。

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