222.
先ほどまで訓練していた所まで来る。
着くと、徐にホーク教官が口を開く。
「先程も言ったが、攻撃しようと思うから隙がうまれるんだ。いつも通りの服なら攻勢に出ても問題はない。だが、その衣装の時は重さがありすぎて動きが鈍る。もし攻撃が必要となるのなら、その事を忘れずに動く事だ」
正しくホーク教官の言う通りで、この間の夜会のように敵に不意打ちするというのならともかく、任務中はこちらへの初撃は全てにおいて受け身となる。
もし襲撃されたとして、味方が劣勢になっていたり、囮になる必要がある場合は、私が敵を引き付けなければならない。
その時に身動きできないのでは、非常に問題となるだろう。
この10日間で、ドレスを着ても何とか様になる位にはならないとまずい。
「じゃあ、始めるぞ」
先程までの教官の攻撃は、上段からの袈裟斬りが多かったが今回は突きから入ってきた。
教官がしてやったりと笑う。
自分は少し油断してしまった為、その時大きく体のバランスを崩してしまった。
咄嗟に教官の右腕を右脇に挟み、それを支えに体を立て直しつつ教官の前方向に腕を強く引く。
「んん?うぉっ!」
教官の体勢を崩せたようなので、彼の背中を両手で押し込み離脱を図る。
隙あらば、回し蹴りをして……
って、隙なんかないし。
とりあえず距離を少し置く。
ホーク教官が、今度はこちらに向けて下段からの攻撃を仕掛けてきた。
それは何とかうまくかわし、がら空きになったホーク教官の懐に入ろうと前傾になり走り寄る。
「レイっ!その…勢は駄目…よ!」
ん?
ジェイが何か言ってるみたいだけど、風の音に消されて何を言っているのか解らない。
風が強くなってきたようだ。
「え?ちょ、待て、え?」
教官の様子が少し変だが、構わず懐に入る。
勢いを保ったまま、鳩尾にと思ったら避けられた。
ちっ。
少し隙があるようなので、左回転の回し蹴りをする。
「うぇっ。ヤベっ」
油断していたのか、避けるのがギリギリだ。
回転の勢いがおさまらずドレスのスカートが足に巻き付く。
このままおさまるのを待っていれば、教官からの攻撃が来るのは自明の理。
それは避けたかったので、スカートの裾を無理矢理捲る。
あ、捲りすぎた。
「レイ!だ……って足…しちゃ!」
ジェイの声が遠い。
それより、どう教官を攻撃をしようか……
うーん。
再度前傾になり、近づいて肘で教官の顎を狙ってみようか。
よしっ。
走る為の溜めを作る。
「うわあ、レイ!」
「どう………だ?」
「おい、外野!うるさいぞ!て、おい!?」
「な!?」
「な…で……見してんだよ!て、レイ!?」
「え?うわっ!やめっ。よせっ、ちょ、駄目だ!」
教官が、片腕を顔の前にやりかばっている。
え?何してるの?
勢いを殺せず、もろにホーク教官の顎にアッパーが入った。
手が痛い……