221.
「奪ってみろよ」
ホーク教官が挑発してくる。
その言葉を皮切りに、訓練が始まった。
剣を抜いた教官が上段から袈裟斬りに振り下ろそうとしてくる。
右足を大きく前に出しそれを軸にして反時計回りに回転する事でかわす。
すかさず左手で首筋に手刀を入れようとするが、見切られていて横一閃してきた。
後ろに下がりかわし、直ぐ様姿勢を低くし懐に入り鳩尾に入れようとするが、右腕を取られ捻られる。
「やはり動きがかなり鈍いな。それに自ら積極的に攻撃しようとしなくても良い気がするんだがな」
ん?
「いや、挑発したのは俺だけどよ……その格好、とことん戦闘に向かんだろう。任務内容が想像つかんので何とも言えんが、身を守るための動きだけでいい様に思う」
まあ、そうなのかな?
実際、自分から仕掛けることは少ないだろうし。
任務中、馬車が襲撃された際にどうするかだよな。
「とりあえず俺から攻撃するので、離脱する方法を考えながら攻撃をかわせ」
ホーク教官と暫く訓練をしていると、かなり暑くなってきたのでウィルの上着を脱ぐ事にした。
このボタン本当に面倒だな……
脱いだ服をウィルに返しに行くと、リプファーグとクィリムが試合をしていた。
「2人共凄いな」
実力はどちらも拮抗している。
最終試験の時よりも、スピードも何もかもが底上げされている様な気がする。
「ああ。クィリムがあそこまで動けるとは思わなかった」
ウィルがしみじみとして言う。
「うん、あいつずっと自主練習してたから」
「ジェイ、そうなの?」
何だかジェイが得意気だ。
クィリムとは親友みたいな感じなのかな?
少し寂しいような。
「何言ってんだよ、俺は始めからレイの事を親友だと思ってたのに。レイだけじゃなくてさ、ウィルやクィリムそれにヴォイドだって」
嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
思わず、髪撫で回してしまった。
「ちょっやめ、頭抱えないで。やわ、じゃない……俺はガキじゃないから!!い゛だっ」
「何をやっているんだお前らは」
ホーク教官がどうやらジェイの頭に拳骨を入れたらしい。
気配感じなかった……
「ちょっ、納得いかない……何故殴られたのが俺なんだ?被害者なのに……」
ジェイが踞っている。
「すまん。何故だか解らんが、殴らないといけない気がしたんだ。何でだろう?」
いやいや、こちらに聞かれても解らないから。
とりあえず、手と顔で解らないのジェスチャーをしておく。
「お前ら、騒がしくするなら他所へ行け」
「へいへい。おい、レイ続きをするぞ」
ユイクル教官が注意をしてきた。
そうだった。
リプファーグたちは、今真剣なんだった。
試合中の2人に謝っておく。
「了解しました。それじゃ、ウィル、ジェイまた後で」
「ああ」
「うん、て、え?待って。レイその格好で……」
ジェイに呼び止められたので、立ち止まる。
何だろう?
首をかしげる。
「おい、行くぞ」
ホーク教官が、先ほどまでしていた場所を剣で指し示してきた。
「あ、はい!すぐに行きます。ごめん、ジェイまた後で」
ジェイが何か言いたそうだったのが、気になるな。
後で聞いておこう。
それにしても、少し風が出てきて寒くなってきた。
上着着ておけば良かったかな……
まあ、また暑くなるからいいか。