219.
「あぁ、コホン。冗談はこれ位にして、とにかく言いたい事は以上です。まあ、要約すると放置は得策ではないという事ですね」
担当教官とユイクル教官が顔を見合わす。
すきあり。
杯をあおると、幸せの味が。
あぁ、美味し……
「あ、こら。お前なあ。これ以上飲んだら、審判しねぇぞ」
担当教官に杯を奪われる。
なぬ?
それは困る。
かなり困る。
「コレイジョウハノミマセン。ワタシ、ウソツカナイ」
去らば、我が友。
また会う日まで……
「ぐっ、そんな未練がましい顔をしてもダメなものは駄目だからな」
あ、そんな、これ見よがしに何杯も飲むなんて。
ひどい。
という訳で、担当教官に審判をしてもらえる事に。
何気にウィルが疲れている。
日頃の慣れない業務でやられてでもいるのだろう。
大丈夫かな?
「確実に君のせいだと思うが……」
ん?
ウィル何か言った?
人の顔を見て溜息つくのはやめなさい。
それにしても、解らないのはユイクル教官だ。
なぜか、食堂まで付いてきている。
食堂に用事?
お腹空いてる?
「違う。何か仕出かさないか、その監視だ」
えー、まだ何も言ってないよ私。
「先程から思ったこと全部口に出てる」
だからそこ、人の顔を見て溜息つかない。
でもまあ、教官の数が増えるのは悪いことでもないか。
あ、そうだ、良いこと思い付いた。
「ユイクル教官1つお願いが」
「……何だ?」
器用に片眉あげるなぁ。
「実はこの格好での戦闘がどうも苦手でして、手解きをお願いしたいのですが」
カーテシーをして見せる。
人身売買の潜入時は、動きやすいシンプルなものだったから動くときに影響なかった。
だけど今回のような、しっかりとした作りのドレスの時は結構足元に気を使う。
何かあった時のために、備えておくのは悪くないと思う。
「待て、何故その格好で戦闘という話になるんだ」
「あ」
そうだ今回の任務は、何処まで守秘義務があるんだろう?
あまり身代わりの事は言わない方が良いのかもしれない。
でも隊員内では結構この姿見られてるけど、それは構わないのかな?
隠すつもりなら、ナリアッテが堂々と来るわけないし。
「あー、何処まで話せばいいのかあれなんですが、次回の任務で女装が必要で、慣らし期間として10日程この姿で過ごすよう命令を受けてます」
「なんだと?危険だ……」
「ええ、ですが小隊長によれば危険の確率は低いようです。しかし万が一戦闘状態に陥ることがあれば、応戦せねばなりません。ですので出来れば御指南いただければと」
「いや、そうではなく。あぁ、それもあるが……」
あれ?
反応が悪い。
業務外だからまずいのかな?
「おいおいユイクル、珍しく歯切れの悪い。今の時期、時間もあるし教えてやれよ。てか、何故俺に言わねぇ」
いやいや、拗ねるとか。
大の大人が。
たまたま近くにいたから、ユイクル教官に頼んだだけなんだけど。
「えと、すみません?もちろん、担当教官にも教えていただけるなら、とても心強いです」
教えてもらえる人数が増えるのなら、これほどありがたい事はない。
それに、もしかすると他の皆にも何か指導してくれるかもしれないし。
ちょ、何故さらに拗ねるの。
「ユイクルのやつもお前の担当教官だ。何故俺の時は名前で呼ばん」
え?
絡んできた!?
まて、もしかして教官酔ってる?
強いと思ってたんだけど。
かなり飲みすぎ?
教官は酔うと絡み酒派なのかな。
それより、そもそも名前名乗ってた?