218.
「ウィロアイドか、どうし……た」
元担当教官が固まっている。
いやお酒溢れているから。
て、ユイクル教官もこちらを見てないでお酒の事指摘してあげて。
あぁもったいない。
駄目だ。
あのままにはしておけない。
お酒の神様がお怒りになる。
私が救わねば。
思わず教官の手から酒瓶を引ったくり、ついでに教官のグラスに入っていた分を飲み干した。
「あっ」
「レイ!?淑女だろう!?はしたない!」
「おい、ユイクルなにい……」
「ユイクル教官、お言葉ですが、女性にしか見えませんがレイは男ですよ?」
「あ!?あぁ、男でしたね、ええ、男ですよ、もちろんそう、男……」
うそ、これ物凄く美味しい。
やだ、止まらない。
でもこれキツいやつだ。
でもこのお酒、これ以上はやめておいた方が良い気がする。
あぁ、でも美味しい……
私は今凄く試されているのでは!?
飲むべきか飲まざるべきか、それが問題だ……
「なんの問題もありません。今すぐそれを飲むのはやめなさい」
「あぁ、レイか。うん、レイだよな。この飲みっぷりは間違いなくレイだ。で、男だ。男だな。うん」
何か担当教官がウンウン言い出したので、誘惑には抗えず、こっそりもう1杯。
日本酒に近いすみわたった味。
鼻に抜け、喉を越し、胃にはいる。
はぁ、この瞬間がたまらない。
足をバタバタさせたくなるほど美味しい。
ああ、旨い、もう1杯。
「あ、こらやめないか!追加で飲もうとするな」
「それにしても……お前よく化けたなぁ」
ん?
「な……」
「なんて羨ま……ではなく、よせ!」
ひー担当教官にセクハラされた。
胸触られた。
もう、お嫁に行けない。
「うん、やはり男だな。分かってはいたが……」
……ノヤロ。
確かに先程谷間なくなりましたけど?
元々胸はありませんけど?
え?
もしかして、触られても女と気づいてもらえないレベルなんですか?私……
ヤバい?
本当にお嫁に行けない?
いや、行く気はないけど。
「一体お前は何を言っているんだ」
ユイクル教官が、どことなく疲れている。
仕事大変なのかな?
「全くです」
取り敢えず返事したら、ウィルとハモったので微笑んでおいた。
微妙な顔をされた。
凹んだ。
「あー、まーなんだ、ウィロアイド。ここに来た用件はなんだ?」
「あ、え?あ、はい。申し上げます。実は、貴族出身のリプファーグと平民出身のクィリムが些細なことから試合することになりまして、立ち会いをお願いしたいのですが……何分貴族と平民の間での事なので、禍根を残さぬために教官に立ち会いをしていただけるとありがたいです」
「何をやってるんだ、お前らは」
「あー、ハイハイ」
発言を求めるために、挙手をする。
胡乱気に見てくる教官2人。
「……何だ?」
「うん、今回の喧嘩は確かに些細なことから発展してます。もし、あの2人を放置して禍根を残したまま喧嘩別れとなったとして、事はそのまま収まってくれますかね?」
「続きを聞こう」
担当教官が続きを促す。
「ええと、続けます。つまり、クーデターじゃなかったテイクオーでもなく、反乱?の種にならないかな?とか思ったり」
「たかが喧嘩で何故そうなる」
「意外と平民の貴族嫌いが多いこと。それに輪をかけて貴族が平民を嫌っていること。そういう綻びが業務を怠慢にし、指揮系統の乱れに繋がり、任務遂行の際の妨げになり得ませんか?切っ掛けさえあればいつでも発火する火種のようですね。さあさあさあ、何だか審判したくなりませんか?何なら、今から飲み比べで決めても……」
「駄目だ」
「却下だ」
「それ以上飲むのは止めておけ」
皆に止められた。
えー。
だから何故そこで全員溜息つくの。