216.
大声を出してジェイが戻ってきた。
うるさい。
「ジェイ、騒ぐな」
ウィルがジェイに注意している。
「ごめん。それよりなんか面白そうな話してるけど」
「うん、リプファーグとクィリムが今から剣で賭け勝負するんだって」
心なしかジェイの目が煌めいた気がする。
「うわ、何それ面白そう」
錯覚ではなかった様だ。
自分もという幻聴が聞こえる。
「そんなことより、先に夕餉をとれ」
ウィルが夕食を促す。
「あっそうだった」
もしかして、忘れてた?
食欲魔神のジェイが珍しい。
「でもさ、自主練ならともかくとして、試合形式にするんだったら教官呼んだ方がよくない?」
ジェイがそう提案してきた。
喧嘩中の2人が白熱すると思わぬ怪我もあり得るので、呼んだ方が良さそうだ。
それに勝敗が関わると、素人判断の判定じゃ後々禍根に繋がりかねない。
水掛論争にまで発展すれば、更に面倒になる。
ここは有無を言わさぬ判定人が欲しいところだ。
まあ、私闘を禁じられてなければだが。
「賛成だな」
「そうだね。前の担当教官にお願いするのは?あの人なんだか暇そうな印象あるし」
「うん、いいんじゃないかな?」
おいジェイ、食べるか話すかどちらかにしないと、ほらこぼれてる。
「わわ、ちょっ、レイいきなり何するんだ」
何ってお前、その惨状を見て見ぬ振りをしろと?
持ってたハンカチでついでに口回りも拭いたら、固まった。
「俺はガキじゃない」
拗ねた犬みたいになってる。
それが余計子供っぽく見えるのだが、言わない方が良さそうだ。
「あ、リプファーグ、その試合少し待って」
試合の準備を始めるために出ていこうとしていたリプファーグがこちらを不思議そうに振り返っている。
「どうかしたのか?」
先程の案を伝えてみる。
「なるほど、それもそうだな。クィリムもそれでいいか?」
クィリムも異論がないのか、頷いている。
「じゃあ、ここで待ってて。今から呼んでくるから」
「レイ、まさかその成りで行くつもりなのか?」
立ち上がり出ていこうとしたら、リプファーグが驚きの表情で待ったをかけてきた。
「え?何か問題ある?」
何に驚いているんだろう。
「あるだろう。この時間に供も付けず男の部屋に1人で行くなど」
ジェイもクィリムも頷いている。
ん?
何が問題なんだ?
ただ教官呼びに行くだけなのに?
「大体君は何故ここに1人で来たんだ。いつものあの男はどうした」
うぐ。
古傷を……
ヴォイドのことは一旦忘れ様としていたのに。
「あ、うん。色々あって。上からの命令で別任務に着いたよ」
リプファーグが今日何度目かの驚愕の顔をしている。
「なっ、こういう時に役に立たないとは。なんのための護衛だ……」
「え?気づいてたの?」
「あれで気付くなと言う方がおかしい」
そうなの?
どうやらリプファーグは、ヴォイドが護衛だという事に気付いていた様だ。
鋭いんだな。
「えー、俺全然気付かなかった」
「ジェイは鈍いからな」
「え、それ言う?ウィルが言っちゃう?」
だからジェイ、食べてから話そうね。
「話元に戻して悪いんだけど、レイが1人で行くのは俺も反対だよ」
クィリムが少し不機嫌そうに言う。
今日はどうも虫の居所が悪いらしい。
「なので、私が共に行こう」
「なっ」
「んぐっ」
リプファーグから申し出があるが、準備もあるし。
クィリムもな。
というかジェイ、凄い勢いで食べ始めたけど大丈夫かな。
イグプリームさん、ジェイ用にいつも大盛りなんだけど。
喉摘めるなよ。
「あー、じゃあそれならウィルに頼むよ。リプファーグもクィリムも試合準備あるし、ジェイは食べてるから。ウィルはそれでいいかな?」
「ああ、問題ない」
え?
そこで何故他の3人は私に失望してるんだ。
何か気に障ることでも言ったのだろうか……
少し凹む。




