215.
ジェイに色々申し訳ないと思いながらも、空腹には耐えられず先に目の前の食事をすることにした。
今日の夕飯は、魚尽くしだ。
何かの実を揚げて魚にまぶしたものに、この間教えたソースの進化系がかけてあった。
更に赤く細い何かをツリーに見立てた飾り付けがそえてあり、見ても愉しく食べても美味しい一品。
さすが宮廷料理人。
見目も味もこだわりの逸品だ。
これが前菜だから、贅沢だよなあ。
次に魚介類の出汁をベースにしたクリームスープ。
魚のこくがたまらん。
臭みもとれてる。
ただ量が少ない。
もっと欲しい。
メインは、白身魚と貝の酒蒸し。
野菜とキノコもたっぷり。
これは貝が絶品でした。
駄目だ、お代わりが欲しい。
だが残念なことにドレスが邪魔をして、これ以上食べるのは危険なようだ。
息が出来なくなる。
本日はデザート付き。
タルト生地の上に何か甘くてとろける食感のケーキっぽい何かだった。
一度食べたらやめられない。
別バラとはまさしくこの事。
ウィルが甘いものを苦手としているらしく、彼の分を追加でいただきました。
御馳走様です。
イグプリームさん今日も美味しいご飯をありがとう。
感想をストレートに彼に伝えていたら、明日はどうやらシノヤカさんが作ってくれるとのこと。
シェフが変われば味も変わるので、楽しみだ。
「今日の一品目のたれなんだけど、昨日のを少し工夫してみたんだ。その時にシノヤカのやつに教えたんだけどよかったよな?」
イグプリームさんが、申し訳なさそうに報告をしてきた。
「構わないです。昨日もお伝えしたように、広めていただきたいので」
もう遠慮なくどんどん広めてください。
そしてもっと美味しいソースをバンバン開発していって下さい。
さて、本日のメインイベントへと参りますか。
「おーい、リプファーグにクィリム。そろそろお互いの文句言い尽くしたと思うんだけど」
食事をする前から何やら不毛な言い争いをしていた2人に、こちらへと注目させる。
「生まれは自ら選べない。そんな変えられないことをどうこう言い合うよりは、今できることでお互い何とかした方がいいんじゃないか?」
意図が解らないという顔を2人が向けてくる。
ジェイが置いていった、模造剣を掲げる。
「あー、そう言えば……忘れてた」
ニヤリと笑ってそれを見せると、どうやら2人は理解してくれたようだ。
クィリム忘れてたのか。
自主練するって。
「おい、クィリム」
「なんだよ」
「賭けをしよう。もし俺がこの剣でお前に勝てば、先程の言葉は撤回してもらう」
リプファーグはどうやら試合で決着をつけたいようだ。
「俺達の金で生活している親の、脛かじり坊っちゃんが甘えたこと言うなと俺が言った言葉か?撤回も何も、事実だろ」
「そうだ。お前の言うことは一部は正しい。だがそれが全てではない。平民であるからという前に、お前自身が貴族のなんたるかを解っているとは私には思えない。なのでその意見に同意するわけにはいかない。それに何よりも、憶測だけでものを言われるのは不愉快だ。貴様なら解るだろう?ウィロアイド」
「なぜクィリムがお前で私が貴様なのだ」
そこ?
突っ込むところはそこなの?
ウィル……
「それにレイがこの2人を止めないのも不思議だ。いつもなら止めに入りそうなのに」
え?
これ止めるの?
私が?
「あ、いや、踏み込んでいい話ではないなと思ったからだよ。異国人の自分にはこの国の貴族と平民の確執の深さが解らない。故郷には同じような構図はあるものの、形作るその構成自体が根本的に違うので、比較にならないし」
日本や他の国にも、似たような構図はあるにはあるんだけどねぇ。
公務員かそうでないかというような。
だけど公務員と貴族の共通項は税金しかない上に、そもそもその公務員になるのに出自は原則ほとんど関係ないし。
今回論点になっているものに当て嵌めるのもおかしいだろう。
それに、自国の概念持ち出して他国の独自文化についての議論にダメ出しとか、ないわ。
「そういうものか?」
「そういうものです」
むしろ、ウィルが止めればいい気がする。
援護は任せろ。
「まあ、いい。とにかくクィリム、勝負しろ」
「ふん。じゃあ俺が勝ったら……俺が勝ったら……俺が……どうしよう?何にしよう?」
え?
それこちらに聞くの?
「勝ってから考えればいいんじゃないか?」
ウィルが助け船を出す。
クィリムってウィルには、突っかからないんだな。
ジェイの影響?
「あ、そっか。それもそうだな。じゃあ、やらない……」
「あーーーっ!」
食堂内は静かにしましょう。