213.
なんて顔して、こっちを見るんだ。
居たたまれない。
頼むから普段通りでお願いします。
「い、今のはなし。今のはなしで。私、レイです。レイだから、お願いだから、いつも通りにして下さい」
身振り手振りで必死になって訴えると、ようやく我に返ったらしい面々が、席に着いた。
2度見とか、勘弁して下さい。
変わらないから。
「本当にレイか?」
ウィルに穴があくほど、見つめられる。
良かった、ここ光源が少なくて。
化粧で誤魔化すと言っても、深い皺までは誤魔化せないし。
蝋燭万歳。
「残念ながら、本物です。わけありで、しばらくこの格好でないといけないって言われてて」
任務内容を自分から言うわけにはいかないので、ぼかして伝えておく。
いや、そもそもこの格好でうろうろして良かったのだろうか?
いや、ダメだったら事前に伝えてきてただろうし。
なにしろ、ル・レイ会が1枚かんでいて娯楽的な何かに利用さていそうだから、今一本気度が窺えないというか。
シンヴァーク様は巻き込まれて何だか可哀想ではあるが、運が悪かったと思って我慢してもらおう。
そもそも私が従騎士の時点で何気に運が悪いよな、あの人。
「レイってば、何だか大変そうなことになってるよな」
クィリムの言葉に思考を中断させる。
「俺だったら嫌かも、女装なんて。それにしても……これ、どうなってんの?」
いきなり伸ばされたクィリムの手に反応できず、胸を鷲掴みにされた。
「っぁ、やめ……」
こら!
揉むな、摘まむな。
やめろ。
それ以上はやめろ。
ずれる。
せっかく造ったなけなしの谷間が、ずれる、無くなる。
谷間が無くなる。
奇跡の谷間がっ。
奇跡のっ。
あぁ。
「いでっ」
ウィルとリプファーグ両方に頭を小突かれて、机に突っ伏しクィリムはそのまま動かなくなった。
しばらくそうしてろ。
くそ、せっかく寄せたのに、脇に逃げられた。
カップが微妙に余って、胸辺りが残念な感じに。
どうしてくれるっ。
思わずクィリムを睨んだ私は悪くないはずだ。
「なんて羨ましいやつだ。さすがにそれは2度目は出来なかったぞ、1度目は偶然だったが……」
ぼそぼそとリプファーグが呟いている。
そういえば、リプファーグには生乳を拝まれてるんだった。
触るつもりでいたのか!?
しかも2度目!?
1度目っていつ!?
「あ、いや、あれはわざとではないんだ!本当だ。信じてくれ!」
浮気でもしたかのような台詞をはかれても、1度目というのはどうも思い出せない。
一体いつ触られたんだ、私は?
「それにしても、よくできてるなその胸……」
ジェイ、これ以上残念な胸を見ないで。
もうこの歳になると、どんなに揉もうが鶏肉とキャベツを食べようが大きくはならないんだ。
思わず隠す。
ウィルが咳払いをした。
ナイスタイミング。
さすが、同期会の良心。
「あ、ごめん。端から見たら変質者だな、俺。それにしても、本当に女の子にしか見えないよな」
ジェイの言葉に、ウィルが頷いている。
復活したクィリムが、とても何か言いたそうだ。
とても。
これは流石に気付かれたか?
気付いたか、やはり。
だがしかし、自分から言うわけにはいかない。
リプファーグが微妙な顔をしてジェイとウィルを見ている。
ジェイがリプファーグの視線に何かを感じ取ったらしい。
「え?あれ?もしかして、レイっておっぶ」
ジェイが何かを言いかけたので、咄嗟に口を塞いで黙らせた。
「んなっ」
「おい、あぶっ」
「げっ」
口を塞いだ時に、勢いがつき過ぎたらしい。
バランスが崩れて、ジェイ共々椅子から落ちた。
このままだとジェイが頭を打ちそうだったので、咄嗟の判断で彼の頭を抱え自分が下になるように体を捻った。
もちろん受け身はとったものの、背中をいささか打ち付けた。
痛いものは痛い。
情けなくも、しばらく動けなくなった。
背中の痛みを収める間、無意識のうちに抱き込んだジェイの後頭部を撫でていた。
本当に相変わらず触り心地のいい髪だ。
癖になる。
ジェイの髪で気持ちをそらし痛みを和らげていると、違和感に気づいた。
おかしい。
なぜジェイは動かない?
いつもなら、なにがしかの抵抗反応があるのに。
まさか、体を捻った時に彼の頭も捻ったか?
やってしまったか!?
あ、いや落ち着け、大丈夫。
荒いが呼吸は感じる。
とすると、椅子にでも頭が当たって気絶したのだろうか?
頭を動かさないようくまなく丁寧に調べるが、血も出ていないしコブも出来ていない。
どうした?
なぜ動かない?
自分が下敷きになったので、ジェイには怪我はないはずだけど。
「お前、いつまでそうしているつもりだ!」
撫でていた頭が急に、消えた。