210.
宗谷英規がファインさんに強制退出勧告を行い、2人揃って出て行った。
去り際ファインさんがこちらに助けを求めてきたが、宗也さんの視線で一蹴されていた。
うー、すまん。
ファインさん、頑張って仕事を片付けてください。
生きていたら、明日またお会いしましょう。
ファインさんのコミカルな動きで、胸のモヤモヤが少し晴れた気がした。
セラ小隊長とアイルさんも、どうやらこのタイミングで去るようだ。
すれ違い様、セラ小隊長に危うく頭を触られそうになったがきちんと結われているのに気づいたのか、やめてくれた。
手持ちぶさたになった手を口と連動させててぱくぱくさせている様は、まるで金魚か鯉のようだ。
少し可愛いく思ったのは秘密にしておこう。
問題はアイルさんだ。
今の今まで私と気付かなかったのか。
出て行こうとしていたところをわざわざ戻って来て3度見するとか。
「え?嘘だろ?お前、レイか!?」
あー、まあ確かに、アイルさんが入ってきてすぐに気配消していたし、それから誰も私の名前呼ばなかったしなあ。
宗也さんは始終、多田って呼んでいたから気付かなかったのも無理ないか。
「女装中は、琉生でお願いします」
にこりと笑って注意してみれば、アイルさんの体が跳ねた。
「お……おおおおおぅ。そ、その。あー、えーとだな。……ありだ。うん。……あり。いやいや、まてまて、違う。違うぞ?俺。そうではなく、綺麗だ。あ、いや、似合ってる。でもなくて。あぁもう、どうなっているんだ俺。つまり言いたいことは、そのまあ、違和感ないなってことで。はぁ。男が似合ってもだな…とにかくまあ、たとえ男が女装似合っていても気落ちせず任務に励め、ってことだ。じゃあなっ。……ぃでっ」
アイルさん、言いたいことを言って扉へ頭を盛大にぶつけて出ていった。
痛そう。
今のはアイルさんなりのフォローみたいだったが、あれってフォローになっているんだろうか?
女である自分にはよく判らないな。
ほら、あれだ、認識すれば事実になるというし。
私は女、私は女……
言いながら、ナリアッテと自分の胸を見比べてしまった。
虚しい。
残っていた女官さんは、さりげなく部屋のセッティングをして音もなく辞していった。
暇の声がなければ、存在さえ忘れていた。
ナリアッテとウェルフさんはここに残り、今までの私の仕事を引き継ぐようだ。
ウェルフさんはシンヴァーク様に、ナリアッテは私に付く。
彼らは本職なので、私からは特に何もいう事はないだろう。
あるとすれば、訓練のスケジュール位だろうか?
ああ、後エアエイの準備。
ウェルフさんなら、エアエイ任せても安心だね。
出来れば、私にも一杯。
さて、この後私は何をすればいいのだろう。
あ、ウィルと鍛練するんだった。
この格好で鍛練……は無理だよねぇ。
ふと、顔を上げるとシンヴァーク様と目が合った。
なにかを決意したかのような顔になっているが、どうしたんだろう?
こちらへ向かってくる。
もしかして、また何か私やらかしたか?
「お前は、お前は……!」
シンヴァーク様が近づいて来る。
うわあ、何に怒ってるんだろう?
思い当たることがいくつか。
やはり、しばらく無視してたのがいけなかったのだろうか?
紹介とか必要だったかなぁ。
やっぱり。
「……もしかして、本当に女なのではないのか?」
えぇ、えぇ。
そうですね。
もう形式美ですよね。
いちいち確認とるのが、私に対して今ではお約束なんです。
不文律なんですとも。
「私は……」
その確認される度に、自分でも確認せねばならないとは。
なんてこった。
「お……」
「お?なんだ」
「お……」
あぁ、いいとも。
言ってやる。
私は意を決した。
「男ですっ」
あぁ……